タトゥー彫り師に独立したライセンスを与えてはならない(その3)


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【「タトゥー無罪」の逆転判決を読み解く5つのポイント(神庭亮介)】
https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/tattoo-point
タトゥーはアートか医療か――。医師免許なしに客にタトゥーを入れたとして、医師法違反の罪に問われた彫り師の増田太輝さん(30)に対し、大阪高裁は逆転無罪の判決を下した。
判決はどんなロジックで無罪を導き出し、彫り師業界にはいま、何が求められているのか。5つのポイントにまとめ、解説する。
1.タトゥーは医療ではない
大阪高裁の西田真基裁判長は、増田さんに罰金15万円の有罪判決を下した大阪地裁の判断について「医師法の解釈適用を誤ったもの」として破棄した。
一審判決は医行為を「医師でなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と定義し、感染症や皮膚障害、アレルギーを引き起こすおそれのあるタトゥー施術は医行為に当たると結論づけた。
これに対し、弁護側は医師法制定当時の国会答弁や学説を根拠に、医行為は「疾病の診断・治療・投薬」など医療に関連するものであると主張。上記の定義の前提として「医療関連性」が必要だと訴えた。
地裁判決の定義だけでは、理容師の顔そりやネイルアート、まつげエクステなども「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」として、医行為扱いになってしまうからだ。
高裁判決はこうした弁護側の主張を認め、「医療関連性も必要であるとする解釈の方が、処罰範囲の明確性に資する」と判断。
タトゥー施術によって「保健衛生上の危害が生じるおそれ」があることを「否定できない」としつつ、「本件行為は、そもそも医行為における医療関連性の要件を欠いている」と指摘した。
整理すると、医行為というためには
①医療関連性がある
②医師でなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為
の2つの要件を満たす必要があるが、タトゥー施術は①を満たしていないので、医行為には該当しないことになる。
2.彫り師と医師は別の仕事
「入れ墨(タトゥー)は、地域の風習や歴史的ないし風俗的な土壌の下で、古来行われてきており、我が国においても、それなりに歴史的な背景を有するものであり、1840年ごろには彫り師という職業が社会的に確立したと言われている」
高裁判決はタトゥーの歴史や文化に対して、一定の評価を与えた。
ある時期以降、反社会的勢力の構成員が入れ墨を入れるというイメージが社会に定着し、世間一般に否定的な見方が広がったとする一方、近年では外国での流行の影響もあって、ファッション感覚や個々の心情の象徴としてタトゥーを入れる人が増えていると考察。

「タトゥーの歴史や現代社会における位置づけに照らすと、装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義があり、また社会的な風俗という実態がある」と指摘した。
彫り師と医師という職業の違いについては、以下のように言及している。
「彫り師やタトゥー施術業は、医師とはまったく独立して存在してきたし、現在においても存在しており、社会通念に照らし、タトゥーの施術が医師によって行われるものというのは、常識的にも考え難い」
「タトゥーの施術において求められる本質的な内容は、その施術の技術や、美的センス、デザイン素養などの習得であり、医学的知識及び技能を基本とする医療従事者の担う業務とは根本的に異なっている」
「医師免許を取得した者が、タトゥーの施術に内在する美的要素をも習得し、タトゥーの施術を業として行うという事態は現実的に想定し難いし、医師をしてこのような行為を独占的に行わせることが相当とも考えられない」
彫り師と医師は別の職業。当たり前といえば当たり前なのだが、一審判決ではこの点が一緒くたにされていた。高裁判決はこの「当たり前」を丁寧に解きほぐした、常識的な内容と言える。
3.美容整形やアートメイクはどうなるの?
医療関連性がなければ「医行為」に当たらないとすると、美容整形やアートメイクの扱いはどうなるのか。
一審判決は医療関連性を要件とした場合、「美容整形外科手術等の医行為性を肯定することができない」としていたが、高裁判決は美容整形に関して「劣等感や不満を解消することも消極的な医療の目的として認められる」と判断した。
美容整形手術を「消極的な意義において患者の身体上の改善、矯正を目的とし、医師が患者に対して医学的な専門知識に基づいて判断を下し、技術を施すもの」とみなし、医療関連性の要件を設けたとしても「医行為に該当する」という解釈だ。
アートメイクは、美容のために眉やアイライン、唇などに針で色素を注入する施術。技術的にはタトゥーと共通する。
高裁判決は「アートメイクの多くの事例は、美容整形の概念に包摂し得る」「美容整形の範疇としての医行為という判断が可能」と指摘。
「医療関連性がまったく認められないタトゥーの施術とアートメイクを同一に論じることはできない」として、両者を明確に切り分けた。
近年、彫り師に対する医師法違反容疑での摘発が相次いだ背景には、アートメイクによる消費者被害があった。
アートメイクによるトラブル拡大を受け、厚生労働省は2001年、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」は医師にしかできない、とする通知を出した。
警察はこの厚労省判断を根拠に、「医師免許なしのアートメイクが医師法違反であれば、同様の技術を用いるタトゥーも医師法違反に当たる」というロジックで彫り師に対する取り締まりを強めていた。
タトゥー側からすれば「とばっちり」とも言える状況だが、今回の判決はタトゥーとアートメイクを「別物」として交通整理する形をとった。
4.職業選択の自由、侵害のおそれ
医師免許がなければ、客にタトゥーを彫ってはいけない。そんな一審判決の解釈について、高裁判決は「被告人の職業選択の自由を侵害するおそれがあり、憲法上の疑義が生じるといわざるを得ない」と疑問を投げかけた。
医師免許を取得するには、医学部で6年学び、医師国家試験に合格する必要がある。数ある資格試験のなかでも非常に高いハードルだ。
高裁判決は「タトゥー施術業は反社会的職業ではなく、正当な職業活動であって、憲法上、職業選択の自由の保障を受けるものと解される」と判断。医師免許を求めることは「タトゥーの彫り師にとって、禁止的とも言える制約になることは明らか」と断じた。
弁護側は職業選択の自由だけでなく、彫り師の表現の自由や、タトゥーを入れたい客の表現の自由、自己決定権に対する侵害でもあると訴えた。
ただ、こうした主張に対して高裁は「これらの点を検討するまでもなく、タトゥー施術業は医師法にいう医業に該当しない」として、明確な言及を避けた。
京都大学の曽我部真裕教授(憲法学)は「タトゥーが表現の自由や自己決定権に含まれるかというのは非常に新しい論点なので、そこまでは踏み込まなかったのだろう」と推し量る。
5.どんな制度が望ましいのか
高裁判決の解釈をとった場合、タトゥー施術に対する規制は存在しないことになる。規制の空白に対して、どう向き合っていけばいいのだろうか。
高裁判決は、今後を見越した対応策にも言及している。
「医師法の医行為を拡張的に解釈してこれを処罰対象として取り込むのではなく、必要に応じて、業界による自主規制、行政による指導、立法上の措置などの規制手段を検討し、対処するのが相当」
「医師でない者のタトゥー施術業を医師法で禁止することは、非現実的な対処法というべきである」
欧米には届け出制や登録制、許可制など、彫り師に特化した制度がある。
「我が国でも、彫り師に対して一定の教育・研修を行い、場合によっては届出制や登録制など医師免許よりは簡易な資格制度を設けるとか、衛生管理の基準や指針を策定することなどにより、保健衛生上の危害の発生を防止することは可能である」
「(タトゥー施術で)必要とされる医学的知識及び技能は、医学部教育や医師国家試験で要求されるほど広範囲・高水準なものではなく、より限られた範囲の基本的なもので足りる」
高裁判決が提案した「自主規制」に関しては、すでに具体的な動きも出始めている。
弁護団の吉田泉弁護士は彫り師の業界団体「日本タトゥーイスト協会(仮称)」を立ち上げ、衛生や安全に関する自主規制基準を策定することを目指している。
吉田弁護士は「今回の判決で、業界団体や自主基準をやれ!と発破をかけられた感じがします。この判決を追い風にしないといけない」と語る。
協会は300人を目標に、今月にもメンバーの募集を始める。和彫りやタトゥーなどのジャンルを区別せず、全国から参加を呼びかけるという。
彫り師の世界は師弟や一門の関係が濃く、派閥性が強いとも言われる。そうした壁を乗り越え、業界全体として結束できるかどうかがカギになりそうだ。
弁護団長の三上岳弁護士は言う。
「規制がないからといって、衛生の知識や配慮を欠いた『自称・彫り師』のような人が出てきたら、真っ当にやっている彫り師の方々にも迷惑。絶対にやめていただきたい」
「誰もが安心してタトゥーを入れられる環境をつくらないといけない。これで終わりではなく、ルールづくりへ向けていまからがスタート。彫り師の皆さんにも気を引き締めてほしい」

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大阪高裁の判決は確定していないので、判決文を入手することが出来ません。新聞記事などの二次情報をもとに推測するしかないのですが、上記記事からは、かなり論点が浮かび上がってきます。
タトゥーが医行為ではないとされた根拠は、「医療関連性」がないということのようです。
一方、美容外科の施術やアートメイクは、「劣等感や不満を解消する」という「消極的な医療の目的」があるから医行為である、と解釈したようです。
さて、そうなると、ピアスの穴開けはどうなのか?舌を二つに切り裂くスプリットタンの施術もまた、医療関連性があるとは言えないから医師以外のものが業として行っても良いということになるのではないでしょうか?要するに身体改造系の施術は、どんなに「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」としての程度が大きくても、医行為ではなく、無資格者で可となってしまいます。極端な話、指や性器を切断する施術ですら、合法ということになります。
「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」としての程度が大きい場合には、「医療関連性」が明白でなくても、これを医行為として医師(または医師の指示)によってのみ行うことが出来るとしたほうが安全です。
さて、そうすると、タトゥー施術の「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」としての程度が問題になります。私たちタトゥーやアートメイクの合併症や除去の困難さを熟知している医師から観ると、大阪高裁の裁判官の認識の甘さが非常に気になります。
タトゥーを入れた人のうち、どの位が就職やその後の社会生活に不便をきたして、これを除去したいと考えるに至ると思うでしょうか?「タトゥー除去の窓口」によれば、若い頃にタトゥーを入れた30~40代の80%以上の人が「タトゥーを消したい」と考えているそうです。繰り返し記していますが、タトゥーを消すには、色素を入れる時よりも激しい痛みを伴うレーザー施術が複数回必要となり、費用は通常数十万円から数百万円かかります。なおかつ完全には消えません。うっすらと残るか、完全に消そうとすれば瘢痕を残します。
タトゥーは入れるのは簡単ですが、その後の精神的苦痛や除去の困難さを考えると、「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」としての程度は非常に大きいです。施術に当たっては、この点のインフォームドコンセントをしっかりと取って、それでもタトゥーを入れたいという強固な意志を確認しなければなりません。だから医行為として、医療の範疇におかれるべきです。
高裁は「我が国でも、彫り師に対して一定の教育・研修を行い、場合によっては届出制や登録制など医師免許よりは簡易な資格制度を設けるとか、衛生管理の基準や指針を策定することなどにより、保健衛生上の危害の発生を防止することは可能である」「(タトゥー施術で)必要とされる医学的知識及び技能は、医学部教育や医師国家試験で要求されるほど広範囲・高水準なものではなく、より限られた範囲の基本的なもので足りる」と、彫り師独自の届け出制や登録制を提案したようです。
しかし、よく考えてみましょう。果たして、このようなライセンスを彫り師に与えることによって、何がどう変わるのでしょうか?
彫り師たちはライセンスを得て若者たちにこれまで以上にタトゥーを勧めるでしょう。そこに「将来後悔するかもしれない、除去は困難である、アレルギーを発症したら難治である、色素に何が含まれているのか自分たちは実は全然把握していない」そういったことを「自主規制」によって積極的に伝えるという姿は想像できません。ライセンスの無い現在のほうが、若者に誤った安心感を与えないという点でまだましです。
だから、タトゥーもアートメイク同様、というよりも、広範囲に多種類の色素を使う分なおのこと、医行為として医療の管理下におかれるべきです。具体的には、彫り師にライセンスを与えるとしても、医師の指示のもと施術されるべきです。
これも繰り返しになりますが、医師が彫り師を管理して上前をはねようということではないです。タトゥーを医行為とすることは、医師にメリットデメリットの説明責任を持たせるということです。彫り師は、合併症や除去の困難さを知らないし対処も出来ないのだから、独立したライセンスを与えるべきではありません。
(2018.11.16記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継

タトゥー彫り師に独立したライセンスを与えてはならない(その2)


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「タトゥーは医療行為ではない」 彫り師に逆転無罪判決 (朝日新聞DIGITAL 2018年11月14日)


医師免許がないのに客にタトゥー(刺青(いれずみ))を施したとして医師法違反の罪に問われた彫り師の増田太輝被告(30)=大阪府吹田市=の控訴審判決が14日、大阪高裁であった。西田真基裁判長は「タトゥーは医療を目的とする行為ではない」と判断。罰金15万円(求刑罰金30万円)とした一審・大阪地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。
 増田被告は2014年7月~15年3月、医師免許がないのに客3人の体の一部にタトゥーを施したとして15年8月に略式起訴され、翌月に罰金30万円の略式命令を受けたが拒否。タトゥーを客に施すことが医師法で医師免許を必要とする「医行為」に当たるかが正式裁判で争われた。
 高裁判決は医行為について、17年9月の一審判決が示した「医師が行わなければ保健衛生上、危害を生ずるおそれのある行為」とする基準に加え、医療や保健指導が目的の行為であることも要件だと解釈した。
 その上で、タトゥーは歴史や現代社会で美術的な意義や社会的風俗という実態があることを踏まえ、「医師の業務とは根本的に異なる」とし、医行為には当たらないと判断。彫り師に医師免許を求めれば、憲法が保障する職業選択の自由との関係で疑義が生じるとも述べた。
 さらに、医師法以外に法規制がないとされてきたタトゥー施術は、業界による自主規制や立法措置などを検討すべきであり、医師法で禁止することは「非現実的な対処方法」だと批判。施術を医行為とした一審判決の判断は「維持しがたい」と結論づけた。
 大阪高検の田辺泰弘次席検事は「判決内容を精査した上で適切に対応する」とコメントした。(大貫聡子)
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本当は、判決文を読んで、以下の文章を書きたいところなのですが、確定していないので公開されていません。ですから、二次情報である新聞記事などを頼りにせざるを得ず、情報の正確さにもどかしさがある点はお含みおきください。
私が今回の高裁判決で憤っているのは、上記の記事中「タトゥーは医行為ではない」と高裁が判断したという点です。
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高裁判決は医行為について、17年9月の一審判決が示した「医師が行わなければ保健衛生上、危害を生ずるおそれのある行為」とする基準に加え、医療や保健指導が目的の行為であることも要件だと解釈した。
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医行為がこのように「目的」でもって規定されるとするならば、たとえば美容外科で行っている二重瞼の手術などもすべて医行為ではなくなります。医行為は、生体への侵襲の程度によって定義されるべきです。
大阪高裁の裁判官は、タトゥーをよほど軽く考えているのではないでしょうか?ボディペインティングではないのです。容易には消せません。レーザー照射を繰り返しても、うっすらとした痕は完全には消えないし、消えたように見える色素は、実は細かく砕かれて体内のリンパ流に乗って深部組織に沈着しています。


 色素が発癌物質を含んでいれば、タトゥーを施された人は、終生発癌リスクが高まります。そういった生体の仕組みを理解せずに、色素の成分は何なのかも知らず、ただ、キャンバスに絵を描くような軽い気持ちで他人の肌にインクを入れる、それが「芸術」だろうか?倫理的な疑問を感じないのか?
 
他の新聞記事には「医師免許ではなく、彫り師をライセンス制度で管理してはどうか」という提案もありました。仮にそのようなライセンスを作るとしても、あくまで、タトゥーの合併症や除去の困難さを熟知した医師の指示のもと、そういったリスクを考慮しても本当にタトゥーを入れたいのか?に関するインフォームドコンセントをしっかりと取ったうえでの「医行為」として位置付けるべきです。
医行為ではない、独立したタトゥーのライセンスによって、何が解決するのでしょうか?単に彫り師の存在を正当化するだけで、私たち医師がこれまで経験してきたタトゥーの悲劇、後始末はむしろ増えるに違いありません。若者がより気軽にタトゥーを入れるようになるでしょう。
誤解して欲しくないのですが、医師に管理をまかせることで、医師に上納金をよこせと言っているのではありません。医行為とすることで、医師に責任を負わせろ、と言っています。独立したタトゥーのライセンスは、単なる免罪符であって、責任の所在を不明確にします。

以下は、来年度から開始する予定の、医師・看護師を対象とした「医療アートメイク検定」の試験問題草案の一部です。あまり、一般の方を不安がらせるのも良くないと考えて、伏せていましたが、これまで無資格者に委ねられていたタトゥーやアートメイクで、具体的にどんな問題が生じていたのかを垣間見ることが出来ると思うので、一部公開します。
極論と言われるかもしれませんが、タトゥーを彫るというのは原発を造るのに似ています。造るよりも廃炉のほうがはるかに費用も労力もかかるし、リスクもあるという意味でです。

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問 次の文章の正誤を判定しなさい。
「黒色色素の主成分として広く使用されているカーボンブラックは炭素(C)であるので、発がん性はない」

×
(解説)
カーボンブラックの工業的製造法には、ファーネス法、アセチレン法などがあるが、炭素原子は様々なストラクチャーで結合しており、粒子径も様々である。またその表面には-OHや-CO,-COOHなどの側鎖を有する。多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons:PAHsベンゼン環を2個以上持つ化合物の総称)も混在しており、これは強い発がん性を有する。ドイツではPAHの代表的な18物質について日常生活品における含有量の規制があり、色素がカーボンブラックを含有する場合には、この規制が一つの目安となるだろう。

 
問 次の文章の正誤を判定しなさい。
「アメリカ製のアートメイク色素を購入した。新品未開封であるので無菌である。」

×
(解説)アメリカ合衆国で販売流通しているタトゥー用の色素の微生物汚染を調べたところ、85検体中42件で細菌・真菌の汚染が認められたという報告がある。そのうち34件では人体に有害な病原菌を検出した(J Appl Microbiol. 2018 May;124(5):1294-1302)。


問 アートメイクの前処置として高濃度の局所麻酔薬を外用したところ、数分後に患者の頸部に蕁麻疹様の発赤が現れて、患者は「少し呼吸が苦しい」と訴えた。脈は速く、血圧を測定したところ,100/60で心拍数は120であった。準備すべき薬剤はどれか?

a アトロピン1㎎ b 生理食塩水50ml c βブロッカー吸入剤 d アドレナリン1㎎ e ケナコルト筋注用40mg


(解説)局所麻酔薬によるアナフィラキシーショックは死亡事故につながる。特効薬はアドレナリン1㎎筋注であるが、安価な薬剤であるにも関わらず、他に用途がないため、外来で常備されていないクリニックも多いので、勤務先を各自チェックしておいたほうがよい。多くの場合は、麻酔薬を拭き取って様子をみることで回復するが、意識障害やチアノーゼなどショックの兆候を認めた場合には救急車を呼ぶよりも先にまずアドレナリンを注射すべきである。


問 次のうち、アートメイクの針で眼球を突いたことにより、強膜炎を起こしていることを示す画像はどれか?

A
(解説)いわゆる白目の部分は表層から結膜・強膜・脈絡膜・網膜の4層構造を取っており、強膜はその名の如く固い繊維製の組織で、網膜を保護している。アイラインのアートメイクを行う場合の針刺し事故の医学報告には、強膜に達して強膜炎を起こしたというもの(A)や、強膜に色素が入って外傷性刺青となってしまった(A,C)というものがある。結膜レベルの針刺し事故はおそらくもっとも多いが、医学報告されるほどの重篤感が無いものと考えられる。強膜炎を起こすと、受傷部位を超えて広く充血・血管拡張がおきる。強膜を超えて網膜まで達した針刺し事故の報告は無いが、もし貫通した場合には、その部から網膜剥離が広がり、また眼内炎を起こしてくるので、失明の危険が高い。
Cはいわゆる黒目の部分の針刺し事故によって、角膜を貫通した症例で、ブドウ膜炎を起こしており、前房蓄膿を認める。報告には患者はこのあと緑内障発作を繰り返したとあり、ブドウ膜炎による隅角閉塞が原因であろう。黒目部分には強膜が無いため、白目部分より針は穿通しやすいと考えられる。患者はおそらく何かの理由で針を注視してしまったと考えられる。
Dはレーシック後のDLK(層間角膜炎)と言われる合併症で、円形のフラップを起こした部分に炎症が見られ、アートメイクとの関連を疑っている論文がある。

 
問 次の文章の正誤を判定しなさい。
「アートメイクをした部位に一致して、施術4か月を経過したのちに痒みをともなう腫れが生じてきた。施術後4か月も経っているのだから、色素によるアレルギーは疑いにくい」

×
(解説)アートメイク色素は生体内に長く残存し、マクロファージなどの抗原提示細胞に晒されるので、施術後長期間経てから感作が成立してアレルギー反応を生じてくることは稀ではない(例:J Dermatol. 1991 Jun;18(6):352-5)。また、色素は生体内で代謝され酵素反応によって異なる物質へとされるため、もともとの色素でパッチテストしても陰性のことも多い。なおかつ、化粧品と異なり、洗浄してアレルゲンを除去することが出来ないので、化粧品のアレルギーと異なり、肉芽腫様、偽性リンパ腫様といった難治性で独特な臨床像に発展することもある。

問 アートメイク施術後痒みと腫れが続いており、色素に対するアレルギーが疑われている。以下の対処法のうち、全身性のアレルギーを発症するリスクのあるものはどれか?
a ステロイド外用
b ステロイド(ケナコルトA筋注用の生理食塩水4倍希釈)の局所注射
c Qスイッチレーザー
d フラクショナルレーザー
e 外科的切除

c
(解説)治療の第一選択はaである。アートメイクはタトゥーと異なり、色素の層が比較的浅いので、炎症とともに自然にアレルゲンである色素が排出されて症状が治まることも多い。それまで対症的にステロイド外用や抗ヒスタミン剤の内服を行う。ただし、ステロイド外用剤を長期連用すると特に眼瞼では酒さ様皮膚炎をおこしやすい。また眼圧が上昇することもあるので眼科との連携が望ましい。肉芽腫様でステロイド外用に反応しない場合にステロイド局注が奏功したとの報告もある。Qスイッチレーザーはアレルギーがない場合には色素除去に有用であり、アレルギーが疑われた症例でも安全に除去できたという報告もあるが、血管周囲の細胞内に取り込まれていた色素を細胞外に放出しリンパ流に乗せてしまうため、色素がアレルゲンである場合に全身性のアレルギー反応(紅斑やアナフィラキシー症状)をきたすことがある。フラクショナルレーザーは皮膚に小孔を開けることによって、真皮から体外への色素放出を促すので、アレルギーが疑われる場合のレーザー治療としては無難と言える。外科的切除は整容的に許される場合には選択肢の一つである。


問 眉のアートメイク施術を受けて一か月後から下図のように黄色の角化を伴う丘疹や扁平な隆起をきたしてきた。誤っている記述はどれか?

a 鑑別診断として色素に対するアレルギー、異物反応、サルコイドーシス、非定型抗酸菌感染症があげられる
b 色素によるパッチテストが陰性であればアレルギーは否定できる
c 組織片の培養で非定型抗酸菌が検出されれば確定診断となる
d 病理組織像が非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫であってもサルコイドーシスと確定診断は出来ない
e サルコイドーシスの患者であっても、患者がアートメイクの再施術を強く希望した場合には、絶対的禁忌ではない。

b
(解説)aはその通りで、臨床像からは様々な病態が考えられ得る。bアートメイク色素は生体内で代謝されたり、蛋白質と結合してハプテンとしてアレルゲンと働いたりするので、色素そのものでパッチテストしても陰性のことが多い。c培養で非定型抗酸菌が検出されれば確定診断となる。dサルコイドーシスの診断方法には病理診断群と臨床診断群とがあり、病理診断群の要件として非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫は必須であるが、同時に「既知の原因の肉芽腫および局所サルコイド反応を除外できているもの」を満たす必要がある(日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会、サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き)。非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫は非定型抗酸菌症など他の疾患でも認めることがあるからである。局所サルコイド反応との鑑別は、皮膚の他部位の皮疹や、両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、血中ACE・ sIL-2R上昇、眼や心臓などの他臓器病変があればサルコイドーシス、無ければ局所サルコイド反応と考えればよい。dサルコイドーシス患者にアートメイクをすると必ず病変を生じるというわけではないので、十分なリスクを説明したうえで患者が希望した場合には施術は可能である(Am J Clin Dermatol. 2018 Apr;19(2):167-180)。しかし現実問題としてはなるべく施術を控えたほうが無難ではあろう。


問 下図はタトゥーに合併した非定型抗酸菌症(Non-tuberculous mycobacteria : NTM)の臨床写真である。非定型抗酸菌症についての記述として誤っているものはどれか?
a 感染経路として施術時に使用された未滅菌のインクや水が考えられる
b 痒みや痛みを伴うことがある
c 培養で検出されなければ否定的である
d 施術後1~4週間後からの丘疹や膿疱で始まることが多い
e 病理組織所見は毛嚢炎や肉芽腫様で非特異的であり診断の決め手にはならない

c
(解説)非定型抗酸菌は生活環境に広く存在し、ときに保存された水中で繁殖して皮膚への感染源となる。自覚症状は痒みや痛みを伴うこともあれば無症状のこともある。病理組織所見は非特異的であり、組織片を抗酸菌培養することで確定診断できるが、陽性率は40~50%であり、検体採取を繰り返してはじめて検出できることもある。他覚症状は丘疹や膿疱、結節、潰瘍、プラーク(扁平な隆起)などである(Dermatol Online J. 2014 Jun 15;20(6),BMJ Case Rep. 2018 Jan 12;2018,問題文中の画像はJ Cutan Pathol. 2012 Dec;39(12):1110-8から)

(2018/11/15記)

続きがあります→その3

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継

タトゥー彫り師に独立したライセンスを与えてはならない(その1)

  
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タトゥー彫り師が医師法違反の罪に問われた裁判の判決に関する声明

タトゥー(入れ墨)を彫ることを業としていた彫り師が医師法違反で逮捕された裁判で、大阪高裁は一審の有罪判決を破棄し、無罪を言い渡しました。果たしてこれで良いのでしょうか?
彫り師側は、医師免許の取得には長い時間と多額の費用がかかることや、憲法が保障する職業選択の自由や、タトゥー施術を自己表現の芸術活動とする被告の表現の自由を侵害することなどを根拠として訴えていました。私は医師の観点から、大きな問題が見過ごされていると感じます。それは、タトゥーを施されたが、後悔して消したいという考えに至る人の多さです。彫り師は墨を入れることは出来ても消すことは出来ません。完全に消すことは出来ないし、多額の費用がかかるという事実も客に伝えません。
世界的には、タトゥーに対する国の姿勢は二つに分かれます。一つは米国に代表される個人責任主義で、タトゥーは各州の簡単な免許のもと、無資格者が自由に施術できます。日本の厚生労働省にあたるFDAも色素などタトゥー用品の安全性には一切関知しません。問題が生じたときにのみ対応します。
もう一つは韓国のように、タトゥーを医療行為として、医師の管理下に置くという方式です。医師の管理下と言っても、医師がタトゥーを施術するわけではありません。医師の指示のもと、看護師資格を有する者が合法的に施術します。
日本の厚労省は、後者を選びました。私は、この厚労省の判断は賢明と考えます。そして、これまでタトゥーやアートメイクといった侵襲的な行為に、合併症の対処や色素の除去といった後手の対応に回っていた自らを恥じて、積極的に希望者に施術もしていこうという有志が集まり医療アートメイク学会が発足しました。
いかなる芸術活動であっても、それが人体への非可逆的で元に戻すことのできない侵襲を加える行為である以上は、医療有資格者の管理下に置かれるべきです。もしも表現の自由を謳うのであれば、ボディペインティングなどの、洗い流せば落ちる行為にとどめるべきでしょう。
繰り返しますが、私たち医師はタトゥーやアートメイクの色素によるアレルギーなどの合併症に苦しむ患者たちを数多く診てきています。そしてそれは体内に注入した異物であるがゆえに、化粧品かぶれのように簡単には治癒しません。また色素の除去には、複数回の痛みを伴うレーザー治療が必要で、費用は通常数十万円から数百万円かかります。かつ、完全に消すことは出来ません。
今回の大阪高裁判決に対し、国は当然最高裁へ上告すると考えられますが、私は、国側を全面的に支持いたします。
将来的に、タトゥーの彫り師がその特殊性から、看護師とは異なる独自の免許制となったとしても、タトゥーが医療行為であるという点は譲れません。合併症や消すことの困難さを熟知した医師の管理下におかれるべきです。

平成30年11月14日
鶴舞公園クリニック院長 
医療アートメイク学会理事
深谷元継

【参考】以下は韓国の事情を記した
http://news.kmib.co.kr/article/view.asp?arcid=0012343995
をGoogleで自動翻訳したものです。

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タトゥー施術、違法ですか? (2018-05-13)
眉毛の入れ墨、レタリング、伴侶タトゥーなどタトゥー人口が100万人ものと推定されるが、肝心のタトゥー施術は違法です。 「タトゥーがなぜ違法ですか?」というイ・サンミンさんの依頼が受理されて取材しました。
タトゥー施術は、医療法27条で禁止されている「無免許医療行為」に該当します。 針を用いて皮膚を打つのは厳然と医療行為なのに、医師の資格もなく、医療行為をしてはいけないというのです。 ため、医療関係者ではなく、タトゥーイストの入れ墨施術は、現行法上違法です。 医師の資格を取った人の中、医療関係者の資格を持つ合法タトゥーイストが10人ほどあったりですよ。 皮膚科医がタトゥー除去手術などをして関心を持つようになっている場合がほとんどだね。
他の国では事情が少し異なります。 全世界をひっくるめて、非医療関係者の入れ墨施術が違法である国は、韓国と日本だけです。 残りの国は、一定の要件を満たしていればタトゥー施術を行うことができます。 米国、英国、オーストラリアなどは、タトゥーイスト免許制を施行しており、衛生教育を必須的に実施してのです。
韓国も非医療関係者のタトゥー施術を可能にしてくれという要求は継続ました。 韓国のファッションタトゥー協会と株式会社アートメイク協会などは昨年12月、憲法裁判所に入れ墨を合法化してほしいという集団憲法訴願請求書を出しました。 タトゥー合法化関連憲法訴願は、1988年以来、5回目だが、初めて個人ではなく集団で請求したものです。 タトゥー人口が徐々に増えているが、無条件の違法処理は不当だという理由だった。 「すでにタトゥーが普及された日陰で行われれば、より危険である」「消費者は、正当なタトゥーを受ける権利がある」「タトゥーイストの職業の自由を保障してほしい」などの声を出しました。
しかし、まだ韓国医療界は、入れ墨合法化を快く思わない。 感染などのウイルス性疾患を引き起こす危険性が高いということでしょう。 実際にオーストラリアで女性が眉毛の入れ墨手術を受けた後、ウイルスに感染した事例もありました。
非医療関係者のタトゥー施術規制、みなさんはどう思いますか?
取材代行小王毅
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鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継