第105回美容外科学会(JSAS)スレッドリフトシンポジウム報告(その1)


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は6月1日(木曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年1月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

以前書きましたようにスレッドリフトのシンポジストを依頼されましたので、10年ぶりくらいに学会に行ってきました。
せっかくなので、前から泊まってみたいと思っていたアマン東京で一泊しました。部屋から皇居と宮内庁が見えて綺麗。ちょっと畏れ多いような気もするけど・・。


私の発表内容は、先回記したように(→こちら)、「溶けない糸には長期効果(たるみ予防効果)がある」という臨床的直観の検証です。グラフが多くて解りにくいかもしれないと思ったので、ハンドアウト作って配布しました。Pdfをupしておきます(→こちら)。

はもり皮フ科の吉田先生と、あきこクリニックの田中先生が溶ける糸を、六本木境クリニックの境先生が溶けない糸(スプリングスレッド)を報告して、四番目が私、その次に溶ける糸と溶けない糸両方施術すると言う平井イーストクリニックの平井先生、という発表順です。
吉田先生と田中先生は、溶けない糸を入れると言うことに対して抵抗があるようで、これはこれで解らなくもないです。溶けない糸の最大のメリット=長期効果(たるみ予防効果)というのは直観的なもので、これまでエビデンスが無かったからです。今回私が頑張ってエビデンスを数字で出してみたので、考え直していただけると良いのですが。
境先生のスプリングスレッドは、あまり彼のHPに術前後の写真が無かったので、今回before/afterの写真を複数見せていただいて、実態がよくわかりました。境先生は、あまりほかの溶けない糸の施術経験が無いのだと思います。だからあの程度の効果で感動してブログで自画自賛なさっているのでしょう。平井先生も同様で「口横のような動かす場所には伸縮性のあるスプリングスレッドしかないと思います」とおっしゃってましたが、そんなことはない、伸縮系の糸なんて、昔からいろいろあります(→こちら)。
境先生について良い点を挙げるとすれば、溶けない糸の効果に気付いておられる点です。その点は好感が持てます。
ディスカッションで盛り上がったのは、感染症についてでした。口火を切ったのは田中先生で、ご自身の講演の中で「溶けない糸というのは、長期間経過したあとでも、感染症を起こすことがあります。ですから私は溶けない糸は入れません」とおっしゃいました。次いで境先生が、やはり講演の中で、ご自身の施術3百余例中の感染発症率が、最初は5%くらいで最近は3%くらいであること、感染を起こさないように、細心の注意を払って施術していること、などを話されました。
私は今回、カルテ100例について集計してみたのですが、感染を起こした例は3件で、100例の総施術回数は289回、糸総本数は1689本ですから、手術件数あたり1.0%、糸1本あたり0.17%です(→こちら)。境先生の感染率は高いです。境先生も気にしておられるようで、糸の素材の関係かもしれないとおっしゃっていましたが、ちょっと理由がわかりません。ひょっとしたら私と境先生の差は、誤差範囲なのかもしれませんが。
それで、ディスカッションのときに、私から田中先生に「溶けない糸は感染症が問題とおっしゃるけれど、溶ける糸で感染起こしたら、抜こうとしても途中で千切れてしまうから、かえって厄介ではないですか?」と質問しました。田中先生も、そこは認めて「過去に一例だけ感染起こした例を経験しています。対処は難しかったです」とのことでした。座長のドクタースパクリニックの鈴木先生も「私も他院での施術例ではありますが、溶ける糸の感染例を診たことがあります。千切れて中に糸が残ってしまうので、奥のほうでの感染は、結局糸が完全に溶け切るまで遷延して、漏孔から浸出液が出続けました」とコメントされました。
 
要は、糸と言うのは、溶ける糸だろうが溶けない糸だろうが異物なのですから、感染は起き得ます。重要なのは、感染が起きたときに、しっかりと抜くことが出来る糸なのかどうかです。糸さえ抜去できれば炎症はおさまります。
 
私が使っている糸は、少なくともこれまでは、感染起こした際には綺麗に抜去できました。溶ける糸は、溶け始めれば途中で切れてしまって、その先が残ります。また、スプリングスレッドは複合素材です。柔らかくて千切れ易いシリコンをポリエチレンで芯を作って強度を出しています。だから、抜こうとすれば、シリコンとポリエステルが分離してシリコンが残ってしまうはずです。
ですから、「感染リスクを考えて溶ける糸での施術を勧めています」という田中先生の論は、的を外していると思います。
田中先生は、ご自身でも、溶ける糸を2,3年に一回入れ直しているとのことですが、それなら異物は継続して存在し続けるわけですから、溶けない糸を一回施術するのと感染リスクは変わりません。
 
シンポジウムが終わったあとで、境先生には、私から手を差し出して握手しました。以前境先生がブログで「名古屋の超有名クリニックでの施術に物足りなかったお客さんが境クリニックでスプリングスレッドを受けて大満足」みたいな記事を書いたので、私が反論したことがありました(→こちら)。これを機会に和解しようと考えたからです。
しかし、境先生、気になることをおっしゃいました。
「あの記事は、僕知らなかったんですよ。ゴーストライターが書いたんです。」
ちょっと待て、ゴーストライターが書いたとしても、自分の名前のブログだから責任は自分だろ?少なくとも内容チェックは事前にしないのか? 
そのときはびっくりしただけだったですが、後で新幹線の中で無性に腹が立ってきました。
 
このブログを読んでいる同業者の中には、学会と言う内輪の場(本当は内輪ではありません。その証拠に私の患者も一人、非医師の会費払って聞きに来ていました)で情報交換している内容を、私がこのように赤裸々に書いてしまうことに、不快感を覚える人もいるでしょう。しかし、同業者の快感・不快感なんて、私の価値観からは糞食らえです。大切なのは真実です。
 
境先生個人には、上にも記したように、溶けない糸の効果に気付いておられるという意味で、良い印象をも持っています。悪いのは、ゴーストライターです。スプリングスレッドが売れると得をする誰かじゃないでしょうか?
医者というのは、結構、純朴なものです。境先生含め、皆、学会で真面目に議論します。美容外科の業界をうさんくさくさせるのは、だいたい、医者を利用してビジネスしようとする輩です。そういう連中を排除して、業界の自浄機能を高めるのは非常に重要なことだと思っています。そういう意味でもここははっきりと記したほうが良いでしょう。
医師の皆さん、ブログは自分で、自身の言葉で書きましょう。

今回は、研修医1年目の娘と二人で学会参加しました。娘はいま24才ですが、30才までには、なんとか説得して、溶けない糸を入れておいてやりたいと思っています。私自身(58 才)にも、溶けない糸は10本くらい入っています。
平井先生は、ディスカッションで、「私も研修医の娘がいますが、溶けない糸(スプリングスレッド)は入れたくありません。」と言っていました。自分自身や娘に入れられないような物を、お客さんには入れるっていう姿勢は、私は賛成できません。
 

(2017/05/18 記)

追記
今回企業展示見て思いましたが、糸は全部、金型で成型するモールドタイプに変わっていますね。私が使っている切込みをいれて加工するタイプは、バナナピーリング(棘から縦に裂ける)するから、モールドタイプに進化したみたいに謳われているようですが、違います。金型成型のほうが、圧倒的にコストが安いからです。切り込み加工って、職人仕事で大変だから。
引っ掛かりは、切り込みの糸のほうが強いです。釣り針を想像してみると判りますが、モールドタイプの棘じゃあ、魚は釣り上げられないでしょう。
仮にモールドタイプの糸が、同じくらい引っ掛かりが強ければ、やはり同じ力で引っ張った時には、糸は破損する筈です。
また、韓国の小さなメーカーがたくさん出展しており、どうしてこんなニッチなマーケットで、こんな商品作って売ろうとするのかな?と不思議だったんですが、あるブースで話していて、謎が解けました。
小さな会社に見えますが、全部韓国の財閥がバックにあるんですね。日本の中小企業には出来ない芸当(ベンチャービジネス)が出来る筈だわ・・。
韓国って、人口少ないし、マーケットとしては小さいです。日本は韓国よりも大きなマーケットです。
なおかつ、ジャパンブランドってのは、韓国でも中国でも、根強いです。日本の医者が使っている、ということで韓国で売れるし、さらには中国という大きな市場にも売り込めるでしょう。
要するに日本の医者は、韓国製の出来合いの糸使って施術した時点で、利用されているんですよ。
私みたいに、日本国内の職人さんや、小さな会社にお願いして、オリジナルの針糸作って施術している医者って、聞いたことないです。
もうちょっと気骨というか、張り合い甲斐のある面白い先生、出てこないかなあ・・。

追々記
麗ビューティー皮フ科クリニックの居原田先生が、「女医であり患者目線で自分たちの顔に糸を入れている吉田先生と田中先生のほうが説得力があって軍配が上がる」みたいなこと書いてます(→こちら)が、居原田先生、私が日本で一番最初に自分自身の顔に糸入れた医者だってこと御存知ないのかなあ?2003年か4年ころに、シンガポールのDr Woffles Wuがデモに来た時に入れてもらいました。自分がお客さんにやっている施術がどんなものなのか体感してみたかったので。
昨年のハロウィンパーティーで、居原田先生と同席した私の友達の名古屋の女医さんたち(→こちら、3人目の亀井先生を除く4人)全員、溶けない糸仲間です。私も含めて全員50才台。若いでしょ?
これが現実ですよ、糸の長期効果。溶ける糸入れようが、溶けない糸入れようが、とにかく50才台になって若く見えてる女医さんの勝ち。
居原田先生の記事読むと、溶けない糸=スプリングスレッド??みたいな印象お持ちのように読めるんですが、確かに企業展示ブースでも溶けない糸見なかったし、ひょっとしてスプリングスレッド以外の溶けない糸って、居原田先生含め最近の先生方はご存じない??
10年間学会ご無沙汰してるうちに、世代替わったからなあ・・。

その2(→こちら
)に続きます。

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継