メルスモンという、日本製のプラセンタ注射薬があります。日本で私が問屋から仕入れると、下のような青い箱に入ったものが届きます。
ところが、下のような緑色の箱に入ったメルスモンも存在します。違いは色だけです。さて何が違うのでしょうか?
青色の箱は日本製で、緑色のものは、メルスモン製薬が韓国の現地法人で作った韓国製です。ただし、中味のプラセンタ(胎盤)エキスは、日本で作られた日本人女性由来のもので、パッケージの色以外はまったく同じものです。
なぜ、中味が同じなのに、韓国製のメルスモンが存在するのでしょうか?
それは、韓国が、外国製の医薬品の輸入を厳しく制限しているからです。
韓国でも、日本のプラセンタ製剤に対する信用は強く、日本製のメルスモンの需要は高いです。しかし、韓国が、国内の医薬品メーカー保護のために、海外製の医薬品の輸入を認めないので、メルスモン製薬は韓国に現地法人を作って、日本製のメルスモンの販売をしています。そういう事情です。
このように、医薬品や医療機器、医用材料に関する考え方は、国によって異なります。日本では、医薬品の個人輸入は一般の方でも自己責任において可能ですが、韓国では、日本のように海外の医薬品を個人輸入できません。税関でストップされます。また、日本では、医師は、海外の医薬品や医用材料を個人輸入して、患者に処方もできますし、個人輸入した材料による施術も可能です。
美容外科・皮膚科のホームページや先生たちのブログを読んでいる方であれば、日本の医師たちが、韓国製や、その他の海外製の材料を用いた施術の講習に、熱心に参加している話が、よく出てくるのに気が付くでしょう。「きっと韓国は美容大国だから、技術や新製品の開発も盛んなんだろうな」その程度に考えているのではないでしょうか。
そうじゃないです。日本製のものは韓国には輸出できないし、韓国製のものは日本に個人輸入できます。医師による個人輸入にあたって、日本の厚労省は安全性に関してノータッチです。
また、日本の厚労省は、韓国よりもこの種の医用材料の認可に厳しいです。その分、海外から医師の個人責任において、輸入して使いたければ使いなさい、そういう方針のために、必然的に日本の美容自由診療マーケットは、韓国をはじめ、海外の製品が席巻しているわけです。
前置きはここまでです。アートメイクの色素の場合、アメリカ製の色素が使用されていることが多いのですが、1)アメリカではアートメイク(タトゥーも)自体が、医療行為とは見做されておらず、州が発行した免許をうけた人が施術している、2)アートメイク用の色素は化粧品扱いである、3)化粧品には、日本のような成分開示の義務がない、といった理由から、施術者は、何でできているかも全くわからない色素を使って施術しています。
厚労省が、「日本ではアートメイクは医療行為であり、医師免許を有さない者の施術は認めない」という見解を明確にして、ボールを私たち医師に投げてよこした訳ですが、無資格者がアートメイクをしていた時代ならともかく、医師が患者に施術するのに、成分内容も不明なものを使っていて良いわけないじゃないですか。
ここに、私たち医師が、自分たちで成分内容のはっきりした色素を作らなければならない大義が生じます。
さて、振り返って考えてみると、このアートメイク色素の問題というのは、現在の日本における美容自由診療の抱える問題の象徴であるということに気が付きました。アートメイク色素に限らず、例えば脂肪溶解注射とか、成長因子エキスとか、成分内容すら開示されないまま、メーカーまたは代理店のうたい文句を信用して、一部の医師が個人輸入で仕入れて患者に用いているものは結構あります。
私は昔から、開業時に購入したレーザーはあえて日本のメーカーの製品で揃えたし、スレッドリフトの糸や針なども、国内で加工してもらって自作で揃えてきました。日本人として、どうせ買うなら国産のものにして内需に貢献したいし、日本の技術を信用しているからです。
別に韓国が嫌いというわけではありません。日本に誇りをもっているだけです。
ここ数年、若い美容系の先生たちが、韓国はじめ外国製の新しい糸だとか、技術だとかと言って有難がっているのを見ると、なんだか情けなくなります。とくに韓国は自国のマーケットが小さく(人口が日本より少なく、経済的にも厳しい)、日本は格好のマーケットです。大して変わり映えもしない二番煎じのような「新製品」を、毎年のように日本の医師に売り込みに来ます。なぜそのことに気が付かないのだろうか?
今回、アートメイク色素を自らの手で調整することで、こういった風潮に一石を投じたいものです。
試作された色素をまぜて調色中です。第四色覚がほしい・・。
☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆
その2
先日、美容外科学会(JSAPS)で、医療アートメイク学会立ち上げに尽力されている池田先生と東海大学の河野先生にお会いして、よもやま話してきました。
河野先生「アメリカでは、レーザーで簡単に消せる色素が開発されたそうですよ。ハーバード大のRox Andersonが考案したそうです。」
私「あのRox Andersonが??」
Rox Andersonは、熱緩和時間の理論を提唱した、Qスイッチレーザーの生みの親です。
早速帰って、調べてみました。
Infinitinkという商品名で、黒と赤とが市販されているようです。一本5mlで25ドルですから、さほど高くもありません。
なぜ、このインクが「レーザーで消しやすい」かですが、インクの色素を非常に細かい微粒子にして、あるいは液体状の色素を用いて、それを樹脂で固めてあります。この樹脂はレーザーに反応しやすく、レーザーを当てると砕かれます。砕かれて放出した色素は、細かい微粒子あるいは液体のため、貪食細胞で処理されて、皮膚から消えていきます。なるほど。
ただ、この色素には、気になる点があります。それは、樹脂にアクリルが使われているという点です。
アクリルというのは、モノマーを重合して作るのですが、アクリルモノマーは非常に強い感作物質(アレルギーの元になる物質)です。2013年の「Contact Allergen of the Year」に選ばれたくらいです。写真は、ネイルの際のアクリル(モノマー)で爪囲がかぶれている例。
ポリマーが安全とは言え、ポリマーの中には未重合のモノマーが少量含まれています。レーザーでアクリルを破砕した際に、モノマーが放出されないとは限りません。もっとも、この色素による、アレルギーの症例報告自体はまだ無いようですが。
このインク、2009年ころに出来たようで、すでに7年くらい経っています。
当初は画期的と言われて、マスコミ記事もかなり多かったのですが、その後さほど市場を席巻したとまではいきません。
たぶんですが、タトゥーを入れる人って、そもそも後で取ることなんて考えずに入れるからじゃないかなあ・・。もちろん後で後悔する人は多いでしょうが。
取るのに苦心して「消える色素があったらいい」と願っているのは、主に医者のような気がします。だから、アメリカのように、「アートメイクやタトゥーは医療行為ではない」とされている国では、広まりにくいのかもしれないですね。日本のように医師が管理する国では広まるかも。
ただ、アートメイクについては、そもそも2年くらいで自然に薄くなって消えるように浅く彫るのが現在の風潮です。眉のデザインには流行があるし。
Infinitinkが、樹脂をアクリルではなく、私のような皮膚科医が聞いても抵抗のない、何かほかのアレルギーを起こしにくい素材で開発して、なおかつ色素自体も成分開示されると、一番いいと思います。やはり「まず成分開示ありき」ですね。
(2017/01/21 記)
鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継