アートメイク色素について・その7

 
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先回まで「国産のアートメイク色素作ります」という表題でした(その6は→こちら)。決意表明・有言実行の気持ちを込めてだったのですが、今回から「アートメイク色素について」に変えます。
心が折れたわけではないです。理由は記事読んでいけば解ります。
 
先回の記事書いたあとで、韓国に視察に行った池田先生から「韓国には自国製のアートメイク色素があるようだ」という話を聞きました。韓国は日本と同じく(私の知る限り唯一)、アートメイクを医療行為と位置付けて医師以外による施術を認めていない国です。
それならば、韓国製のアートメイク色素というのは、医薬品あるいは医療器具として扱われているかもしれません。韓国FDA(日本の厚労省にあたります)は、成分開示など義務つけているのだろうか?もしそうであれば、韓国製のアートメイク色素は、欧米製の成分開示が義務付けられていない色素よりは、信用できるのかもしれません。
ネットで検索すると、韓国でアートメイク用色素を製造している会社が4つほど見つかりました。その中の1社に「1本購入するので成分などの詳細がわかる資料があったら送ってもらえないか」とお願いしたら、快くデータを送ってくれました。


全成分のみならず、それぞれの%まで開示された立派なSDS(安全データシート)です。以前、アメリカ製の色素について、メーカーに同様の問い合わせをしたことがあるのですが「FDAが(化粧品材料として)認可した成分を使っている」という以上の開示はしてもらえませんでした。それに比べると雲泥の差です。
池田先生も私とは別の韓国の会社の色素について、データを問い合わせたのですが、同様に全成分開示してもらえました。
なので、現時点では、欧米製の色素よりも、韓国製の色素のほうが信頼できるようです。
 
話は続きます。韓国製の色素の信頼性が高いから、国産の色素の開発をあきらめて表題を変えたわけでは決して無いです。早合点しないでくださいね。
 
韓国製の色素を1本個人輸入してみたのですが、例によって空港郵便局で引っかかりました。例によってと言うのは、海外から医薬品や医療器具を個人輸入する場合、ときどき空港で差し止められて、それが合法な輸入であることの証明書(薬監証明といいます)の提出を求められることがあります。名古屋の場合、近畿厚生局が管轄なので、理由書などを書いて薬監証明を申請しました。
二~三日して、厚生局から電話がかかってきました。
「今回申請されたアートメイク用色素ですが、厚生局としては、色素単体で針とセットでなければ、医薬品にも医療器具にも該当しないという見解ですので、薬監証明は不要です」
「え?そうなんですか・・以前にもアメリカから色素を輸入したとき、空港から薬監証明を取るようにとの葉書が来て、申請させていただいたことがあるのですが・・」
「確かに、申請された場合に、それに応じて薬監証明を発行することもあるのですが、本来は色素単体は薬監証明不要です。色素には薬効がないので医薬品ではありませんし、針とセットでなければ医療行為が出来ませんから、医療器具にも該当しません。」
「私にとっては、手間がはぶけて結構なことではあるのですが、参考までに教えていただきたいのですが、そうするとアートメイク用色素というのは、輸入品目の分類でいうと何に当たるのでしょうか?」
「雑品です。『医療器具の部品』ですね」
はー、なるほど。
 
そこで考えました。色素が、それ単独では「雑品」扱いであるなら、国内で色素を調合して販売したとしても、「アートメイク用」と表示や広告をしなければ、薬機法違反にならないのではないか。
これが「国産のアートメイク色素作ります」という決意表明を込めた表題を少し変更した理由です。
 
ちょっと話がそれますが、美容外科でしわ取りに用いるヒアルロン酸のフィラー(注射)があります。ジュビダームやレスチレインという商品は日本での認可が取れていますが、あれは医薬品ではなくて医療器具に分類されます。同業の先生方、ご存知でした?
なぜかというと、ヒアルロン酸そのものはボリュームを出すだけで薬効(薬理作用)を標榜していないからです。
アートメイク色素が医薬品ではないのは、たぶんこれと同じ理屈です。医薬品だとすれば、何らかの症状が改善するなどの薬理効果の確認(治験といいます)が必要ですが、アートメイクって色が入るか入らないかだけだから、治験の組み立てようがないです。
ゲル状の液体なので、「医療器具」と言われると抵抗がありますが、よく考えると確かに医薬品よりは医療器具に近いです。

念には念を入れて、愛知県の医薬安全課にメールして、私の考えが正しいか、確認してみました。
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愛知県健康福祉部保健医療局医薬安全課 御中
はじめまして、当方、名古屋市中区の開業医です。
アートメイク用色素についてご相談です。
ご存知の通り、アートメイクは、平成13.年11月8日医政医発第105の通達により、医療行為と明示されました。
そこで当院でも、アートメイクの施術を始めたのですが、本邦ではアートメイク用の針や色素は製造されておらず、海外からの個人輸入に頼っている状況です。
しかしながら、欧米ではアートメイクは医療行為ではなく、針や色素についての規制も甘いです。とくに色素については、成分すら開示されておらず、施術しながら、いったい何を患者の皮膚に入れているのかさえ判りません。
これでは医療行為の名に恥じます。
そこで、アートメイク用色素を自作しようと考えました。
私は皮膚科専門医ですので、化粧品などのアレルギーや毒性については詳しいです。考えられる限りもっとも安全性が高いと思われる成分のみに絞り込み、自身や身内に実際に施術して、これなら大丈夫だろうという試作品ができました。
ここからが、ご質問です。
1 このような自作した色素で、患者にアートメイクを施術することに、法的な問題はあるか?
2 この色素の製造を、外部に委託することに、法的問題はあるか?(外部とは具体的には、化粧品OEMを主に行う、化粧品製造業の免許を持った会社です。ただし、色素は化粧品としてではなく、いかなる効能をもパッケージに明記しない「雑品」として製造します。)
3 外部に委託して製造した色素を、複数名の有志の医師たちに転売することに、法的問題はあるか?(転売する理由は、製造会社としては、例えば1000個以上の多量でないと利益が見込めず、引き受けられないという事情によります。私個人で消費するには多すぎるので、有志の医師たちと共同購入したいのですが、商取引の形としては、いったん私個人が全量買い取り、これを有志の医師たちに頒布することになるので、転売です。)
補足
1 色素の全成分は、水酸化鉄(FeO(OH))、酸化第二鉄(Fe2O3)、カーボンブラック、ポリエチレングリコール(PEG-1500)、1,3ブチレングリコール、です。これらの配合比を変えて、茶~黒の様々な色調を出します。医薬品に該当する成分はありません。
2 パッケージは添付写真のようになります。表示は「色素(茶)」などとし、「アートメイク用」など、用途を示す表示はしません。薬機法第68条(未承認医薬品医療機器の広告の禁止)への抵触を危惧するからです。
現在、海外のアートメイク用色素を個人輸入して施術していますが、アートメイク用色素は輸入に当たって薬監証明を必要としません。近畿厚生局によれば、アートメイク色素というのは、薬効がないので医薬品には当たらないし、単独でアートメイクの施術が可能となるものではない(施術には針が必要)ので、輸入品目としては「医療器械の部品」になるそうです。アートメイク色素が、海外からの個人輸入にあたって、「アートメイク色素」の表示があるにもかかわらず、規制がないということは、国内で製造する今回の色素に「アートメイク用」と表示しても、「医療器械の部品」=雑品であって、薬機法の対象外である可能性はあります。しかし、私としては、今回は万全を期して、「アートメイク用」といった表示は避けようと考えておりす。
平成29年4月11日
名古屋市中区千代田5-20-6
鶴舞公園クリニック
院長 深谷元継
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2週間ほどで回答の担当の方から電話がありました。
まず、こういった相談自体が、アートメイク用の色素を作りたいとはっきり用途を明示していることになる。それに対して雑品としてなら可であるとは答えにくい、との苦言がありました。なるほど。
しかし、それを措いて、あえて質問に答えるとすれば、まず1については薬機法には触れないが、ほかの法律に抵触するかしないかは、当方としては関知しない、ということでした。
2ですが、自院で使用する分を、外部に製造を委託すること自体は問題ないとのことでした。
3については、私が発注して製造してもらったものは、私のクリニックでアートメイク目的で使用することが既に明らかなので、これを転売するということは、表示がなくてもアートメイク用として販売したものと看做される可能性があるのでよろしくないとの見解でした。
 
そうすると、個々の医師が、私を介してではなく、直接に色素の調合をしてくれるところ(化粧品の小口のOEM会社を想定しています)から購入するのがベストとなります。問題は、何個を最小単位として製作してもらえるかになりますね。
私を介さないこの販売方法というのは、製造してくれる会社さえOKしてくれれば、メリットもあります。
それは、私を介さない=私にマージンが入らないということなので、私がこの色素について、堂々とブログやHPで「こういう色素でアートメイクをしています」と告知できる点です。
私を介したら、私は一切ブログにもHPにも書けません。書いたら宣伝・広告と看做されるだろうからです。
それでは、私には何も収益が無いではないか?と不審がる方もいるかもしれませんが、そこはいいんです。私はそんな小銭を稼ぐために、いろいろ頭をひねってるわけではありません。
私が収益を得る糧は、あくまでアートメイク施術そのものです。あの先生のところでなら安心してアートメイクを受けることが出来る、という信用を築くのが第一目的です。
 
話は続きます。実はこのブログは私の備忘録も兼ねています。いろんな話が錯綜するので、書きながら頭を整理してもいます。
先日、鍼灸用の針を作っている会社から電話がありました。私のブログのアートメイク色素の記事を読んだそうです。
アートメイク用の針を製作したいのだが、PMDA(医薬品医療機器総合機構)に相談したところ、「針だけではアートメイクは出来ないでしょう、色素とセットで申請お願いします」と言われたとのこと。色素の製造についてはまったく知識がないので私に相談をくださいました。
ひょっとしたら渡りに船かもしれないので、こんど私と色素を調合していただける予定の会社の方と針の会社の方とで相談してみようと思います。
まあ、最終的には、PMDAが、アートメイク用の針と色素セットの審査承認費用をいくらに見積もるかにかかってくるわけですが。
私がこの話に期待している理由は、注射針というのは、医療機器の中でももっともリスクの低い「クラス1」になるからです。クラスが低ければ、費用も安くなるので、国産の可能性が出てきます。PMDAが色素ではなく、注射針を主として見てくれるかですね・・どうかなあ。
 
以上まとめますと、現時点のアートメイク用色素に関しては、
1) 欧米よりも韓国製の色素のほうが信用できる(必ずSDSを取り寄せて成分を把握しておくこと)。
2) 外部に製造委託した色素を購入して施術することは可能であり、1)よりもさらに信頼性が高い。
3) 針とセットで医療器具として認可を受けることは、意外とハードルが高くないのかもしれない。
ということになります。
 
実際に試作した色素で、まず最初に私自身がアートメイク施術受けてみました。施術してくれた典子先生によれば、従来のものより使いやすいそうです。基剤の粘度調整してあるからね。
色調も6色調合して、すでに当院でのアートメイクは全て自作色素に変えました。私が成分を吟味して安全性を第一に考えたレシピによります。皆様、安心して当院でのアートメイク施術をお受けください。
 
上から施術前、デザイン、施術直後。

なんだか凛々しくなりました。もっとも今は施術直後よりも色が落ちて薄くなっています。連休明けくらいに2回目してもらう予定です。
(2017/04/29 記)

※PMDAに問い合わせました。結果はこちら(→「国産のアートメイク色素作ります・その8
」)。

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継