ジャコウネココーヒー(コピルアック)お出しします


ジャコウネココーヒー(コピルアック)が届きました。今年のふるさと納税(焼津市)のお礼品です。

 
100万円の寄付で一樽丸ごと貰える(ただし限定一名)とあったので、迷わず申し込みました。後で発送元のお店の方に聞いたら、買うとしたら50万円くらいだそうです。100万円の寄付(納税)で50万円の謝礼品。悪くない(^^)。

で、これをどうするかというと、施術終わってお待ちのお客様にサービスでお出しします。こうして寄付(納税)出来るのって、お客様がうちのクリニックにいらしてくださるからですからね。まさに還元です。
ただし、12回に分けて分割送付なので、使い切ったら次までは普通のコーヒーです。当たればラッキーと御諒解下さい。

うちのクリニックのコーヒー、元々美味しいはずです。喫茶店向けのブレンド豆を卸さんに持ってきてもらってお出ししてますから。紅茶は、フォートナムメイソンのアールグレイかロイヤルブレンド(お店の人に聞いてその時々の出来の良い方を買う)に決めてます。常連のお客様の中には「喫茶店で飲むよりよほど美味しい」と言って、プラセンタ打ちに来るのかお茶のみに来るのかわからない方もいらっしゃいます。

ティーカップ、コーヒーカップもロイヤルコペンハーゲンやヘレンドといったブランド品で揃えています。写真でお見せしたいところですが、そうするといらして頂いた時の楽しみが損なわれますからね。

これはスワロフスキーのクリスマスツリー。今の時期、アトリエのカウンターを飾っています。

 
若手スタッフ、みゆちゃんとはづきちゃんの大学部活のクリスマスコンサート。
 
 メリークリスマス。全ての方に幸せが訪れますように。
(2014年12月23日記)

タイの先生たち

隣はチャニサ先生と言って、タイから日本の大学院に留学している皮膚科の先生です。先日美容皮膚科学会で知り合って、私のPRPの作り方を勉強したいということで見学にいらっしゃいました。


お父さんがタイの形成外科の先生だそうです。PRPのほかにもうちのクリニックの施術、とくに糸での引上げに興味を持って、「こんどお父さんといっしょにもう一度来ます」とのことでした。そして今回いらっしゃった写真がこちら↓。

真ん中にいるのがお父さん、その横はお母さんと看護師さん。聞けば、チャニサ先生、帰国後バンコクで、お父さんと一緒に新しく病院をつくるのだそうです。そのメニューとしてうちのクリニックからいろいろ学んでいきたいそうで、It is my great pleasure and honor. チャニサさん可愛いし、協力してあげることにしました。

たまたまですが、毎年糸入れにいらっしゃるロシアのアラ先生(→こちら)と同じ日にタイの先生たちもいらっしゃいました。みんなで仲良く集合写真。

アラのお友達のエレナさんに糸入れてるところ。以前、ロシアのアラのお客さんに、おでこに糸いれてあげたことがあるのですが、その結果がとても良いのでロシアでアラにやってほしいというお客さんが多く、教わりに来たとのこと。
おでこの糸入れは、ちょっと手間かかるし日本人ではそれほど上がった感が得られないので、たまにしかやらないのですが、ロシア人にはいいのかもです。

 
こんな感じのデザインで6本の糸を使って3組の小さめのエックストーシス作ります。

今回、エレナさんとアラ先生、お二人ともこのおでこの施術受けました。やっている側の感触としては、どうもロシア人っておでこの皮膚が厚いんですね。頬の引き上げのときもそうですが、皮系のたるみ(皮が余っていて肉がない)の方よりも肉系のたるみ(ふくよかな肉の重みで下がっている)の人の方が、引き上がりがいいです。ロシア人の額の皮膚は日本人よりボリュームのある「肉系」なんでしょう。
 
2グループが重なると、互いに施術を見学し合えます。うちのクリニック狭いのでちょっと心配だったのですが、杞憂だったようです。夜はみんなで寿司屋に行きました。カウンター9席の小さなお店ですが、わたしはそういうお店で板さんの仕事を見ながら食事するのが大好きなのです。一生懸命、まじめに仕事しているのを見ていると、自分も負けずに良い仕事しなければという気持ちがわいてきます。

タイとロシアの国際親善よろしくがやがやとやっていた向こうに、お一人だけ食事している女性がいらっしゃいました。よく見ればその方もたまたまうちの常連のお客様だということが判って、その方も加わってとても和やかな雰囲気になりました。職人気質で決して料理の写真を撮らせない板さん(注:料理というのはお客様にお出しした時の驚きも味の内と言うことで、写真撮影を嫌がる料理人さん多いです。お店で勝手にスマホで写真撮るのは止めましょうね)も、特別に板さんともども料理と記念撮影させてくれたり、疲れもしましたが、おもてなしの甲斐のある良い日でした。
 (2014年12月7日記)

ヒアルロン酸注射で失明させないために(その4)


その1は→こちら、その2は→こちら、その3は→こちら

新しい針が2種類出来てきました。


従来のマイクロカニューレとどう違うかというと、針先が丸く閉じている点は同じなのですが、1)針長が短く(従来品は25mmまたは30mm、新しいものは12mm)、2)穴面積が通常の針並み(上図左)あるいはそれ以上(上図右)に広くなっています。


注射時の抵抗を極力小さくしようという工夫です。従来品の30G針は、粘度の高いヒアルロン酸を注射するには、抵抗が強すぎるので。

先回試作した角型の針(ノンべベル針)と3種類を打ち比べてみての感触ですが、製作費は角型の針がいちばん安いのですが、刺入は先丸のほうがやはり抵抗少ないです。ただし、先丸のものは注入時の抵抗がやや大きいようです。開口部の面積をさらに大きくした上図右側のものでも同じです。この理由がよくわからないのですが・・側方から押し出す場合、組織の抵抗が高くなるということでしょうか?

手順も工夫してみました。

まずマーキングします。これをしておかないと、針で刺した穴が小さくてわかりにくいので。

次に通常の30G針で皮膚にアドレナリン入りの局麻薬でわずかに麻酔をします。
これをすることで、次に針を刺入するときの痛みが軽減されるし、血管を収縮させるので、動脈に当たる率もさらに下がるでしょう。

このあと、27G針を深くまで刺して、一度抜きます。このあとで30Gの鈍針を入れるための道をつくるわけです。
このときに動脈に当たっていれば内出血します。内出血しなければ動脈に当たっていないということです。

次に鈍針を刺してヒアルロン酸を注入します。



このとき、両サイドを指で圧迫しているとさらに安全であろうことは、先回記しました。

さて、この鈍針、ほんとうに動脈壁を貫通しにくいのか?について、以前考案した「鶏もも肉の動脈モデル」(→こちら)で検証してみました。
↓のような回路ですが、

 試作時には緑色の食用色素を使ってみたのですが、これだと時間とともに色素が血管外に漏出して緑色に染まってしまうことがわかりました。色素の分子量が小さいためだと考えられます。
それで、自分の血液を用いてみました。これなら赤色は赤血球なので、血管外に漏出しません。
もし、このモデルを、ほかの実験に使用する方がいた場合のための付記ですが、もも肉中の虚脱した血管内を80mmHgの圧まで高めるには、結構なvolumeがいるようです。それで、最初は生理食塩水を注入して虚脱した毛細血管を膨らませておき、最後に血液を入れるといいです。また、もも肉の両端は、輪ゴムや絹糸を用いて、しっかりと止血しておく必要があります。

そんな工夫の成果として、よい動画が撮れました(YouTubeにUPしました→こちら)。
鈍針では、これだけ血管壁を押しても、貫通しません。



一方、通常の鋭針では、すぐに突き刺さって動脈壁から出血してしまいます。


鶏は、普通に売っているもも肉では、解体の過程で血管が切れていることが多く、丸焼き用に使うもの(近所のイオンで2000円くらいで売っていました)を使いました。使用するのは足一本なので、残りはスタッフが喜んで持って帰りました。「明日は日曜日なのでサムゲタンに挑戦してみる♪」そうです。今ごろ作ってるんじゃないかな?

鶏の血管に自分の血液を注入するというのは、黒魔術のようで気味が悪く、ほかの方法ないか考えたのですが、やっぱりこれしかないですね。

おかしなことを色々工夫する先生だ、と思われるかもですが、スタッフがサムゲタン作りに挑戦するのと、たぶん感覚的には似たことです。思いついたらやってみたいし、うまくいけば達成感があります。何より、自分の仕事の自信につながりますしね。

【目の上の窪みへのヒアルロン酸注入について】は→こちら
(2014年11月16日記)

続きがあります。「その5」は→こちら

ヒアルロン酸注射で失明させないために(その3)


前回(→こちらこちら)の続きです。
針を工夫してみました。


右はヒアルロン酸のボックスに付属の専用針です。先端はとがっています。左は今回試作してもらったもので、まったくの円筒状です。とがっていません。
側方に穴の開いているマイクロカニューレとの違いは、製作費が圧倒的に安いことです。また、側方からではなく、先端からヒアルロン酸が出るので、目的とする個所にヒアルロン酸を入れやすく、狙った通りの成形がしやすいと考えられます。

実際に注入する手順ですが、この針はとがっていないので、皮膚に刺さりません。そこで通常の尖った針(赤色)でまず穴をあけて道を作ります。 追記:このときの針は27G、あとでヒアルロン酸を注入する時の針は30Gがいいようです。
 
次に尖ってない針(白色)でその傷から先端を通してやります。失明の原因となる動脈は、この深部にありますが、皮膚を貫けないような鈍針が、動脈壁を貫通するとは考えられないので、動脈を傷つけず、安全に深いところにヒアルロン酸を注入することができます。

 
下の写真は針を進めて深部まで達したところです。注入時には、念のため、左右の眼付近への血流を遮断すべく、指で両側面を圧迫したほうがよいと思います。この手技なら、動脈にささって塞栓を起こして失明するということは起きないでしょう。
 
市販のマイクロカニューレ(→こちら)は、実際に使ってみると、非常に注入しにくいです。最大の原因は、針の長さでしょう。ヒアルロン酸付属の針は12mm長ですが、マイクロカニューレは25mmあります。30Gの細さで25mm、これで粘稠なヒアルロン酸を注入しようとしても、実際にはまず入っていきません。それで27Gとか太めの針に皆さん変更するようなのですが、これでは細かい仕事は出来ません。
 
現在、針のメーカーに特注で、30Gで12mmのマイクロカニューレを試作してもらっています。あと一か月くらいで出来上がるそうです。今回試した円筒状の針に比べると、先端が丸い分、皮下を進むときに抵抗が少ないことが予想されますが。製作コストは高くなります。安全性は、どちらも同じと思うので、コストと使い易さを勘案して、どちらを使っていくか決めようと思っています。

今回、試作に協力いただいている会社は↓です。
http://reactsystem.net/


このブログは、同業の先生方も見ていらっしゃると思いますが、私は、今回試作したり考案したりしている針を、自らのオリジナルな針として企業秘密にしたり、針製作会社と結託して自分の営利のためのビジネスにしたりするつもりはまったくありません。
それは、これが、施術の安全に関することだからです。
私の所属し、日々の糧を頂いている、プチ整形の業界全体の信頼に関わることだからです。上記の会社に電話して「鶴舞公園クリニックの先生がオーダーしたのと同じものを送ってくれ」と注文すれば、私に対するロヤリティーなどは一切なく入手できます。そんなものを付けて価格を高くしたら、私は小銭が儲かるでしょうが、普及しにくくなりますからね。

動脈塞栓→失明という最悪のリスクを100%回避するために、私たちプチ整形に携わる医師全員は知恵を絞って総力をあげて乗り越えていかなければなりません。もし、より良い方法を思いついた方いらっしゃったら、ぜひ教えてください。わたしも引き続き知恵を絞り、また考案したことをここに記していこうと思います。

☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆

ヒアルロン酸の種類についてですが、アラガン社のジュビダーム・ビスタが日本で厚労省の認可を得ました。
これまでは、スウェーデンQmed社のレスチレーンを海外から輸入して使用していたのですが、日本で認可された製剤がある以上、こちらに変えることにします。
例によって仕入れは大量です。正規ブランド品を安く仕入れるには、大量購入しかありません。

 

 一度にこれだけオーダーするクリニックはうちだけだそうです。仕入れが安くなれば、お客様への価格も安く還元できます。


こちらはついでに発注したボトックス。年に数回発注します。ボトックスもうちはビスタの正規購入だけで、ほかは一切使用しないし浮気はしません。昨年のボトックスビスタの発注量は、うちのクリニックが日本で一番多かったそうです。ジュビダームも日本一を目指します。

プチ整形の業界、競争はありますが、その一方で針の工夫で記したように、業界全体で皆で知恵を絞って乗り越えていかなければならない山もあります。
弱肉強食の厳しい世界ではありますが、仁義や規律はあります。それはどこにあるかというと、医師ひとりひとりの心の中にあるのです。私はそう考えます。

その4(→こちら)に続く。
(2014年11月8日記)

救急救命の講習・その2


私は元々皮膚科医です。万が一の緊急時の対応に手落ちがあってはならないと自戒して、開業以来、救急救命のトレーニングコースを積極的に受講して来ました(→こちら)。
そのうちに若い先生たちと勉強すること自体が楽しくなって、外傷コースのJATECと、アメリカ心臓協会のACLSの二つは、インストラクターも務めました。しかし、実際に救急部に務めたことの無い身としては、インストラクターはどうも心苦しくおこがましく、自分には不向きと考えて止めました。指導する側に立つことで、自分自身のスキルはさらに上がりますから、自分の勉強には大いになるんですけどね。自分が受講生側だったらやっぱり納得できないですから。
しかしプロバイダーとしての更新は続けています。その中の一つ、ACLS-EPコースを受講してきました。
インストラクターの先生方(御了解の上写真を掲載させていただいております)。

EP(experienced)コースというのは、通常の病院勤務では遭遇することの少ない、非典型例の救命を学びます。シナリオにひねりや意外性があるので、何度受けても飽きません。私はこれで2年おき3度目の受講(更新)です。


この方は、早田先生と言って、ACLSの創成期から普及活動に尽力されている方です。たまたま先回二年前の受講のときもこの先生でした。受講生とインストラクターというのは一期一会のことが多く珍しいです。それで記念に写真撮らせて頂きました。ほかにもJATECで一緒にインストラクターをしていた先生がいらっしゃって、御縁のある日でした。
ケース提示は、自分もやっていたから解るのですが、骨格となるシナリオを基に、自分流のアレンジをして臨場感を出して受講生の関心を高めます。私の場合は、ここで自分自身の現場経験が少なく、苦労しました(^^;)。早田先生は今回、低体温症のケースにネロとパトラッシュを引き合いに出してきました。この辺、さすが巧みと言うか余裕です。


これはネロの心電図というか、ネロがこのとき救急隊に助けられて心電図検査を受けていたら、たぶんこんな波形だっただろう、という例示です。オズボーンのJ波という寒冷暴露特有のパターンが出ています。
ネロの症状にシバリング(震え)が出ていたら深部体温は何度と推測されるか(答えは35℃から32℃の間)とか、低体温で倒れていた人を、急に動かしたり体位変換したりするときにはどんな危険が考えられるか?とか、そういった知識の確認・補強を行うわけです。数名のディスカッション形式で進めるので、受講生の知識や臨床経験が裸にされます。恥ずかしい思いをすることもありますが、その分確実に身に付きます。恥をかくと人間忘れにくいですからね。

早田先生の横は、今回のコースをコーディネートされた、日本ACLS協会大阪トレーニングサイト長の趙先生。松下記念病院の麻酔科の先生です。「ぜひACLSを当大阪トレーニングサイトで受講して下さいと呼びかけてください!」とのことでしたので、こうして告知させていただきます。こういう熱い先生方に接するのは、本当に気持ちがいいですね。表面的な情熱的な熱さでは無くて、内面的な暖かさの延長上の熱さです。医師としての職人的な善意と言ってもいい。私がはまってしまったのは、まさにこういう熱さ・暖かさに触れられるからです。

あまり美容外科・プチ整形の診療現場にすぐ役立つことは少ないのですが、二つほど収穫があったので、ここを見ているかもしれない同業の先生方に向けて、また自分自身のための備忘録として記しておきます。

一つは、アネキセートでジアゼパムをリバースすると、元々睡眠導入剤を常用しているような人では、ときに不整脈(VT)を誘発することがあるということ(→こちら)。
静脈麻酔は、うちはプロポフォールしか使わないのでアネキセートまで使うことはまず無いのですが、ドルミカムなど効果が遷延しやすい薬剤で静脈麻酔する先生は記憶しておいていいかもです。なかなか起きてくれないのでアネキセートでリバースしたところVT起こしてしまって、同期下カルディオバージョンできる除細動器が手元にあればいいのですが(注:鶴舞公園クリニックにはあります、えへん)、無いと、救急車要請してどこかの救急部に頭を下げてお願いするなんてことになりかねません。

もう一つは、ケースシナリオで出てきたのですが、

「60才男性、経食道エコー検査でキシロカインスプレーを使用した後に、チアノーゼ・呼吸困難。酸素投与によってもSpO2は86%で上がらず。」

何だと思います?酸素で上がらないということは肺血栓?・・
診断はキシロカイン(局所麻酔薬)によるメトヘモグロビン血症でした。
メトヘモグロビン血症・・名前を聞いたことと無い医者はいないでしょうが、経験したことのある医者ってどのくらいいるんだろう?インストラクターの人も、居合わせた受講生の人も、実際に診たことはない、ということでした。キシロカインのアレルギーや過量使用による中毒は気をつけますが、こういう非常に稀な副作用も、たしかに可能性ゼロではないですからね。少なくとも知ってはおかなければ。(追記:エムラクリームによる報告をまとめた文献みつけました→こちら

また二年後に更新コースを受講します。たぶん70才になっても80才になっても受講するでしょう。Once a doctor, always a doctor.
(2014年10月27日記)
 

来年11月からPRP療法は出来なくなるみたいです


=====(ここから引用)=====
iPS細胞使い肌細胞若返り 67歳→36歳 コーセー
 コーセーは15日、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使い、67歳の日本人男性の肌の細胞を、同じ人の36歳時点の肌とほぼ同じ状態に若返らせることに成功したと発表した。同じ人から1980年以降、定期的に提供を受けていた、36~67歳の五つの異なる年齢の肌の細胞を、京大のiPS細胞研究所でiPS細胞にした。同社が分析したところ、老化の指標となる染色体の状態は五つのすべての年代で回復し、67歳時点のものも36歳時点とほぼ同じ状態になった。(2014年10月16日朝日新聞デジタル)
=====(ここまで引用)=====


 という、面白いニュースを見つけました。私は実は、2009年(今から5年前)、50才のときに、自分の皮膚片から繊維芽細胞を培養して凍結保存してもらっています。将来、美容に関わらず再生医療で自分の体を治したいときに、少しでも若かった時の自分の細胞を用いた方がいいだろう、役に立つかもしれない、そう思い立って有料の細胞バンキングを利用しています。

 このニュースによれば、老化した細胞をも若返らせることが出来るかもしれない、細胞バンキングは要らないってことになるかもしれませんね。

 しかし、iPS細胞を作る元は皮膚の繊維芽細胞だし、それはやはり若い時期のもののほうが良いのじゃないか、将来さらにiPS細胞の技術が実用化されてきたときに、役立つかもしれない、そう考えてバンキング保存は続けます。実際今回のニュースも、36歳の繊維芽細胞のほうが67歳の繊維芽細胞よりやっぱり若いんだ、っていう風に裏読みもできますし。
 むしろ、「こういうニュースが出てきたということは、細胞バンキングというのは、いよいよ市場性が出てきたたかもしれない。将来のために今の自分の細胞を取っておきませんか?と呼びかけてもいい頃合いかもしれないな。」と考えました(追記参照、自信無くなってきました(^^;)。

 私のところで皮膚片採取して、バンキング会社を仲介すればいいですから、保険の代理店みたいなものです。さっそく久しぶりにバンキング会社の方に電話してみました。

会社の人「どうも先生、お久しぶりです。」
私「いやどうもお久しぶり。ところで今日のニュースみました?いよいよiPS細胞の若返り研究が具体化してきたみたいだし、繊維芽細胞のバンキングも申し込む人が増えてくるんじゃないかと思うんですよ。それで、今は細胞の保存はいくらくらいでやってもらえるのか確認しようと思って。」
会社の人「増やして注射するのじゃなくて保管だけっていうことですね。ええっと、今確認しますので待ってください・・初期培養が三十△万円、そのあとの保管が二十△万円、この合計ということになります。」
私「・・あ、そう、そんなに高いの。僕の時は破格でやってもらったんだね。」
会社の人「そうですね、それもそうなんですが、先生御存じのように再生医療の規制が厳しくなっておりましてですね。皮膚組織採取するクリニック自体も申請認可が必要になるようで、私たちも現在対応に苦慮しているところです。」
私「へえ、そうなんですか。皮膚の採取なんてどこでやっても同じでしょうに。」
会社の人「それがそういう訳にいかなくなってきたんですよ。先生のところPRPはやっておられますか?PRPも規制対象になる話はご存知ですよね?」
私「いや・・なんだか厳しくなるらしいってことは、又聞きで知ってはいるけど、成長因子を加えるやり方が問題になってるから、そのことだと思ってた。そうじゃないの?」
会社の人「PRPも再生医療安全確保法の対象になるんですよ。要は血液を採って、それを遠心器で濃縮するとか加工した時点ですべて法規制の対象となるんです。届出認可した施設以外では出来なくなりますし、倫理委員会の承認やら、とにかく膨大な事務作業が必要となります。PRPを作製すること自体は簡単なんですけどね。違反すると罰則も付いてますよ。」
私「そりゃ大変だ。その法律いつから始まるの?」
会社の人「来月2014年11月から施行されて一年間猶予がありますから、2015年11月から本格的にスタートです。」

 はあ、そうですか・・。ちょっと脱力しました。
 PRP自体は、おだやかな良い施術なんだけどな。バンキング会社の彼によると、「PRPは培養じゃないから本来規制に加えなくてもいいんですが、何か美容医療業界で問題になってるみたいだから、この際いっしょに絡めようって話になったんじゃないかと思います、何か問題あったんですか?」って逆に聞かれました。問題あったとしたら、成長因子添加するやり方で、PRPじゃなくてフィブラストスプレーの適応外使用なんだけどなー。
 とにかく、そういうことで、うちのような小さなクリニックでは、来年11月以降はPRPは施術できなくなりそうです。せっかくオリジナルな方法考えて論文にもした(→こちら)のに、ちょっと残念。
 まあしかし、再生医療に規制は必要だろうし、たまたまその網にPRPが引っかかっちゃったけれど、自分のような小さなクリニックは、他の手法をまた考えていくしか無いでしょう。
 それで、何を告知したいかと言うと、

うちのPRP療法をやってみたい方、来年11月までですよ。それ以降は限られた施設で、かつ、とても高額な施術になりますよ。

ってことです(^^;。

 もっとも、うちのクリニック、今予約がむちゃくちゃ取り難いです(すみませんm(_ _);m)。7ヶ月先の予約を毎月初めに受け付けるのですが(例えば今日10月16日なので、次の予約受け付けは11月1日から来年6月の予約受付です。それまでは全部埋まってます)、それもたいてい初日と二日で埋まってしまいます・・。なので、来年10月の予約が埋まるのは、たぶん来年3月はじめです。 それ以降はPRPの予約自体お断りするしかないということになりますね・・。
 良い施術だと思うんだけどなあ。残念。だけど法律で決まったことは仕方ない。

追記:コーセーの研究について詳細記されてるサイト見つけました。
=====(ここから引用)=====
【iPS細胞が皮膚細胞の老化をリセット テロメア長が回復 コーセー、化粧品への応用を研究】
 コーセーは、ヒトの皮膚の細胞から作成したiPS細胞(人工多能性幹細胞)で、老化の痕跡である「テロメア」と呼ばれる染色体の部分の長さが回復していることを明らかにしたと発表した。iPS細胞が老化による皮膚ダメージをリセットすることが分かったとして、老化メカニズムの解明や、次世代化粧品への応用研究を進める。
 iPS細胞は、様々な細胞に分化し、増殖する万能性を持つ幹細胞。ヒトの皮膚などの細胞に遺伝子などを導入して培養することで、未分化の多能性幹細胞に「初期化」できる。研究では、既に老化した細胞を初期化した場合にどの程度回復されうるのかという点に着目した。
 テロメアは染色体の両端にある。細胞分裂とともに短くなっていき、限界を超えて短くなると細胞分裂が止まってしまう。このため、テロメアの長さは老化の指標として知られている。
 研究で使用したiPS細胞は、同じ人の36歳から67歳の異なる時点で得た皮膚繊維芽細胞から、京都大学iPS細胞研究所と、同社研究顧問で元同研究所特任教授の加治和彦氏が共同で作成した。元となる細胞とiPS細胞のテロメアを比較すると、iPS細胞のテロメアはどの年齢の時点でも長さが回復していることが分かった。
 またどのiPS細胞も、表皮を構成する細胞に正常に分化させることに成功。細胞の老化の痕跡が初期化の過程で取り除かれ、iPS細胞の機能にも影響を及ぼさない可能性が示唆されたとしている(ITmediaニュース)。
=====(ここまで引用)=====

 うーん、テロメアが回復していたのかあ・・。となると、これは、ひょっとしたら私が預けている細胞バンキング、ほんとに意味無くなるかもです(^^;。最初のニュース読んだ時は、まさかテロメアまでは回復していないだろうから、年取った細胞からiPS細胞経由で皮膚の細胞作ったとしても寿命は短いだろう、と踏んだんですが・・。
 でもですよ、皮膚片からの初代培養、これは老化してると勢いが悪い。せっかく皮膚片採っても繊維芽細胞がシャーレの中で生えてきてくれなければ、iPS細胞にする以前の問題です・・って説得力弱いか(汗。
 コーセーの「化粧品」開発、これ、老化した肌から繊維芽細胞取ってきてiPS細胞経由で若いというか赤ちゃんの頃の皮膚細胞を作製して、置き換えちゃいましょう、って構想なんでしょうかね・・だとすると、この「化粧品」、最低でも数百万円のものになりそうです。


追記その2
下記サイトみつけました。
http://www.saiseiiryo.info/
これによると、認定再生医療等委員会の審査を経て厚労省に届け出をすれば、PRP施術出来そうでもあります。
しかし、この認定再生医療等委員会、審査料いくらになるのか・・この審査をビジネスとして立ち上げるところが増えてくるのだろうな・・。審査料100万円とか言われたら、うちみたいに一回5万円、3万円でやってるところは嫌気さしてやっぱり止めますね。
単価上げる気はないです。そこまでの施術とはどうしても思えないので。
さてどうしたものやら・・。
 
☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆―――――☆

 さて、話は変わって、今月から、隣のアトリエに続いて、覚王山に「鶴舞公園クリニッククオール(QOL)」という分院を新たに開設しました。


鬼まんじゅうの梅花堂のすぐ東にある白いビルの4階です。


エレベーターを出て右側、カーテンの向こうです。


ここでアトリエと同じく、女医さんがカーボンレーザーピーリングとアートメイク、プラセンタ注射などをします。


実はここ、エステサロンのビルの一室です。エステの経営者の方(うちのお客さんでもあります。糸入れたり切ったりいろいろしていらっしゃいます)と話がはずんで、その方の経営するエステサロンに順次うちの分院を開設していこうじゃないか、という話になりました。
 ここをご覧になっている女医さん、こういうお仕事に関心のある、とくに現場から離れて主婦をなさっている方、よろしかったらお手伝いしていただけないでしょうか?
 勤務時間は完全にそちらに合わせます。例えば「火曜日の10時から、保育園に迎えに行くまでの2時頃までならいい」ということであれば、その間だけで結構です。完全予約制ですから、まずは女医さんの都合を聞いて、その時間にお客様の予約をお取りすればいいです。
 むしろ、そういうご家庭の都合でフル勤務出来ないという方のほうが、こちらとしては安心です。ぶっちゃけ、技術ノウハウだけ習得してさっさと隣で開業、なんて美容外科業界でありがちなパターンになりにくいでしょうから(^^;。末永く中途半端な、しかし丁寧なお仕事して頂ける方歓迎です。最初はもちろん本院またはアトリエのほうでご指導しますよ。

 たぶんですが・・営業として料金を頂くのではなければPRP施術自体はノウハウもあるし可能ですから、女医さん、うちで働いて頂ければ来年11月以降もPRP施術可能だと思います(^^;。そこらへん、法律よく読んで弁護士さんにも聞いてみないといけないかもですが。
 
 覚王山近辺に住んでいらっしゃる女医さん多いんじゃないかな。名古屋以外でも、上記のエステサロンの方、全国にいくつもサロン持ってますから、ご相談に乗れるかもしれません。よろしかったら052-264-0213(株式会社深谷)までお電話ください。

※この記事には追記(関連記事)があります→こちら「PRP療法11月以降もできそうです」
(2014年10月16日記)


ヒアルロン酸注射による失明について(その2)

その1は→こちら

1 解剖的知識についての補足

 解剖学的知識についてまとめておきます。

(Iatrogenic retinal artery occlusion caused by cosmetic facial filler injections. Am J Ophthalmol. 2012 Oct;154(4):653-662.より引用)

 一般的には眉間あるいは鼻根部が危険部位と言われていますが、法令線への注射で失明することもあるようです。上図は2012年に韓国ソウル大学が12例をまとめて報告した文献からの引用です。11例中5例で法令線に注射されていました。
 それでは、眉間・鼻根と法令線だけが危険であとは大丈夫なのか?というと、そうでもないことは、先回紹介した中国の報告が示しています(→こちら)。上まぶたやこめかみといった個所への注入でも事故例が報告されているからです。
 解剖学的には下図のように説明できます。

 
目の周りには、小動脈が網目状に張り巡らされています。これはsupraorbital a. やfrontal a.、lacrimal a.とつながっています。
 これらはいずれも眼動脈(Ophthalmic)の枝です。ですから、運悪くこの細い動脈に針先がちょうど入ってしまえば、塞栓は起こりうるわけです。
 こめかみの辺りには、superficial temporal a.のfrontal branchがあります。ここから眼動脈への流入もある、ということです。そう考えなければ説明がつきません。
 解剖を知れば知るほど、「安全な個所などないのではないか?」と感じてしまいます。あえて言うと、目の下は外出血しやすい個所ではありますが小動脈は発達しておらず、症例報告もないので大丈夫かなあ?と思います。

2 ヒアルロン酸以外のフィラーなら安全か?

 そんなことは無いです。そもそも日本で最初に報告された失明例は自己脂肪の眉間への注入によるものでした(日眼会誌、111巻1号p22-25)。2006年のことです。
 また、すでに引用した中国および韓国の報告には、コラーゲンによる例もあります。およそ粘調なものを注入すれば、一般的に生じうる合併症だと言えます。
 PRP(血小板濃厚血漿)に関しては、ゲル状に「活性化」して注入する方法でなければ安全なはずです。「活性化」したものは血栓そのものと言ってもいいですからリスクはあります。私が考案した方法(→こちら)は、抗凝固剤・血小板凝集抑制剤を加えたサラサラ血漿なので大丈夫です。

3 失明したあと視力は回復しないのか?

 必ずしもそうでもないです。世界で始めてヒアルロン酸の注入で視力障害を来たした報告は、2006年のドイツのものですが(Retinal branch artery occlusion following injection of hyaluronic acid (Restylane).Clin Experiment Ophthalmol. 2006 May-Jun;34(4):363-4.)、この例では「回復した」と記されています。また、前述の韓国の報告の中にも視力がある程度回復したケースがあります。
 しかし大部分は回復しないようです。

4 針の工夫について

 マイクロカニューレという針があります。

上図のように先端が鈍になっていて、血管を傷つけにくいというものです。最近はこれを用いてヒアルロン酸注入を行う施設も多いようです。
 「痛みや内出血を軽減します」という謳い文句で紹介されていることが多いようですが、これ絶対、血管内塞栓による失明のリスク軽減目的で皆さん導入されているんだと思いますよ。「失明のリスクが減るかもしれません」と書くとお客さん引いてしまうから書かないんだと思います。
 有難いことにYouTubeに動画もあります(→こちら)。鈍針ですから、皮膚に刺さりません。なので、最初に普通の針でつついて小切開しておく必要があるようです。
 とりあえず、私もマイクロカニューレを積極的に使用していこうと考えます。
 ただし、明らかに(100%)血管内に入るリスクの無い個所、すなわち小じわに対して非常に浅く打つ場合には、これまで通り鋭針を使います。マイクロカニューレだと、細かい仕上がりはしにくいでしょう。
 法令線や鼻などの深部に打つ場合は、これからはマイクロカニューレでなければ怖くて打てないかもです。

 もう一つ、私のアイデアを紹介します。通常の針では、下図のように塞栓(embolism)を起こしえます。

 そこで、下図のように通常の鋭針に細長く切れ目を入れてみます。この長さは小動脈の直径(約1mm)の2~3倍くらいあればいいでしょう。

 すると、もし血管(動脈)に当たった場合、動脈内は陽圧ですから、ピンク矢印のように血管内→組織に向かって出血(内出血)が起きるはずです。ここでシリンジに圧を加えても、ヒアルロン酸は流出圧に押されて血管内に入りにくいのではなかろうか?
 デメリットとしては、動脈に当たった時に血管外への出血量が多くなりますが、むしろそれは血管に当たったサインと考えて、ヒアルロン酸の注入を中止すればいいです。動脈に入っていることに気が付かずに注入して塞栓がおきるわけですから。

 こういう針が、技術的・コスト的に作製可能かどうか、メーカーの方に問い合わせてみました。可能なようです。来週クリニックまで打ち合わせに来ていただくことになりました。
 
 このテーマについては、また続き書きます。お楽しみに。
☆ーーーーー☆ーーーーー☆ーーーーー☆
 文末にちょっと蛇足かもしれませんが・・私は開業以来ずっと非吸収糸によるたるみの引き上げを施術してきています。
 多くの方が「糸は怖い、ヒアルロン酸でちょっとだけ直して欲しい」とおっしゃいます。
 糸よりヒアルロン酸注射のほうが、よほど怖いと思いますよ。といっても飛行機が落ちるくらいの確率だとは思いますが・・。
 今回のお話は、「安全だと思っていたヒアルロン酸ですら、こんなに怖いのか!」ではなく、「安全だと思い込んでいたヒアルロン酸のほうが、実は怖かったのか!」と驚いてください。
 人間でも、優しそうな人が意外と恐かったり、恐そうな人が意外と優しかったりってあるじゃないですか。そういうことです。

 その3に続く→こちら
(2014年9月26日記)

ヒアルロン酸注射による失明について(その1)


 非常に深刻なテーマではありますが、現実に合併症として存在する以上、タブー視して触れないわけにもいきません。
 ただし、「こんな合併症がありますよ、怖いですねー。」で終わってしまっては芸が無いので、なんとかこれを回避する工夫について考えてみたいと思います。

 まずどうしてヒアルロン酸注射で失明することがありうるのか?というメカニズムですが、下の眼球周囲の血管の分布図をご覧ください。
一番左の太い血管(内頸動脈)から眼動脈が分かれています。これが眼球を栄養する血管枝を出した後、最終的に目尻のあたりから皮膚に上がってきて皮膚を栄養する血管となっていきます。


 ヒアルロン酸を目周りの小じわの改善のために打った時に、この細い動脈にたまたま針先が入ってしまい、そこから逆行性にヒアルロン酸が血管内に入っていくと、眼動脈の基部のあたりまで達することがあるようです。確率的にも非常に低い話とは思いますが、実際にそういう報告が複数ありますから、100%起きないとは言い切れません。


症状としては、注射直後からすぐに視力が低下して見えなくなってしまうので、たとえば今このブログを読んでいる方、「先週ヒアルロン酸を打ったばかりだけど、これから失明するかもしれないのかしら?」と不安にならないでください。あとから視力が低下したという報告はありません。直後に症状が現れるようです。

 私も開業して10年以上、毎日のように目周りのしわにヒアルロン酸を打っています。延べ数でいうと一万例近くになるでしょう。しかし、アレルギーや末梢皮膚の軽い壊死の経験はありますが(→こちら)、失明という合併症は経験がありません。
 「これまで大丈夫だったから、今後もたぶん大丈夫だろう」と楽観的に考えることも出来なくもないですが、お客様から見れば、ずいぶん不安な話です。どうしたらこういう取り返しのつかない合併症は100%回避できるのか?について研究しておきたいと考えました。

1.注入量の問題か?

 まず実際の症例報告について。実は今回この問題をいちどじっくり研究しておこうと考えたのは、日本眼科学会雑誌の今月号に症例報告が掲載されたのを知人の眼科の先生に教えていただいたからです(日眼会誌118: 783-787.2014、美容整形目的で鼻背へヒアルロン酸注射後に眼動脈閉塞を来した1例)。20才の女性が、鼻根および鼻背にヒアルロン酸0.7mlを注射した直後より、右眼失明したという症例です。
 ネット上で公開されている医学報告もあります(→こちら)。リンク先は中国の医学雑誌で、11人の患者の症例報告をまとめたものです。ヒアルロン酸だけではなく、脂肪注入やコラーゲンでの失明も含まれています。一覧になった表を引用します。

 
この表を見ると、注入量がちょっと多いかな?と感じます。最少はcase10の上まぶたへの0.6mlですが、上まぶたに0.6mlと言うのは、私の感覚ではかなり多いです(私はせいぜい0.2-0,3ml)。case10は鼻で0.9ml、先の日眼会誌の報告も鼻で0.6mlですが、私はこの部にもせいぜい一回に0.2-0.3mlです。
 それで、「注入量が少なければ安全なのだろうか?」と考えて計算してみました。小動脈と言うのは、内径がだいたい0.5-1.0mmくらいのようです。皮膚から眼動脈の基部まで、だいたい5cmくらいとしましょう。すると血管内容積は直径0.5mmの場合、0.25×0.25×3.14×50÷1000 = 0.01ml・・。直径1mmとしてもこの4倍ですから、0.04mlです。たまたま動脈内に針先が入ってしまったら、かなり少量でも眼動脈の根元まで達しそうです・・。

2.注射部位の問題か?

 ネット上では、「解剖に熟知していない初心者が注射するとこういうことが起きる。自分は形成外科のエキスパートであり、血管走行の解剖を熟知しているから大丈夫だ。」と豪語する先生もいるようです。しかし、血管の走行というのは、anomaly(変則・例外)が非常に多いです。判りやすい例が右胸心です。心臓が左ではなく右にある人だっています。こんな小動脈が全ての人で解剖図譜通りに走行しているわけがない。

 「鼻にヒアルロン酸は注射しない」というポリシーの先生もいます。しかし、上の中国の症例を見ると、注射部位は鼻に限りません。額やこめかみ、上まぶたなど様々です。リスクを完全に避けるためには、眼周りには一切の注入系の施術はしない、が正解でしょう。

 実際、私も少なからず悩んでいます。今まで運よく、こういう悲惨な合併症に当たらず過ごしてきた。しかし、今クリニックは混んでいて(現在予約7ヶ月待ちです)、「眼周りには一切注入系の施術はしません」と宣言したところで、経営に支障はない。守りの観点からも、いっそそうしようか?とも思います。
 しかし、私が止めました宣言したところで、ヒアルロン酸を眼周りに打つ施術は無くならないだろう(他の先生たちは打ち続けるだろう)。この際、失明と言うリスクを100%回避できるうまい方法はないものか、とことん考えてみたほうが社会的にも有意義だ、そう考えて今こうやって記しています。

 話はそれましたが、要は「注入部位の問題ではない(解剖学的知識の問題ではない)だろう(はずだ)」ということです。(解剖についての補足は→こちら

3.注射時の圧力はどうだろうか?

 動脈というのは、内圧が高いです。眼動脈も、径が細いとはいえ、60mmHg 以上の圧は持っているでしょう。


 すなわち動脈内と周辺の組織とは、もともと60mmHgくらいの圧差があるはずです。
  ヒアルロン酸を組織に注入するときには、組織を押し広げていく感じですから、抵抗があります。ある一定の圧以下ではまったく入らないでしょう。ある圧力以上でようやく入るようになる。この圧をAとします。 
  小動脈内に注入する場合には、細い管の中を60mmHgの陽圧の血液を押し戻していく感じです。ヒアルロン酸というのは粘稠ですから、これが細い管に入っていくにはやはり抵抗があるでしょう。この圧をBとします。
 もしA<Bであれば、A<かつ<Bの圧は、組織には入るが小動脈内には入らない、いわば「絶対的安全注入圧」と言えます。
 簡単にいうと、非常にゆっくり、少量ずつ入れることで、組織には入るが動脈内には入らない注入手技が存在するかもしれない、ということです。
 逆にいうと、もしもこの「絶対的安全注入圧」が存在しなければ(A>Bであれば)、どんなに低圧でゆっくり入れても動脈塞栓は起こりうる=ゆっくり入れるという手技は意味が無い、ということでもあります。
 この線でまずは検討してみようと考えました。
 また、この注入圧の観点は、1の注入量の問題にも関係します。なぜなら、注入量が多くなると組織圧は高くなりますから、それにあがらって注射するために、注入圧は必然的に高くなります(パンパンに腫れるくらい注入するためには強い力で押さなければならない)。すると、動脈に針先が入ってしまった場合に、血管内にヒアルロン酸が注入されやすくなるでしょう。

4.実際にどのくらいの圧で注入しているのか?

 簡単にですが、実験して計算してみました。
 500円玉というのは、一個がだいたい1mmHgの重さとなるのだそうです(→こちら)。
 それで、レスチレインを添付の30G針をつけて逆さにして、500円玉何個乗せるとポタポタとヒアルロン酸が落下しはじめるのかを確認してみました。
 実際にやってみると、下のように500円玉26個、100円玉30個乗せて、ようやく1分間に一滴の速度で落ち始めました。100円玉を使ったのは手持ちの500円玉が無くなってしまったためです。



 「500円玉一個が1mmHg」と書きましたが、これは500円玉が500円玉の面積全体で支えられた場合の話で、この実験の場合には、レスチレインのシリンジの内筒の面積(直径6mmなので0.027cm2)で支えられていますから換算しなければなりません。500円玉一個7.2g、100円玉一個4.8gとして、(7.2×26+4.8×30)/0.027=12267g/cm2=902mmHg。
 実際に注入する際には、結構な圧を指で押してかけているようです。
 実感にそぐうかどうか確認するために、血圧計を工作して、下図のようなものを作ってみました。



 シュポシュポとマンシェットに空気を入れて、圧を200mmHgで止めてやります。次いで途中につないだ三方活栓ににつないだシリンジの内筒に指を当てながら、三方活栓を開放してやる。すると200mmHg の圧でシリンジを押したときの触感が解ります。
 圧を100→200→300と変えて、そのときの触感を指で記憶すると、だいたいこのくらいで押すと200mg、という感じが解ります。問題は900mmHg以上という実際にヒアルロン酸を注入しているであろう圧が、この装置では体験できない点ですが・・。しかし実際に300mgHgを体感してみると、900mmHgで一分に一滴しか入らない、というのはちょっと少なすぎるような気もします。

 いまのところ、ここまでです。中途半端で御免なさい。
 現在、注入圧を実際に数値化できるようなデバイスが出来ないか、知り合いの電気屋さんと検討中です。内筒を指で押す部分に圧センサーを取り付けて、数字部分は腕時計のように表示されるデバイスをイメージしているのですが、果たしてうまくできるかどうか・・。
 試作品できたら、また続き書きます。

(追記)
 鳥のもも肉と食用色素を買ってきました。さて、何が出来るのでしょうか?
 
大腿動脈からカテーテルを入れて、先ほどの血圧計と組み合わせて、70mmHgで注入します。

 動脈圧70mmHgの簡易実験モデルが出来上がりました。
 ・・本当は生きた小動物の血管使って実験したほうがいいのでしょうが、大学など研究機関でなければ出来ないですから苦肉の策です。時間がたって組織が痛んでいるため、若干色素の漏出はありますが、使えそうな血管はあります。血管内の凝結塊が心配だったのですが、血抜きがしっかりされているのでしょう、太めの血管には色素が行き渡るようです。
 このもも肉モデルを使って、いろいろ実験してみようと思います。

 続き(その2)は→こちら
 (2014年9月19日記)