皮膚というのは、体中同じではありません。お顔の皮膚というのは、とても治りがよく跡が残りにくいです。しかし、顔以外の部位、とくに手足や胸のほくろを取るときには、要注意です。ほくろは取れたけど、跡が逆に目立ってしまった、なんてことになってはいけません。
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お顔のほくろであれば、CO2レーザーで蒸散したり切り取る方法で、とくに直径5mm未満の小さなものであれば、跡形も無くきれいに治ってしまいます(→こちら)。しかし手足や胸の場合は跡が残りやすいです。手足や胸のほくろを取るときには、あざ・刺青を取るときに用いる1064nm波長のQスイッチYAGレーザーがベストです。跡(瘢痕)が残らないからです。
以下解説です。CO2レーザーでは、下図のようなイメージでほくろを除去します。
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最近、エルビウムヤグレーザーというのをときどき聞きます。これは、CO2レーザーと同じくほくろを蒸散して削って取っていくもので、違いはレーザービームの形状にあります。彫刻刀の丸歯と平歯の違いに例えると、いちばん解りやすいでしょうか。
彫刻刀というのは、そりゃあ種類が多いに越したことはありませんが、別に丸歯一本でこしらえられない仕事はありませんし、同じ部位・同じ深さの欠損であれば、瘢痕の残りやすさにも差はありません。
一方、QスイッチYAGレーザーが、なぜ瘢痕を残さないかというと、これは色素に反応するレーザーだからです。色素あるいは色素を持った細胞だけを破壊して、周辺の組織にはダメージを与えません(Qスイッチ機構)。
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ただし、弱点はあります。それは、レーザーの達する深さです。組織を破壊しないために、レーザーは減衰しやすく、あまり深いところの色素を焼くことはできません。
しかし、QスイッチYAGレーザー(1064nm波長)というのは、この種の色素をターゲットとするレーザーの中では、いちばん波長が長く、従って深達性があります。たとえば、Qスイッチルビーレーザー(694nm波長)は深達性がないので、ほくろ取りには向きません。
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一部、深いほくろは取れ残っています。しかし、ほとんどのほくろは取れて、瘢痕(跡)がまったくありません。取れ残ったほくろのうち、どうしても(多少の瘢痕が残っても)取りたい、色を無くしてしまいたい、という場合にのみ、CO2レーザー(あるいはエルビウム)で除去するといいです。
(補足)エルビウムYAGレーザーについて
わたしは、どうしてこのレーザーが最近になって新たに売り出されてきたのか、不思議で仕方がないのですが、エルビウムYAGレーザーというのは、決して新しい機械でも技術でもありません。わたしが、美容外科の勉強にロシアに通っていた2000年頃には既にロシアにありました。
そのころは、ほくろを取るのではなく、広範囲な面を浅く均一に照射できるという性質を生かして、お顔全体に弱くかけて、ちょうどケミカルピーリングを強い酸を用いてしっかりリサーフェシングするような、そういう目的で用いられていました。このタイプのレーザーリサーフェシングはCO2レーザーでも行われていましたが、エルビウムのほうが向いていたと言えます。
しかしこのレーザーリサーフェシングの方法は、一部の患者で炎症後の色素沈着が強くおきたり、術後の赤みがなかなか引かず赤ら顔が続いたりというトラブルが生じたため、行われなくなりました。それとともにエルビウムYAGレーザーも姿を消しました。
最近ふたたび、メーカーがこのレーザーを売り出したのは、多分、パーツの小型化・低価格化が関係してるんじゃないかと思います。昔わたしがロシアで見たエルビウムYAGレーザーはまるで工場の機械のように大型でした。
上の解説で記しましたが、このレーザーの特徴は、広範囲の面を、浅く、ミルフィーユを一枚づつ剥ぐように削っていく、という点にあります。また、炭化が生じませんから、CO2レーザーのように、炭化部分を生理食塩水で拭き取って確認しながら焼き進んでいく、という手間が省けます。ですから、エルビウムYAGレーザーは、CO2レーザーの扱いにまだ慣れていない(あるいは上手に使いこなせていない)美容外科・皮膚科の初心者の先生が用いると、感激するようなタイプの機械です。CO2レーザーでの施術に慣れて、フォーカス・デフォーカスあるいは、出力設定やモードを使い分けて、細かい細工をするように、ほくろの形状に合わせてぎりぎりのところでほくろを取り除こうとするベテランの先生には、むしろ使い勝手が悪く感じるでしょう。
「エルビウムヤグレーザーはCO2レーザーよりも炭化層を作りにくいから傷が早く治る」と主張する先生には、「エルビウムだと、円柱のようにしか焼けないから、CO2レーザーよりも健常組織を多く削ることになるでしょう?(円柱形のほくろなんて存在しないです)。それを考慮してもなお、エルビウムのほうが早く治ると言えるんですか?」と、問い質したいですね。
CO2レーザーで炭化層をふき取りながら、丁寧に上手に削れば、ほくろの形状ぎりぎりのところで、お皿または半球状に取り除けます。手間と技術は必要ですが。
ところで、CO2レーザーとエルビウムヤグレーザーの話は、QスイッチYAGレーザーにおける、ガウシアン・トップハットというビームパターンの違いに通じるものがあります。
ガウシアンというのはガウス分布(正規分布)にしたがってレーザーのエネルギーが中央部分で高くなるパターンで、発振されたオリジナルのレーザー光です。これを特殊なレンズを通すことでトップハットと呼ばれる均一なエネルギー分布に変換できます。最近のQスイッチYAGレーザーの多くは、トップハットに変換してあることを売りにしており、実際、カーボンレーザーピーリングやレーザートーニングなど広範囲に均一なエネルギーをかけたいときには、トップハットのほうが理にかなっているし便利なのですが、上に記した、QスイッチYAGレーザーでほくろを取るような施術の場合には、ガウシアンのほうがやりやすいです。
それはなぜかというと、中心に強くエネルギーがかかるパターンのほうが、ピンポイントに、強くエネルギーをかけられるからです。トップハットだと、かけなくてもいい周辺にエネルギーが散らばってしまう感じです。
わたしのクリニックにはQスイッチYAGレーザーが2台あります。急に機械の調子が悪くなったときに、予約してくださっていたお客さまにご迷惑をおかけしないようにという目的が第一ですが、ガウシアンとトップハットと両モードあったほうが使い勝手がいい、という理由が第二です。
一時期トップハットの製品ばかりになって、ガウシアンの機械はなくなってしまうのではないかと心配しましたが、最近では、一台でガウシアンとトップハットが切り替えられる製品も出てきているようです。メーカーの思惑とは裏腹に「ガウシアンのほうが使い勝手がいい」という先生が少なからずいたという証拠でしょう。
一方エルビウムヤグレーザーですが、わたしは、CO2レーザーに加えて、この機械を持とうという必要性を今のところ感じません。QスイッチYAGレーザーで行うようなカーボンピーリングやレーザートーニングなど、広範囲に均一に照射するようなタイプの施術があれば、使い分けも考えられますが、CO2やエルビウムではそのような施術が無いからです。
(2012年5月25日記)