HPリニューアル原稿:アプトスとエックストーシスについて(2)

 厚労省の方針で、美容外科のHP中の、単純な「before→after」の写真解説が、今年中に規制されて出来なくみたいです。誤解を招きやすいからだそうです。  それで、HPのリニューアルに向けて、    基本的な事項をまとめていこうと考えました。写真は入りますが、単純な「before→after」でなく、むしろ詳細な経過写真と解説なら、趣旨から考えて許されるのではないか?と今のところは考えています。
 HPのリニューアルのためなので、ところどころ、現在のHPやブログの写真と重複しています点、御了解ください。

(1)(→こちら)の続きです。

 前回、返し付き糸によるたるみ引き上げの施術には、形成外科的な手術の技術・経験とはまた別の技能が必要だ、といった趣旨のことを記しました。
 補足ですが、糸そのものの素材も重要です。

 最近、女医さんが(うちのクリニックは多くの女医さんが糸を入れに来ます。これまでにたぶん100人くらい入れてます)、「たまたま糸を入手したので、これを入れて貰えないだろうか?」と糸持参でいらっしゃいました。韓国の美容外科材料を扱っているそれなりに名の知られた企業が販売している糸です。拡大してみるとこんな感じです。

「この糸はねえ・・先生、悪いけど、使わないほうがいいよ。引っ掛かりが悪いし、千切れるかもしれないよ・・。」
 私が使っている糸を同じように拡大してお見せしました。

拡大倍率は同じです。
 違いは、

1) 「返し」の数(密度)が違う。

2) もともとの糸の太さが違う。韓国のものは糸が細いので、返しも浅くて弱い

3) 韓国のものは、「返し」がスパイラルに刻まれてしまっている(直線状に配列していない)。

 スパイラルに刻まれている糸は、切れやすいです。なぜかというと、強く引っ張ったときに、一側のみに刻まれている糸では、刻みの反対側のラインは、まったく温存されているので、芯が通っていて強いですが、スパイラルに刻まれていると、どこかで切れやすいです。

 理解しにくいかもしれませんが、下のように切れ目を入れた二枚の紙を作って、両側から引っ張ってみてください。
右側の紙のほうが、千切れやすいはずです。
わたしが使っている糸の形状は、私自身が試行錯誤の上デザインしました。そのパラメーターは下の通りで、0.01mmの精度で、その分加工代は高くなりますが、特別に製作してもらっています。

 原糸は、プロリンという、心臓外科手術の縫合でよく用いられる医療用の糸です。
わたしの場合は、これを自分のクリニックで仕入れたのち、加工して使っているわけです。
 うちで使っている糸は、どんなに強く引っぱって引き上げても、絶対に切れません。だから、恐る恐るではなくて、思いっきりたるみを引き上げられます(先回示したエックストーシスの動画のをご覧ください)。

 もともと、このアプトスという「糸での引き上げ」の技術はロシアで開発され、当初2003年に開院したころは、私を含めて日本の先生たちは全てロシアから糸を輸入していました。
 その頃の糸は下図のようで、おそらく手造りなのでしょう、ときどき赤矢印のように、折れ目があり、注意深く検品して、2~3割は私は廃棄していました。
この糸には特許が無かったようで、その後、世界中で、コピー製品が出回りました。中でも韓国は、「糸に自分で切れ込みを入れる機械」という、簡単なミシンのようなものを、たしか当時で20万円くらいでしたが、売り出して、日本のお医者さんの中にも、これを買って糸の自作を試みた人もいると思います。
 おそらく、今回女医さんが見せてくれた糸は、韓国のメーカー製ではありますが、この機械で韓国の職人さんが下請け仕事として製作したものでしょう。昔見たのと同じ形状だからです。

 この、糸の材料としての重要性については、形成系の美容外科学会(JSAPS)でも、もうひとつの門戸の広い美容外科学会(JSAS)でも学会報告して、警鐘を鳴らしたのですが、皆さんあまり危機感を感じずに、今に至ってしまったような気がします。

 わたしは、あまり性悪説で物事を考えたくないのですが、形成外科系の先生がたは、この「糸での引き上げ」に関心を抱かない、あくまで「切るリフト」の前準備みたいな存在ととらえて、「あまり効かなければ、かえって好都合」みたいに考えてるんじゃないかとさえ思ってしまいます。また、チェーン展開している美容クリニックなどでは、やはり仕入れ単価が最重要でしょうから、効きや持ち以前に、安い糸を選択する、という結果になっているんじゃないかと思います。

 お客様の側にしても、ボトックスやヒアルロン酸について、メーカーに注意する人はいるでしょうが、糸について、気にする方はいないですよね?私はまだお会いしたことがないです。だけど、本当に重要なんですよ。
 多分ですが、わたしは皮膚科出身でありながら、このプチ整形というか、小手先的な施術を好んで、それを生業・売りとしてクリニックをやってるから、糸の材料にまでこだわっているという、とてもニッチで稀な存在なんでしょう。
 まあ、私より上手な人が、この「糸での引き上げ」に目をつけて、どんどん追及して成果を出してしまうと、私の「売り」が無くなってしまうから、現状、私にとってはそんなに悪くは無いんですけどね・・。
 しかし、「たかが糸、されど糸」。それなりに奥は深いですよ。
 よそで糸を入れて、「糸なんか効かない、もうこりごり」と思い込んでいらっしゃる方、よかったら、うちで一度糸入れてみてください。よそでやったことある方は、たぶん、違いがはっきりわかると思いますよ。そうおしゃって下さる方多いですから。

 さて、はじめのお話の女医さんは、拡大像と説明に納得して、うちの糸を入れてお帰りになりました。最近(2012年時点)のよその糸を拝見・確認することが出来て、私としてはとてもラッキーでした。有難うございます(^^;。
(2012年2月5日記)
<<(3)>>へ続く。