しみ取りー判断に悩むケース


  しみ取りというのは、あまり難しい仕事ではありません。とはいえ、「難しい仕事ではない」と言えるまでには、それ相応の経験は必要ですが。
 「難しい仕事ではない」という真意は、ある程度の経験と知識が身につけば、そのあとはパターン的な仕事だということです。

 ①通常のしみ・そばかす、②肝斑、③大田母斑様色素斑、の三つを見慣れて覚えておくことが基本になります。次いで、④ほくろや⑤炎症後の色素沈着、⑥扁平母斑などの鑑別が必要です。

 ①と②または③は、時に鑑別が困難です。①と④~⑥は、ごくまれに鑑別が困難です。

 もっとも、他院でしみ取りレーザー治療したあとの炎症後の色素沈着(戻りじみ)に、再びレーザーを当てるという初歩的な誤りを犯し、なおかつそれを「他院で取れなかったしみ」として、自院の宣伝のためにHPで紹介しているという、呆れたケースを見たことがありますが(当然、そのあとは、再び「戻りじみ」が出て、結局退くまでに倍の時間がかかってしまいます。ほとんど医療過誤だと思います。)、そういう言語道断な話は例外として、①と④~⑥は、通常、美容系の皮膚科医であれば、判断に悩むものではありません。

 今回は、①~③の区別の難しかった例を紹介します。
 両頬に対称的な、上のような色素沈着です。どうでしょうか?・・と言っても、普通のかたには、わからなくて当然ですね。ネットでしみのレーザー治療のことを調べていて、少し知識のある方であれば、下記のわたしの迷いがお解りいただけるかと思います。
 
①通常のしみにしては、小斑の大きさが揃いすぎている。色調も濃淡差が少ない。
②肝斑にしては、境界が鮮明。基礎に淡い「くすみ」のような大きな面が無い。
③大田母斑様色素斑にしては、色調が茶系で青の要素が無い。

 ①~③は、混在していることもあります。よくあるパターンは、②の肝斑に①の通常のしみが混在したケースで、この場合は、まずしみを焼いたあとで、カーボンピーリングを繰り返していくと、背景にある肝斑も薄くなっていきます
 ①の通常のしみと③の大田母斑様色素斑の混在もときにあります。まず全体を532nm波長で取り除き、これで取れなかった部分はやや深いところに色素のある③の大田母斑様色素斑なので、1064nm波長で焼灼します。

 このケースの場合は、①~③のどれなのか、あるいはどれとどれの混在なのか、ちょっとわかりませんでした。こういう場合の考え方としては、「直径2~3mmほどを532nmと1064nmとで、テスト照射して半年~一年経過を見る」が適切です。
 どちらでも取れていれば①で、どちらでも取れなければ②、1064nmのみで取れていれば③です。
 ただ、ちょっと気の長い話ですね、せっかく意を決して「しみを取ろう」とクリニックの門をくぐったのに。

 幸いなことに、この方は、4年前に、反対側の頬の一部を他院でテスト照射していました。
その部分は取れているようです。使用したレーザーの種類や波長はわかりませんが、少なくとも②の肝斑ではない、ということになります。

 だとすると、①または③、あるいは①と③の混在、ということになります。それならば、まずは532nm波長で全面打ちして良いはずです。
 ただし、本当に②は無いのか?(たまたまテスト照射した部が、肝斑から外れていただけではないか?)に100%の確信が持てないので、全面ではなく、濃いスポットのみ照射しました(下図)。

下図は一年後です。532nmでほぼ取れたようです。
ということは、これは①の「通常のしみ」だったのでしょう。
 あるいは、③の大田母斑様色素斑でも、真皮の浅いところに色素のあるタイプは、茶色系で、532nm波長でも取れることがありますから、③だったのかもしれません(確定診断には病理組織検査が必要です)。・・これかな?結果的に振り返って正解は。

 まあ、美容の世界の話ですから、悪性でさえなければ、診断は二の次、取れれば何だっていいんです。また、取れなければ話にならないし。

 その後(昨年暮れ)網目状に残っている淡い色素面も、同様532nmで焼灼しました。
いったん「戻りじみ」は出ますが、一年後にはさらにきれいになっていることでしょう。


※おまけのお話です。お客様から頂いた年賀状を紹介します。
 「先生のお陰で顔がきれいになり、園児も喜んでいます」とあります。幼稚園の園長先生で、80余才になられる男性です。なんだか、ほほえましいですね。男女年齢を問わず、長年苦にしていたしみが取れるというのは、すがすがしいことのようです。
 単調で「あまり難しくない」仕事ではあるけれど、わたしは、この「しみを取る」という施術が一番好きかなあ。やってるこちらもすっきりして気持ちがいいです。
(2012.1.5)