HPリニューアル原稿:アプトスとエックストーシスについて(1)

 厚労省の方針で、美容外科のHP中の、単純な「before→after」の写真解説が、今年中に規制されて出来なくみたいです。誤解を招きやすいからだそうです。  それで、HPのリニューアルに向けて、  
 基本的な事項をまとめていこうと考えました。写真は入りますが、単純な「before→after」でなく、むしろ詳細な経過写真と解説なら、趣旨から考えて許されるのではないか?と今のところは考えています。
 HPのリニューアルのためなので、ところどころ、現在のHPやブログの写真と重複しています点、御了解ください。

  「糸でのたるみ引き上げ」には、色々な種類があって、眉唾ものから、それなりに効果のあるものまで、様々です。また、同じ材料の糸を使っても、施術する医師が違うと、異なる結果となり得ます。デザイン・技量(経験値を含む)の占める割合が大きいです。

 「握り寿司」のようなものだと思ってください。簡単なようですが、素人にはなかなか真似が出来ません。また、フレンチや中華料理の達人が握り寿司作るとうまくできるかというと、そうでもないでしょう。だから、形成外科の専門医が、アプトスやエックストーシスをやっても、必ずしも上手く仕上がるとは限らないです。

 どうして、糸を入れるとたるみが引き上がるのか?切らずに糸を入れて、どこに固定するのか?という疑問は、普通のひとであればまず抱く疑問です。

 実際に糸を入れて(アプトス)引き上げている動画を用意しました。こういう動画を見ると気分が悪くなってしまうひとには向きませんが、納得したいという方には百聞は一見にしかずです。ご覧ください。
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 アプトス用の糸には、拡大すると下の写真のような「返し」が刻まれています。
この「返し」によって、糸を頬に入れると、下図のように、一方向には動くけれども、反対方向には動きません。
実際のアプトスの糸は、下図のように、両側から中心に向かって「返し」が並んだものです。

ですから、頬のお肉を通して両側から引っ張ると、引き締めたあとは、容易には戻りません(動画の最後で刺出部を軽く押して(マッサージ)ずらしているように、上手に扱えば戻せますが)。
 上の動画では、この糸を頬に通して、両側から締め、その結果、糸を入れた方向と垂直方向へと、たるんだお肉を引き上げているということです。この「垂直方向」というのがキモで、「戻り」(=お顔の表情に伴う「返し」のずれ)を来たしにくいです。

 さて、この糸をどうやって皮下に入れるか?と疑問を抱く人もいるでしょう。真ん中まで入れたら、あと半分は返しに引っ掛かって入らないのではないか?そういう疑問を抱いた方は、この糸の性質をよく理解しています。
 針を使います。さすがに針を刺す動画はちょっと生だとちょっと痛々しいかもなので、紙でプレゼンします。
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 以上を念頭に、もう一度上の動画を見ていただくと、アプトスでたるみが引き上がるメカニズム、および、アプトスを入れておくことが、将来のたるみ防止になる理由が納得いただけると思います。糸が落石防止ネットのように、あるいは洗濯ロープでお肉を吊るすようにして、下がりを食い止めてくれるという仕組みです。

 一方、エックストーシスの引き上げのメカニズムは、もっと解り易いです。引き上げたい方向と同じ方向に糸を入れて引き締めるからです。
 これも、生々しいですが、納得したい方は、下の施術動画を見るのがいちばんいいと思います。

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 下図のように、2本の長い糸をX字様に交差させて、4方向から引き締めます。

このデザインだと、フェイスラインが引き上がるのでダイナミックな変化が期待できます。
 ただし、引き上げる方向と同じ方向に糸を入れているので、「返し」がずれやすい=戻りやすいという欠点はあります。もっとも全部は戻らないし、3週間ほどで組織と固着すれば、それ以降のたるみ・下がり防止になることは間違いないですが。
 
 アプトスとエックストーシスは通常組み合わせて施術します。例えば、上のエックストーシスの基本デザイン(長い糸2本)のみですと、フェイスラインは引き上がるのですが、頬に「そげた感じ」が伴うことが多いです。なので、それを補うために、アプトス2本くらいで補充します。このへんの「デザイン」のノウハウが、経験に基づくわたしの財産です

 わたしは、以前よく、美容外科学会のライブサージェリーとかで、このアプトスやエックストーシスの実演を依頼されて、結構気軽に応じていました(最近はブーム(?)が過ぎたのか、声がかからなくなりました)。

 「先生は、自分の考えた技術を、よく惜しげもなく皆の前で見せるよね」と、感心されたものですが、それはちょうど寿司屋の実演みたいなもので、まあ、真似できるなら、真似してみな、といった、ちょっと不遜かもしれませんが、経験値に基づく自信に裏打ちされていた次第です。

 もちろん、私よりも上手な先生もいるだろうし、私のやり方を見て、すぐにものにしてしまう器用な先生もいるでしょうが、この「糸での引き上げ」というのは、簡単そうに見えるので、ちょっと真似してやってみて、しかし意外とうまくいかなくて懲りて止めて自院のメニューから外す、といった先生のほうが多いのじゃないかと思います。
 最初に記しましたが、レシピを見てフランス料理を作るような具合にはいかないのです。ちょっと特殊な技法ですからね。形成外科の専門医の方をフレンチのシェフに例えさせて頂くと(たぶん失礼には当たらないと思います)、フレンチのシェフが寿司屋の握りを見て、すぐには真似が出来ないようなものです。年配のシェフだと、「あんな、生魚の切り身を、ごはんの上に乗せて丸めただけの料理が美味いはずが無い」と、言うかもしれませんね。

☆もっとも、合併症やトラブルがまったくないわけではないです。

1) 内出血。皮下深いところまで針を通すので、たまに(1%くらい)内出血があります。ぷくっと飴玉を含んだような腫れになり、3週間くらいで退きます。後遺症はありません。

2) 局所麻酔によって、一時的に顔面神経が麻痺して、数時間、口の動きがおかしかったり、眉が上がらなかったりすることがあります。翌日には必ず完全回復します。切るフェイスリフト手術と異なり、永続的な顔面神経マヒを起こすことは決してありません

3) 順調に(内出血無く)済めば、腫れはほとんどありません。うちのクリニックのスタッフも時どき糸を入れますが、お昼休みに施術して、そのままマスクもせず、午後のお客様応対しているくらいです。ただし、食事のときに大きな口を開けるのは結構つらく、術後3日くらいは、ハンバーガーとかはかぶりつけないです。

 「3日間口が開けにくく、3週間違和感があり、3ヶ月越えると、糸を入れたことを忘れてしまうくらい気にならなくなりますよ」と説明しています。

 違和感というのは、口を開けると引っ張られるような感じ(痛みではない)です。違和感には左右差があります(見た目の左右差ではなく自覚症状の左右差です)。通常の経過なので、気にせず待っていてください。いずれ無くなります。

4) 糸の入り具合によって、凹みが出来ることがあります。上に記した「返し」が部分的にお肉をしっかりと引き締め過ぎていることによります。縫い物でいうと、部分的にギャザーが出来たような状態です。早い時期(1カ月以内くらい)なら、指でマッサージして整復できます。もっとも何もしなくても顔の表情に伴って、正しい位置に(均一に)「返し」が配列して直ってしまうことも多いです。

 直るときには、「返し」一つ一つがずれるときに、プチプチっと小さな音がします。「何か音がしたが糸が切れたのではないか?」と心配して電話される方もいますが、切れた音ではないですから、ご安心ください。

 1カ月以上経て、まだ残っている凹みは、用手マッサージによって整復できないことがあります。その場合は、糸を捜して抜いてやらないと(端が見つかれば糸は抜けます)リカバー出来ないのですが、端が見つからない場合は、焦らず待つのがいいです。待っていると、だいたいこういったトラブル糸と言うのは、多少ずれて動いて、端が触ってくることが多いからです。

5) 糸端が浅いところに出っ張って触ることがあります。口周りに多いです。口周りはよく動く部位なので、糸が組織と十分に固着していないと、ポンピングされて、外方に押し出されるのでしょう。触る部分の皮膚に1~2mmの孔を開けて、糸端を5mm~1cm切り取ることで解決します。抜こうと思えば抜けますが、抜くまでの必要はありません。もったいない。

6) 最近は、本当に少なくなりましたが、糸を入れた後で、ネットのネガティブ情報というか「異物なので将来とんでもないことになる」といった煽りを真に受けて、まったく問題のない、上手に入った糸を全部抜いて欲しい、という方もいらっしゃいます(ました)。青い糸ですし、入れたあたりを切開して探せば、取り出すことは不可能とまでは言いませんが、お顔傷だらけで跡も残るし、抜けば抜いたで、たるみは元の木阿弥だし、何も良いことはありません。ネット上のおかしな情報に煽られないでください。

 上手にうまく入った糸と言うのは、お顔を触っても、どこに入っているのか解りません。トラブルのある糸は、必ず端が触るとか、どこにあるかが判明してきます。端が同定されれば(皮膚の上からここにあると見当が付けば)、その糸は抜けますし、抜けばトラブルはまったく解消されます。

7) 感染症。これもこの数年はまったく無くなりましたが、頭皮の浅い部分に糸が入っていると、毛根部分を突き抜けて糸が部分的に露出するためだと思われますが、化膿しておできのように赤く腫れてくることがあります。その部を探せば、糸端が見つかるので、引っ張って抜いてやります(糸というのは、返しで引っ掛かっていますが、引っ張って抜けないわけではありません。ちょっとコツがあります。ゆっくり引っ張ってはマッサージして「返し」をずらして、という作業を繰り返せば、全部抜けます)。

 だいたい、現時点で思いつく合併症は以上のようなことです。

糸の追加について

 現在、いちばん多く糸が入っている方は、130本くらいです。数十本クラスの方は珍しくないです。
 2008年に、学会報告のために、過去3年間の集計をしたのですが、3年間で。絶対数491人、延べ施術数1129件でした。すなわち、一人当たりリピート率=1129÷491=2.3回です。
 3年間に入れた総糸数は3780本でした。1129÷491=7.7本が一人当たりの平均本数になります。それ以降は集計していないのですが、患者の数は増えても減ってもいないので、たぶん似たような数字だと思います。
 リピート率が高いということは、良い施術だという証拠です。もし「こんなものは無意味だ」と感じたなら、また施術受けには来ないでしょう。結果は出たけれども、また欲も出るからいらっしゃるわけです。

 多く糸を入れているリピーターさんの様子を見て、この糸は、入れれば入れただけ、支えになって、老化(たるみ)を予防・先送りにしてくれるものなのだなあ、という感を年々強くしています。とくに、うちで一番多く入れている130本の方は、これは、もちろん名前は申し上げられませんが、マスコミなどへの露出も非常に多く、「美魔女」として評判な方です。50本越えたあたりから、さすがに私も気弱になって、「この辺で一段落して、ちょっと様子を見たらどうでしょう?」と提案したのですが、彼女の直観というか「大丈夫な気がする」という意向に従って、入れ続けました。たしかに、これだけ入れると、下がらないし戻りがありません。彼女の直観が正しかったようです(さすがです)。皮膚の上から触っても全く触れないし、彼女のお陰で本当に私は自信がつきました。
 彼女を追う50本越えのかたは、数十人はいると思いますが、皆、とくに問題はないです。もっとも、リピートして入れに来るひとは、そもそもトラブルを生じにくいタイプだ、という面はあるのかもしれませんけどね。
(2012年2月3日記)
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