スプリットタンを真面目に考えてみた

鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は12月1日(土曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年7月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。
 
そばかすをレーザーで取りに来た若い女性が、スプリットタン(舌を割って二股にする)にした方でした。お話があんまり興味深かったので、ちょっと披露します。
まずは動画ご覧ください(画像の下のURLをクリック)。


左右は別々に動かせるそうです。味覚や知覚も正常で、滑舌もよく、ふつうに話しているだけだと、スプリットタンにしていること気が付きません。


「なぜそんなことを?」と誰もが思うでしょうが、身体改造趣味というか願望ゆえだそうです。しかし、実際にスプリットタンの方とお会いして思ったのですが、タトゥーと違い、一見まったく判りません。就職にも不利にならないだろうし、温泉にも入れます。
また、これは彼女としては想定外だったのですが、スプリットタンにしてから男性に口説かれることが多くなったそうです。私は最初ちょっと意味が判らなかったのですが、あからさまな目的のようで、彼女としては、そういうのに応じるつもりは無いが、言い寄られて悪い気はしないそうです。彼氏には喜ばれるとのこと。
案外、身体改造願望が強い人が欲求を満たすには、賢い選択肢なのかもしれません。少なくともタトゥーよりは絶対メリット多いと思いました。

彼女のスプリットタンは、舌小帯の一部が切れ残っていて、少し引っ張られるので、出来ればこれを切ってほしいとのことでした。それくらいはお安い御用ですから、局所麻酔下で切ってあげました。


ついでに、少しスプリットタンを深くしてほしいと言われたので、乗りかかった船ですから、これも施術しました。
もともとは、彼女は非医師の知り合いに切ってもらったそうです。それでネットで検索して調べてみたのですが、スプリットタンの施術を行っているクリニックはほとんどありません。皆さん自力、あるいは非医師による施術でされているようです。
大きな合併症やトラブルの報告もないようですから、なんとかなっているようではありますが、どうせするならクリニックでしたほうが麻酔もしっかり出来て痛くないでしょう。
少し興味が沸いたし、実際に彼女の施術をしてみて実に簡単だということも判ったので、どうしてもスプリットタンにしたい、という強い願望のある方に限って、当面の間、施術を引き受けます。他に施術するクリニックが増えてきたら、止めようと考えています。クリニックが見つからずに困っている方へのボランティア的な気持ちからです。

価格は5万円+税、施術時間は15分ほどです。お昼休みに特別枠を設けて施術しますので、TEL 052-264-0212までご予約ください。
(2018/10/27記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継

鶴舞公園クリニックと、アートメイク関連の学会・団体との関係


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は11月1日(木曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年6分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

10月28日に、第三回医療アートメイク学会が開催されます。


アートメイクは本邦では医療行為とされ、2016-7年頃に無資格者による摘発が相次ぎました。それに伴い、アートメイク施術に取り組む医療機関も増えて、2018年現在では医師や看護師、あるいはメーカー主導による協会・学会などが育ちつつあります。
アートメイクをしたいという患者さんまたはお客さんはもとより、これからアートメイクを取り入れたいという医療機関や医師・看護師の皆さんにも解りやすいように、以下に私の立場から整理してみました。ご参考になさってください。

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<女性医師によるアートメイクの会>
鶴舞公園クリニックでは、分院の女医さんたちが2016年に「女性医師によるアートメイクの会」を立ち上げました。それまで無資格者によってなされていたアートメイクを医師の目から見直し、施術を再構築するための勉強会です。もっとも現在は下記の医療アートメイク学会も出来たことだし、ホームページを残して休眠状態です。

<医療アートメイク学会>
翌2018年、東京皮膚科形成外科の池田先生が発起人となって、医療アートメイク学会が設立されました。この学会の最大の目的は、厚労省と密な連携をとって、アートメイク医療の現場を正しく導いていこうというものです。将来的に公益法人化を目指しています。

私も四人の設立時理事に加わりました。下の写真左から実業家で片山さつき参院議員の夫の片山龍太郎氏、東京皮膚科形成外科の池田欣生先生、東海大学形成外科准教授の河野太郎先生、そして私です。


<日本メディカルタトゥー協会>
さて、医療行為というのは、基本的に医師が行うのが原則です。アートメイクも然りで、医師自らが施術するのが正道なのですが、医療行為には「相対的医行為」といって医師の指示のもとに看護師などによる施術が認められているものもあります。2018年時点では、まだ明文化された通達等は無いのですが、看護師による相対的医行為としてのアートメイク施術は認められているようです。厚労省に電話で確認しました。
これに伴い、看護師を対象にアートメイクを技術指導して、派遣先のクリニックをも開拓・斡旋する団体が現れました(日本メディカルタトゥー協会)。
鶴舞公園クリニックは、すでに「女性医師によるアートメイクの会」を擁していますが、日本メディカルタトゥー協会と連携することにしました。それは、
(1)日本メディカルタトゥー協会の本部が名古屋にある、
(2)医師よりも看護師のほうが圧倒的に数が多く、マーケットの需要に応えやすい、
(3)アートメイクに造詣の深い医師との連携が日本メディカルタトゥー協会に必要である、
からです。
そのため、鶴舞公園クリニックスタジオでは、アートメイクは女性医師が施術し、近いうちに開院する4番目の分院、鶴舞公園クリニックアイダージュでは、日本メディカルタトゥー協会所属の看護師が施術する、という二つの方式を併用することにしました。

<BioTouch>
このほかにアートメイク関連の団体としては、BioTouchという海外のアートメイク機材・色素などの輸入代理店があり、独自にアートメイク施術の講習会も行っています。
鶴舞公園クリニックとしては、針やマシンなどの単純な機材はともかく、海外製の色素については、メーカーがどんな謳い文句を掲げようが、疑ってかかったほうがいいと考えていますので、相容れない部分もありますが、現時点ではお互い協力して、日本におけるアートメイクを健全に育成していくべき段階と考えています。

さて、そうはいっても、日本メディカルタトゥー協会やBioTouchに対して、医師として、現時点において私から注文があります。以下にそれを記します。

<日本メディカルタトゥー協会への注文>
下の写真はある看護師さんが施術した眉のアートメイクです。古いアートメイク(下方)を肌色色素で消して、その上方に新しいデザインでアートメイクしています。
デザインなど、技術的には、ご覧のように問題ない、きれいな出来栄えなのですが、彼女たちは、無資格者たちが施術していた技術を踏襲して施術しているため、古いアートメイクをレーザーで消すという発想がない、あるいは、そういう機械や技術を持っていないクリニックと提携してアートメイク施術を行うことがあります。そのため、このように肌色で隠してしまうようです。

肌色色素には「パラドキシカル・ダークニング」という問題があります。アートメイクとしては成功であっても、いやしくも医療行為である以上は、将来的なことを見据えた施術がされなければなりません。ここを肝に銘じていただきたいです。
パラドキシカル・ダークニングの例、上まぶたからこめかみにかけて、しみを隠すために肌色アートメイクをしていた上から、しみ取りレーザーを当てたところ、かえって黒変してしまった。(Dermatol Surg. 2015 Sep;41(9):1091-3より)

日ごろ、医師のお手伝いのような業務をこなしている看護師にとって、デザインから施術までを完結できるアートメイクという仕事は魅力的でしょう。やりがいを持つことは結構なことなのですが、日本で「アートメイクは医療行為である」とされたことの重みを感じてください。そして、ただクリニックの軒先を借りるのではなくて、アートメイクについて十分な知識を持った医師と連携して仕事をしてください。

<BioTouchへの注文>
2108年9月現在、BiotTouch Japanのホームページ(下図)には「FDA公認の成分」と記されています。

FDAはいかなるアートメイク用色素の安全性も認めていません。ここで「公認」と書かれているのは、体表面につけて拭き取ることのできる化粧品成分としての公認です。
化粧品として認可されているものなら、アートメイク色素としても安全なのではないか?と思ったとしたらあさはかというものです。化粧品はかぶれたら、よく洗い流して除去することが出来ます。しかし皮内に埋め込まれたアートメイク色素は容易には除去できません。長期にわたって炎症が続くことにより、肉芽反応などとんでもない副作用を引き起こすこともあります。
さらに、アートメイク色素は化粧品と違って、皮内で代謝されて、当初とは異なった化学物質に変化します。成分それ自体が安全であっても代謝物に問題があることがあります。皮表につける化粧品とはまったく異なるレベルの慎重さが求められます。

Biotouch Japan社ホームページの「色素に関する情報」には、「弊社の色素顔料は、主に酸化鉄(黒、赤、黄)と二酸化チタン(白)です。これらは化粧品としても一般的に用いられているもので、安全性の高い物質です」とあります。

 素人や、あまり勉強していない医師や看護師なら、これで煙にまけるかもしれませんが、英語版のHPのMSDS(製品安全シート、http://www.biotouch.com/Biotouch/Material-Satety-Data-Sheet)に掲示されている通り、実は、アゾ色素や、由来の不明なカーボンブラックが使用されています。
この子供だましのような安易な安全性強調の姿勢は、無資格者に対して教育や資材供給をしてきた名残りでしょう。
改善方法は簡単です。
「当社はUSA(CA)の企業であるBiotouch社の代理店であり、アメリカ国内法を遵守して製造されたアートメイク色素を輸入販売しています。本邦ではアートメイクはアメリカと異なり医療行為とされておりますので、色素の安全性については本社が提供するMSDS(製品安全性シート)をご参照頂き、各施術クリニックにてご判断いただきますようお願い申し上げます。」
この一文に置き換えたほうがよほど誠実といえます。無理をして誤解を招く表現でホームページを飾れば、かえって信用がなくなります。
Biotouch Japanは、アメリカのアートメイク材料供給会社の、単なる日本代理店です。そしてアメリカではアートメイクは医療行為ではなく、自己責任のもと法的に野放しの状態です。技術指導や針やマシンの輸入販売はともかく、色素や施術の医学的安全性に言及するべきではないし、その必要もありません。そこをよく認識していただきたいものです。

鶴舞公園クリニックの理想は、自らアートメイクを施術できる医師が、看護師と協力して、安全な国産色素で施術を行い、針やマシンなど単純で安全性において問題のなさそうな機材は、Biotouchなどの輸入販売業者の協力でまかなうという形態です。
悪い展開は、海外製品の代理店などが、看護師対象の講習を積極的に行って、アートメイクについて理解も関心も無い医師のクリニックを単に間借りして看護師を派遣し、未熟な施術を行うことです。無資格者が施術していたのとまったく同じ内容の施術がクリニックで行われるようになっただけ、という悪夢のような状況ですが、実のところ現状はこれに近いです。ホームページでアートメイク施術を自院メニューとして派手に掲げている美容クリニックの多くが、現在このような実態にあります。

この現状を是正すべく、鶴舞公園クリニックとしては、
(1) アートメイクの施術に造詣の深い医師を増やし、
(2) 国産色素の普及に努める
ことに力を入れていこうと考えています。(1)に関して、医療アートメイク学会での活動を続けていくとともに、鶴舞公園クリニックとしても、いつでも他院の医師の見学を歓迎します(BiotouchやJMTAが開催する講習会は、無資格者を対象としていた時代の講習内容を基礎にしているので、医師には不要な座学が多いです。医師にとっては実際の施術の見学のほうが参考になるでしょう)。(2)に関して、医師・看護師たちに啓蒙を続けていきます。皆様のご協力ご理解をお願いいたします。
(2018/10/08記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継