多血小板血漿3:①成分採血(アフェレーシス)によるPRP療法と②自作キットによるPRP療法


多血小板血漿2は→こちら
多血小板血漿4は→こちら
 
①成分採血(アフェレーシス)によるPRP療法

 日赤で行われている献血には、全血献血と、成分献血とがあります。成分献血というのは、血液の中の血漿や血小板など、特定の成分のみを献血する方法で、専用の機械を用いて、採取した血液中から成分のみを取り出して、あとは返します。

 この、血小板のみを取り出した「血小板濃厚液」というのは、PRPそのものです。
(日赤の血小板濃厚液)

 ということは、この機械を入手して、血小板の成分採血を行えば、いくらでも自己PRPを採取することが出来ます。赤血球などほかの成分を抜かないので、貧血にはなりません。また、血小板というのは、普段はほとんど働いていない(けがをしたり出血があったときにのみ止血の働きをする)ので、ある程度大量に採取しても、症状はありませんし、数日たてば元に戻りますから、この間、交通事故などおおきな怪我をしないように気をつけてさえいればいいです。だから、成分献血として、多めに街中で一般人から安全に採取されているわけです。

 それで、この機械を入手できないかと問い合わせてみたのですが、機械本体の購入は出来るものの、血小板成分採血のプログラムやキットは、日赤独自のもので、一般の病院やクリニックには卸されていないことが判りました。なるほど、それでやられていないのか。

 いったんは諦めかけたのですが、ふと閃いて、ある方法(工夫)で日赤の血小板濃厚液とまったく同じものを成分採血することが出来ました。「ある方法(工夫)」というのは、もったいぶった言い方ですが、まあ、ご想像ください(^^;。
機械は、日赤の成分採血で使われているものと同じものです。これを幸いお借りすることが出来たので、うちのクリニックでスタッフのPRPを採取してみました。

 これが採れたPRP液。だいたい全血換算600ml分くらい、約30mlです。所要時間30分ほど。日赤の「血小板濃厚液」レベルですから濃いです。濃度は100万個/μl以上。市販のPRPキット1回分で採れるのはこれよりも薄いものが、1~2本分ですから、20~30キット分くらい一度に採れます。

 採ろうと思えば、もっと採れますが、試験的にやってることなので、そんなに採らなくてもいいし(^^)。

 成分献血では、たぶん全血1L分くらい採取すると思います。人の血液は体重の7%ですから、体重50kgの人で3.5L。全血1Lは30%に当たります。ということは、概算で、1Lの血小板成分採血すると、体内の血小板数は一時的に7割くらいに落ちますが、それ自体で症状が出るということはありません。献血の帰りに交通事故にあったら、出血量がやや増えるだろう、という程度のリスクです。数日でもとにもどります。
 採れたPRP液を、スタッフの志願者本人(といっても皆志願しますが)に注射します。だいたい首全体で20ml(20本)、片手10ml(10本)くらいです。注射に要する時間は、1本につき1~2分。
 結構手間暇かかりました。

 長期経過はまだですが、下の写真は、片手に打った短期のbefore/afterです。
施術側は、筋や血管の間がふっくらしました。札幌医大の佐藤先生のbFGF療法(→こちら)によく似た効果だと思います。まだ注射後数日ですが、初期の腫れは退いているので、これがどのくらい続くか?2ヵ月後くらいからどの程度「張り」が出るか?を経過観察中です。

 もっともPRP療法に効果はそれなりにあることはわかっているので、これだけ大量に注射した場合にどのくらい効果が増強するか?の検証ですが。

 効果を確認したあとは、手間暇と費用対効果を勘案して、うちのクリニックのメニューに加えるかどうか決めます。現在スタッフ2名に施術しました。来週もう1人、成分採血の条件を変えて施術します。「条件を変えて」といっても、確認的なことで、技術的にはほぼ完成です。

 ここをご覧の方で、「ぜひ受けてみたい」という方いらしゃったら、お電話ください。この「大量PRP療法」、どのくらい需要があるものか、わたしもちょっと解らないので。反響あれば、施術メニューに加える方向で前向きに検討します。お電話いただいた方には、施術することになったら、優先的にご連絡します。

 ・・いまのところ、うちのクリニック、あえて新しい施術をメニューに加えなくても、予約だいたい埋まってしまいます。だから、実のところ、そんなに積極的ではありません。ただ、ちょっと「成長因子加PRP療法」の問題を調べ始めて、ふと思いついて、持ち前の探究心にスイッチが入っちゃったんで、研究中という次第です。


②自作キットによるPRP療法

☆(通常の)PRP療法での、遠心分離機の回転数について

 PRP療法について調べている過程で、ちょっと興味深い文献を見つけました。

「多血小板血漿(PRP)精製過程における遠心分離についての検討」
浜田智弘ら、奥羽大学歯学誌 31(4), 243-247, 2004-12-30

 です。下記URLの「プレビュー」クリックすると、全文無料で閲覧できます。
 http://ci.nii.ac.jp/naid/110004686089
通常PRP療法の場合、遠心して上の写真のように分離します。赤血球分画とPRPの間にセパレートゲルが入っていますが、奥羽大学の論文はセパレートゲル無しで、各種回転数、遠心時間で、いちばんPRP回収率のよい条件を探ったものです。

 図表を引用して解説しますと、



 遠心回転数、時間ともに、あまり長すぎないほうがよい、1000rpm(注:ロータ半径16cmでの回転数です。=178×g相当)×5分くらいが一番収率が良い、という逆説的な結果です。

 直観的には、遠心回転数・時間とも、長ければ長いほど、収率いいような気がしませんか?

 なぜだろう?私なりに理由を考えてみました。

 血液中の赤血球や血小板は、液体の中に浮遊する粒子と考えられます。この粒子の沈降速度は、粒子径の2乗、(粒子の比重-液体の比重)、重力(遠心力)に比例します(ストークスの式)。

 赤血球の径は血小板の4倍、比重は血漿:1.027、血小板1.032、赤血球1.095ですから、ざっと計算してみると、赤血球というのは、だいたい血小板の200倍の速さで沈降します。

 下の写真は、採血した全血を、注射器を逆さにして3時間ほど静置したものです。
 地球の重力を利用して、1×gで遠心分離したってことですね。
赤血球の沈降速度は血小板の200倍ですから、上の黄色い部分中には血小板が浮遊していますが、ほとんど沈降していません。PPPとPRPに分離していない状態です。

図3は、1000rpmで5分遠心した後の、血小板の分布です。「軟層」というのはbuffer coatの部分で、PRPキットではこの直下がセパレートゲルで仕切られていますが、奥羽大学の実験ではセパレートゲルが無いので、遠心回転数を上げてgを増やすと、どんどん、赤血球層まで沈降していきます。

 ストークスの式で、重力(遠心力)を大きくしすぎると、血小板と赤血球の径・比重の差が意味がなくなって、沈降速度が近づいてしまう、ということだと思います。

 市販のPRP採取キットでは、セパレートゲルが存在して隔壁になっているのでしょうが、あまり回転数を上げすぎると、セパレートゲルに血小板が張り付いてしまって、その上の血漿部分の血小板絶対数が少なくなってしまうかもしれませんね。

 市販のキットの回転数は3000回転以上のようですが、どうでしょう?1000回転5分のほうが、実は、採取血小板絶対量多いなんてことないかなあ?


☆PRP注射時の痛みや腫れの問題

 今回、実際にPRP液を注射してみて、意外に痛み・腫れが強いんで驚きました。
 自己血漿ですから、痛みも腫れも、ほとんど無いと思ってたので。

 これも、わたしなりに考えました。抗凝固剤として用いられているACD-A液は、PHが5.5-6です。これを1:10くらいで混ぜているので、PRP液というのは、結構な酸性で、その痛みではないだろうか?

 もしそうなら、メイロン(重炭酸ナトリウムの注射液、アシドーシスの補正などに使う)で中和してやれば、痛みは緩和されるはずです。術後の腫れも少なくなるかもしれない。
上の写真の右は中和前のPRP液でPHは6.6くらいです。左は中和後でPH7.0くらいです。

 スタッフにブラインドで、両者を試したところ、100%の的中率で、中和後のPRP液のほうが痛くない、という答えでした。やっぱり。

 ところで、なんで、ACD-Aが抗凝固剤として用いられているのだろう?・・ヘパリンじゃいけないの?
 ヘパリンなら、PRP液は酸性に傾かないので、痛くないはずです。

 わたしの想像ですが、PRP液というのは、元々歯科で、塩化カルシウムを加えて活性化・ゲル化して、欠損に充填するという形で用いられていました。そのときに、ACD-Aのほうが、塩化カルシウムで活性化させやすいと考えたのではないかなあ。ACD-Aの抗凝固作用は、カルシウムイオンのキレート化だからです。ヘパリンの作用機序はアンチトロンビンⅢを介するもので、中和にはプロタミンを使います。価格も高いし、キットとして使うには扱いにくいです。
 美容で注射するときには、注射後、PRPは自己組織で活性化されるでしょう。それまではむしろゲル化してもらっては困ります(注射しにくい)。それならば、痛み・腫れ対策のために、抗凝固剤はヘパリンを使用したほうがよいと考えます。←注:その後、PRP中のPDGFを測定してみた結果、ヘパリンよりもACD-Aのほうが、高値なことが判ったので、現在はACD-A液を用い、最後に溶媒を血漿から生理食塩水に置き換えて痛み対策とするという方法に変更しました。

 今回、ヘパリンを抗凝固剤に用いてPRP液を作成し、スタッフに注射してみましたが、痛みは、中和されたACD-A液のPRPと同等、あるいはそれ以下、という結果でした。

<まとめ>
 PRP療法についての、現在のわたしの関心事は、(1)いちどにアフェレーシスで大量に採取して注射するのがいいのか、(2)少量採血して遠心して繰り返し注射するのがいいのか、です。たぶん向き不向きというか、全体的な張りを出すには(1)がいいし、法令線や小じわなど、局所的なボリューム効果を目的とするなら(2)なんだろう、とは想像できますが。
 仮に(2)を行うとしたら、やはり市販のキットで行うには、コスト考えると、見合わないです。
 「自作キット」って言っても、そんな大げさな話じゃなくて、奥羽大学の浜田先生の論文に準じて1000回転5分の2回法(敬意を表して浜田法と呼ばせていただきます)で採取し、抗凝固剤を薬の卸さんから購入して用時調整すればいいだけの話ですけどね。
(2012年2月15日記)