若い先生たち


タイのチャニサさん(→こちら)が、日本の大学に留学中の皮膚科と形成外科の大学院生のお友達をつれて、見学にいらっしゃいました。糸の施術の見学をご許可頂いたお客様、どうもありがとうございました。

下は、お客様ではなく、お昼休みにうちのスタッフに糸を入れているところ。見学の先生が来ると、スタッフは何かしてもらえるので、わくわくです。

 右の二人は、それぞれ中国の広州と、ミャンマーからの留学生です。ミャンマーからの留学生と言うのは初めてお会いしました。お父さんはやはりお医者さんで胸部(内科?外科?)が専門だそうです。「君は母国の美容医療のパイオニアだね」と言ったら、「そうなりたいです。」と素直な返事でした。
若い人って未来があっていいなあ。

話は変わって、これは下半身用のビタミンCローションの試作品。チャニサさんはじめ3人に紹介したら、けっこう好感触でした。やっぱりこれいいんじゃないかな。世界的にまだこういう商品ないみたいだし。

 先日のキャッチ「ビタミンCで健康<膣>生活」は、咲江先生のところのスタッフさんたちの受けが良くなくて(9割方で不評とのこと・・)却下となりました。ハートの中に膣を赤で入れたのが、経血を連想して気持ち悪いとのこと。こういう感覚、男の私じゃわからないからなー。

 それで、新しい案はは下図のようです。スプレータイプのはChouchou(シュシュ)、シリンジで入れるジェルタイプのものはTutu(チュチュ)という名前にしました。Chouchou(シュシュ)はフランス語でペットの意(モンシュシュってケーキありますね)で、Tutu(チュチュ)はバレエのときに腰につけるスカートのようなものです。このネーミングは可愛いと好評です。えへん。

 最近私は咲江先生のファンになりつつあるんですが、彼女はかなりな社会的活動派で、低用量ピルの普及や思春期の子どもの性教育につとめています。咲江先生が私に似て変わっているのか?と思ったらそうではなくて、中高生への性教育を婦人科医が積極的に行おうって活動が全国的にあるみたいですね。詳しくは咲江先生のブログ記事(→こちら)やこちらをご参照ください。
私も昔、社会活動のまねごとのようなことしたり、保険診療で不採算で行き場の無くなったような患者を国立病院で引き受けたりしていた時期もあったんですが、結局無理してたのでしょうか、疲れちゃって美容にひきこもりました(→こちら)。
自分にはもう咲江先生のようなことはちょっと出来ないけれど、咲江先生のように社会的に活動する気持ちを保ち続けている方を応援したり紹介したりすることは出来るので、いまこうしてブログで書いています。咲江先生が共同代表をつとめる「あいしけん」のページは→こちら。こういった活動なさっている方たちに心から敬意を表します。
で、表題の「若い先生たち」ですが、留学生の先生たちのような年齢的に若い先生もいれば、社会活動に情熱を持ち続ける、精神的に若いというか強い先生もいますね。いやこの場合は若いと表現してはかえって失礼で、その反対、より成熟しているのかもしれませんが。

(2015/06/27 記)

追記
シュシュとチュチュの販売開始しました。(下の画像をクリック)

http://www.tclinic.jp/VitaminC.html

ビタミンCで健康<膣>生活



先回の記事(→こちら)の続きです。
ビタミンCでの膣ケア製品の話は、予想外に好感触で、お客さんからも「サンプルあったら使ってみたいです!」という申し出がありました。
その中のお1人かつ御夫婦とも医療関係の方にお願いして、データをとってみました。
どういうデータかというと、性交をしたあと、膣内は精液や愛液によってpHが中性に傾くであろうと予想されます。この確認と、性交直後にビタミンC(100mg)をシリンジで膣内に注入した場合(膣内は速やかに酸性を回復すると予想されます)の変化です。
これがまた、予想通りのきれいな結果となりました。

 コメント:「ビタミンC注入30分後は、膣に精液のにおいがしない(無臭)。性交をした痕跡が無くなる。」

正常な膣というのは、乳酸菌が乳酸を産生することによって、pHが4.0付近に保たれています。この弱酸性下では、黄色ブドウ球菌などの雑菌・病原菌は繁殖できません。

しかし、性交後というのは、上記データのように、約半日間、pHが中性に傾くようです。この間は、細菌性膣炎のリスクが高まるといえます。従って性交直後にビタミンCを注入して膣ケアを行うことは、正常な乳酸菌の回復を速めることとなり(乳酸菌だけは酸性下でも成育するからです)、細菌性膣炎の予防に役立つでしょう。

精液臭が無くなると言うのも、おまけですが有用な情報です。何かのときに活用できそうな話です。

現在、ほぼレシピは固まったので、量産の準備と、通販サイトの下書きをしています。通販サイトに用いるイラストはプロに描いてもらうのですが、私が描いた下書きがスタッフたちに結構受けたので、以下にUPしてみます。ご笑覧下さい。

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なぜ膣にビタミンC??
膣の粘膜はとてもデリケート。でも守ってくれるナイト(騎士)のような乳酸菌がいます。乳酸菌は「乳酸」という酸を出して、ほかの雑菌がはびこらないように大切な粘膜をガードしてくれています。
頼もしい乳酸菌ですが、ときどき弱ることがあります。するとここぞとばかりに、悪い雑菌がはびこって、わがもの顔でいろいろ悪さを始めます(細菌性膣炎など)。
ビタミンCは弱った乳酸菌ナイトを復活させる魔法のドリンク剤のようなものです。ビタミンCでパワーアップした乳酸菌は再び力強くあなたの膣を健康的にガードしてくれます。
どんな風に使うの?
<ジェルタイプ>
(1)一日1~2回、付属のシリンジで1mlを吸い取って、外陰部に塗ってください。おりものの臭いが気になる、多いなど、症状の強い方は、婦人科の先生と相談した上で、シリンジを膣の奥までやさしくそっと入れて1ml全量を注入してください。これを6日間、あるいは症状がおさまるまで続けます。
(2)セックスのあとの膣は半日ほど雑菌が感染しやすい状態になっています。セックスの直後にジェルを用いる習慣をつけるとセックスの後の臭いやむれを予防することができます。
(3)婦人科の先生から頂いた抗菌剤の膣錠がある場合の併用は可です。抗菌剤による治療が終わった後に引き続きジェルを使用するのも、乳酸菌を育ててくれるので意味があります。
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イラストレーターの方に、「ハートを膣に見立てたのはいいアイデアです」と褒められました。ちょっとうれしい。
(2015/06/23 記)

追記
シュシュとチュチュの販売開始しました。(下の画像をクリック)
http://www.tclinic.jp/VitaminC.html



鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継



カメラ買い換えました

 
診察室のカメラ買い換えました。

EOS 5Dsといいます。本日(6月18日)発売されたばかり。半年前から予約していました。

どこが新しいかと言うと、画素数が5060万あるんです。
今まで使っていた1DsMarkⅢが2110万画素ですから倍以上です。


上はうちのスタッフさんをポートレート撮影したところ。左は1Dsで右は5Dsです。
撮影後の画像の眼の下(赤四角)を拡大していくと、1Dsではだんだん荒くなってきますが、5Dsでは睫毛一本一本まで鮮明です。小さな色素斑もくっきりと検出できます。


昔、国立病院で皮膚科の外来をやっていたころは、まだデジカメは画素数が荒くて使用に耐えなくて、ポジフィルムで撮影していました。外来一コマ(半日)毎に、24枚撮りのフィルムを2~3本使い切ったものです。自分は保険診療で開業しても絶対に採算がとれない、つくづくそう思いました。
開業したころに、初代のEOS-1Dsが発売されました。これは1000万画素を超える初の画期的なデジカメでした。フィルム写真と同等の解像度を得るためには1000万画素が必要と考えられていたからです。当時本体だけで100万円くらいしたと思いますが、迷わず購入しました。
その後、1670万画素のEOS-1DsMarkⅡ、2110万画素のMarkⅢと新製品が出る度に買い替えましたが、数年前に1DsMarkⅢが廃版になって、それ以降Canonは静止画像の高画質を追求するカメラの開発を中止したかのようでした。
残念ですが、しかたがないとも思いました。これ以上高画質のカメラを開発しても、私のようなごく少数のユーザーは歓迎して購入するでしょうが、数は売れません。それならば、機能はそのままで、より低価格の商品開発にエネルギーを注いだ方がいい、そういう時代です。
私は、EOS-1DsMarkⅢが静止画デジカメの最高峰で、しばらくはこれを超えるカメラは現れないのだろうと考えていました。
そこに、5000万画素超えのEOS 5Dsの登場です。ほんとうにうれしい。

カメラの話が長くなりましたが、レーザーでも似たような話はあります。たぶん、車とか家電製品とか、あらゆる機械に共通することではないでしょうか。
下は、うちのクリニックにある2台のQスイッチYAGレーザーです。右の白いものはMedLiteⅡといって、もう20年くらい前に発売された機種で、左はC6といって比較的新しい機種です。

レーザーというのは、画期的な新製品が出ることもありますが、従来品をコンパクトにして安価にしただけの製品も多いです。キャノンの高性能機種が一時ラインアップから消えたのと同じです。
MedLiteⅡというのは、その昔京都の鈴木晴恵先生らが、はじめて日本にQスイッチレーザーを導入したまさにそのもので、本当に機能として必要最小限にして十分、過去にこのレーザーを使った経験のある先生で、このレーザーを悪く言う人はいないと思います。「あのレーザーは良かった」と懐かしむ方は何人も存じ上げています。

MedLiteⅡ、私のクリニックではまだ現役です。内部は基盤も含めて三回転くらい交換しました(新しい機種を購入した方が安いと言われました)。しかし私はこの機種の良さをよく知っているので、変えられないのです。廃版なので念のために、部品取り用にと中古を一台購入して予備機として持ってもいます。
ほとんどの機種がトップハットのビームプロファイルを採用して横並びになってしまった中、中央部ほどエネルギー密度が高くなるガウシアンの鋭さと初期モデルならではの口径の小ささ(これがかえって細かいしみに丁寧に対応できていいんです)は、まさに職人の道具と呼ぶにふさわしい。

隣のC6は、いまたぶん日本で一番台数の出ているQスイッチレーザーでしょう。肝斑のレーザートーニングでは標準機腫で、ビームプロファイルはトップハットです。二つの分院に一台づつ置いているので、私はC6を3台と、MedLiteⅡを2台、合わせる計5台のQスイッチYAGレーザーのオーナーです。
C6の後継機種もありますが私は魅力を感じません。日本でのQスイッチレーザーの歴史はMedLiteに始まります。まさに革命でした。次の小革命がC6などが採用したトップハットです。低出力での肝斑治療が安全に出来るようになりました。

まあ要するに、機械っていうのはカメラもレーザーも、ただ新しければいいってものじゃないってことです。なぜそれが新製品として世に出たのか?という理由をよーく考えなければいけません。MedLiteⅡのような古い廃版の機械のほうが実はシンプルで使いやすくてさらには故障しにくいっていうパラドックスが物語っています。
昨今は、初期購入価格は安くなったけど、定期的なメンテナンスが必要、かつ一定期間がたつと確実に壊れるという機械も多いですからね。カメラや家電でも同じでしょう。

機械の話ばかりでつまらないという方のために。
先日あさこ先生の変身画像UPした(→こちら)ところ、あるお客様から「ぜひわたしの写真も使ってください!」という嬉しい申し出がありました。
術前。

まず糸入れて(エックストーシス)全体引き上げて(下の写真)、

このあと、口横に残った脂肪をリポレーザーで焼きました。しみも取って、現在はカーボンピーリングであさこ先生のところに通っていらっしゃいます。
綺麗になった自分へのごほうびにスタジオで写真撮りしたそうです。下の写真です。

自分で自分(の顔)を好きになる、鏡を見るのが楽しくなるって大事なことですよ。自信はさらに女性を魅力的にしてくれます。最後の仕上げは自分でする、それは、自信を持つ、取り戻すっていうことです。
(2015/6/18記)

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追記
スタッフの一人の足のほくろをEOS 5Dsで撮影して、マイクロスコープの画像と比較してみました。
下は実際の撮影画像。ブログにUPするため縮小してありますが、元のサイズは一枚で15.5MBあります。

この写真をパソコン上でぎりぎりまで拡大したところ。皮溝(皮膚の細かいしわ)がきれいに描出されています。

下はマイクロスコープによる撮影画像。沁み出しとか色調のムラとかを確認するためには、やはりまだマイクロスコープが必要なようですね。

さらに解像度が上がって、一枚の写真を撮ればマイクロスコープ不要になってくれると嬉しいです。あと10年くらい先には、そういう時代になってるといいなあ。

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継

細菌性膣炎とビタミンC



「中間分子量ヒアルロン酸」は、私が製作販売している化粧品の主成分です。現在のところ、これを使用した化粧品は日本では他にありません。製品名を明示すると、ブログ記事が薬事法第86条(未承認医薬品の広告禁止)に抵触するおそれがあるので、製品名を伏して一般名である「中間分子量ヒアルロン酸」に置き換えて記事を書いています。関心のあるかたは検索あるいはクリニックHPから探してくださいね。


真面目な話です。
はじめに断っておきますが、私は美容外科(皮膚科)医でありますが、ベースは実直な医師です。人と少し変わった発想をする癖はありますが、いつも私なりに真剣に突き詰めて考えた結果です。

なぜ婦人科医でない私が細菌性膣炎に関心を寄せるのか?中間分子量ヒアルロン酸化粧水を膣に外用する話(→こちら)といい、この先生大丈夫か?と思われるかもしれませんが、着想の流れをまとめると、

アトピー性皮膚炎のステロイド外用剤による副作用である皮膚萎縮(元々20年前から私が取り組んできたテーマです)にある種のヒアルロン酸が効くことを文献で知る(→こちら

中間分子量ヒアルロン酸化粧水の商品化

この分子量サイズ(10万付近)のヒアルロン酸が、加齢による皮膚萎縮にも有効と判る(文献(→
こちら)で知り、実際に自分でも確認して論文にしました(→こちら))

皮膚に効くなら粘膜にも効くのではないかと思い立つ(膣粘膜にも皮膚と同じくヒアルロン酸のレセプターであるCD44があります)

複数の婦人科医に相談、試用依頼

婦人科医とのメールのやりとりの中でたまたま、細菌性膣炎は抗生剤を処方すると症状が治まるが中止すると再発率が高いので困っていることを知る

他科(皮膚科)医である自分の知識・発想が、なんとなく役に立ちそうな気がして調べてみる

ビタミンCの話に行き着く


ということです。

細菌性膣炎がどういう病気かと言うと、これはネットで検索していただいたほうがわかりやすい解説や手記に巡り合えると思うのですが(→こちらこちら)、健常な膣というのは、そこに存在する乳酸菌によってpHが3.8-4.5の弱酸性に保たれています。
乳酸菌というのは、その名の通り乳酸を産生する細菌の総称で、その乳酸によって周辺を酸性に保つことで、他の雑菌の繁殖を防いでくれます。
乳酸菌は剥がれ落ちてきた膣粘膜細胞に含まれているグリコーゲンを栄養としており、これはエストロゲン(女性ホルモン)が少なくなると不足します。従って加齢による膣粘膜の萎縮は、細菌性膣炎のリスクファクターと言えます(もっとも実際には、細菌性膣炎は、は女性の全年齢で起きうる病気であるようです)。

調べているうちに、ビタミンCの膣錠が、細菌性膣炎に対して二重盲検試験で有効だ、という論文があることを知りました。二重盲検試験というのは、対照(プラセボ)をおいた臨床試験のことで、エビデンス(信頼度)が高いです。
Arzneimittelforschung. 2011;61(4):260-5. doi: 10.1055/s-0031-1296197.
Efficacy of vitamin C vaginal tablets in the treatment of bacterial vaginosis: a randomised, double blind, placebo controlled clinical trial.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21650086

なおかつ、ビタミンCの膣錠は既にヨーロッパでは製品になっているようです。日本ではこれに対応する製品がありません。
http://www.polichem.com/jahia/Jahia/home/site/polichem/pid/550/cache/offonce

作用機序はと言うと、ビタミンC(=アスコルビン酸)は酸性ですから、おそらく膣内環境のpHを酸性に整えるのだと考えられます。環境が酸性になれば、酸性下で繁殖しやすい乳酸菌が優位となり、雑菌は繁殖しにくくなります。抗生剤を用いなくても治療効果があるというわけです。

「同じ酸性環境を作り出したいならば、乳酸そのものではどうだろう?」という発想は当然出てきますが、1993年の古い研究で、治療効果が否定されていました。
Genitourin Med. 1993 Oct; 69(5): 388–392.
Effect of lactic acid suppositories compared with oral metronidazole and placebo in bacterial vaginosis: a randomised clinical trial.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1195125/

なぜ乳酸ではだめでビタミンCは有効なのかというと、乳酸はどうも分解が速いからのようです。常に乳酸菌が乳酸を産生してくれる状態と異なり、一回の注入では、酸性が維持できないということのようです。

乳酸については、昨年から「ラクタシード」という乳酸を含有した外陰部用のソープが発売されており、これを用いることで抗生剤で治療したあとの細菌性膣炎の再発率を下げるという報告もあります。単独では治療効果がなくても、抗生剤と併用すれば意味があるという考えです。

また、inclearというアプリケーター付きの乳酸による膣ケア製品もあります。

 しかし、ビタミンCを用いた膣あるいは外陰部ケア製品はないようです。エビデンス的には、ビタミンCのほうが乳酸よりも優れているのですけどね。

ちなみに、細菌性膣炎に対して、健常な乳酸菌そのものを膣に挿入して治療しよう、という製品も出てきています(ラクトフローラ→こちら)。
これについても調べたところ、興味深い論文がありました。乳酸菌は効く(細菌性膣炎の再発率を下げる)ことは効くのだが、膣に挿入するよりも内服したほうが効果が高い、というものです(→こちら)。実際、ラクトフローラのショップでも、内服サプリも売っています。
論文著者は「膣に入れるのが不快なため続かないのだろう」と考察していますが、それにしても内服でなぜ治療効果が出るのか??と思います。細菌性膣炎の原因が肛門からの汚染によるからでしょうか。それなら、内服で腸内環境を乳酸菌優位にしてやれば、再発率高くなる理屈です。というか、他に乳酸菌の内服で細菌性膣炎の再発率が下がる理由が思いつきません。なかなか奥が深いです、
念のため、膣に常在する「乳酸菌」とヨーグルトに含まれる「乳酸菌」とは種類が違います。「乳酸菌」というのは既に記したように乳酸を産生する細菌の総称であるからです。したがって食品のヨーグルトを膣内に入れても、定着しにくく、治療効果は薄いと考えられます。

まとめると下表のようになります。
   細菌性膣炎でのエビデンス  製品の有無
 ビタミンC  膣錠で有効(二重盲検有意差あり)  ヨーロッパで膣錠市販されている、日本には製品が無い
 乳酸  膣カプセルで無効(有意差なし)  外陰部洗浄剤などの製品がある
 乳酸菌
 膣カプセルでも有効だが、なぜか内服の方が効果高い  膣カプセル・内服ともに製品がある

さて、ここからが本題というか、具体的な私の取り組みです。
ビタミンCの膣錠は、ヨーロッパで売られており、日本でもeBayで個人輸入できますが、高くつきます。一方ビタミンCの内服錠(シナールやハイシー)であれば安価です。
それで、膣錠のかわりに内服錠で代用できないか?と考えました。
スタッフに話をしたところ(私はアイデアを思いつくとまずスタッフに相談してみます)、「ビタミンCって沁みないんですか?」という意見がありました。
ほかに「こういう下半身関係の話題は、ブログ等で取り上げないほうがいい。先生のイメージが崩れる」という意見もありました。中間分子量ヒアルロン酸化粧水の膣使用の記事を書く際にも同じことを言われました。
一理あるとは思いますが、この意見は却下してこうして書いています。真面目に取り組んでいる話だとしっかり記せば、賢明な読者には解ってもらえると信じるからです。
ビタミンCの内服錠が沁みるかどうかは、実際に試せばわかることです。しかし、事が事だけに、スタッフに協力してくれとお願いしにくいです。それでまず自分で試してみることにしました。
何をしたかというと、座薬を入れる要領で、自分の肛門に入れてみたわけです。「おかしな医者だ」と引かないでください。私が女なら膣に入れてみたでしょうが、男で膣がないので肛門で代用してみた、それだけのことです。
一日たって何の刺激感も問題もないようなので、そのことをスタッフたちに伝えて、膣にビタミンC内服錠を入れてみてくれる有志をつのりました。結果、4人が協力してくれました(50才2人、55才1人、65才1人)。
その結果ですが、50才1人と65才1人は私と同じく何も感じなかったのですが、50才1人と55才が刺激感を訴えました。どういう刺激感かというと、膣に挿入してしばらくは何ともなかったのですが、しばらくすると水を吸って溶けて一部がおりもののように流れ出てくるようで、このときに膣入り口あたりが沁みるということでした。
ヨーロッパで市販されている膣錠でどうなのか判りませんが、内服錠と基本的にそんなに異なっているとは思えませんから、膣錠でも沁みる人はいると思います。


私は国立名古屋病院で16年間常勤の皮膚科医として勤めました。現在うちの分院で働いてもらっているのりこ先生・あさこ先生はこの頃の同僚です。
同じく国立名古屋病院で働いていた婦人科の女医さんに、現在池下で開業している、咲江レディスクリニック(→こちら)の丹羽咲江先生がいらっしゃいます。咲江先生はのりこ先生と研修同期でもあります。


ざっくばらんな話しやすい先生で、中間分子量ヒアルロン酸化粧水の膣使用についても、相談させていただきました。
それで、ビタミンCの膣への応用を含めて、下半身関係の化粧品というのを、婦人科医と美容皮膚科医のコラボで、作ってみましょうか、という話に発展しました。
咲江先生は婦人科の診療現場で活躍していらっしゃるし、私は化粧品については知識も製品化のノウハウもあります。二人の専門知識を合せれば、良いものが出来そうな気がします。

ビタミンCですが、膣錠を開発するとなると医薬品扱いとなり、申請手続きの期間も費用も格段に上がります。私や咲江先生のような一開業医の手にはあまります。
しかし、化粧品として登録し、効能効果を表示しないように留意して市場に出すということであれば、比較的容易です。小ロットでも作製できるので、在庫リスクも少ないです。
それで「ビタミンCのデリケートゾーン用化粧水」という形で開発してみることにしました。

細菌性膣炎に対する治療効果のほかに、ビタミンCにはもうひとつ利点があります。それは「におい」対策になるという点です。
細菌性膣炎にかかると、膣からは「魚のような生臭いにおい」が発せられます。けっこう深刻です。この臭いはアミンといって雑菌が産生するアルカリ性の化学物質です。ビタミンCは酸性ですから、これを中和してくれます。
尿のにおいも取れます。尿もまたアンモニアでアルカリ性なので、ビタミンCと反応して中和され無臭となります。
実際、私自身が確認したことなのですが、男性器の包皮あたりはふだん折りたたまれてしわになっているので、蒸れると嫌な臭いがします(いわゆる「イカ臭さ」)。ここにビタミンCの10%水溶液をスプレーしてしばらくすると、臭いが消えます。おそらく女性の尿道周囲も同じだと思います。

外陰部にビタミンCをスプレーして、アルカリ性になりがちな皮膚を酸性に保ってやることは、細菌性膣炎や膀胱炎対策にもなるでしょう。ビタミンCそれ自身に抗菌作用はありませんが、乳酸菌以外の細菌が繁殖しにくくなるからです。
また、におい対策になりますから、デートの前のエチケットに良いです。こういうことははっきりと書かなければお伝えできませんから書きますが、ビタミンCの水溶液は甘酸っぱい味です。抗菌剤の膣錠のような苦みはありません。サプリメントや食品添加物として使用されるくらいですから、口に入れてもまったく害はないです。すなわち、オーラルセックスの際にも問題が生じません。

現在作製を考えているのは、

1 ビタミンC(10%くらい)の外陰部用スプレー(においのエチケット、および細菌性膣炎・膀胱炎予防)

2 中間分子量ヒアルロン酸化粧水にビタミンCを添加したもの(皮膚に外用してもいいが、婦人科医の指導の下、アプリケーターを用いて膣内に注入し、治療として用いることもできる)

です。

後者は、ビタミンCの濃度を調節することによって、錠剤のような沁みる感じを生じにくくすることができるでしょう。また、中間分子量ヒアルロン酸の粘膜再生作用との相乗効果も期待できます。
容器やアプリケーターなどは、専用のものを新たに作ると費用がかさみます。まずは小ロットで試作したいので、既存の製品を工夫して活用しなければなりません。こういうことに頭をひねるのは大好きなので、しばらく楽しめそうです。

たぶん3ヶ月くらい先には製品が出来上がります。販売は通販が中心です。対面で買うの気が引けますものね。通販サイトできたらまたご案内します。

 (ラベルのイメージの試作です。咲江レディスクリニックのイラストを基に作ってみました)
(27/6/8 記)

追記
シュシュとチュチュの販売開始しました。(下の画像をクリック)
http://www.tclinic.jp/VitaminC.html

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継