糸でたるみが引き上がるメカニズムについての考察を短報にしました。掲載紙はPlastic and Reconstructive Surgery Global Openと言って、まあまあ権威のある雑誌です(→こちら)
原文は英語なので日本語訳をこちらにUPしておきます。
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スレッドリフトによる若返りの二つのメカニズム
スレッドリフトの効果として、外科医が知っておくべき二つの効果がある。一つは図1、2の鶏肉の実験に示されているような純粋に機械的な効果で、糸によって重力負荷を周辺へと分散させる。使用するのが溶けない糸で、適切に挿入されれば、長期的な効果が期待できる。
もう一つは、異物である糸の周囲の繊維化である。糸の種類に関わらず、繊維化は生じるだろう。溶けない糸と同様の長期的な効果がPDOなどの溶ける糸でも観察されるが、それは皮下脂肪組織に繊維組織を増やすことによって肌質を改善するようなものであって、たるみを引き上げるには弱すぎる。
溶ける糸というのは、空気と触れるだけでもその水分を吸収して分解を始める。だから溶ける糸はアルミ製の防湿袋に入れて売られている。加水分解後は、溶ける糸は非常にもろくなって、機械的なリフティング効果を失う。完全に溶け切る以前に糸が断裂するからである。
溶ける糸の欠点は、長期効果が期待できないことに加えて、感染症などの問題が生じた場合に抜けないということである。破損していない溶けない糸であれば、糸を同定して注意深く端から引っ張れば完全に抜くことが出来る。しかし、溶ける糸は組織中でもろくなるので、引っ張って抜こうとすれば千切れてしまう。
深部に残存した糸は完全に溶け切るまで残存し、感染症の治癒を遅らせる。溶ける糸も溶けない糸も、異物という点では同じなので、感染症を引き起こすリスクも違わない。したがって、溶ける糸の感染症のリスクは、溶けない糸よりも高いと言える。さらには、溶ける糸というのは生体ではアレルギーを引き起こすことがある。
多くの外科医がなんとなく溶ける糸は溶けない糸よりも安全と考えていると思うが、よく考え直して欲しい。
Figure 1
鶏肉と皮を用いた頬のたるみのモデル。糸の挿入前。赤線はリフティング効果を際立たせるための補助。
Figure 2
糸の挿入後。赤線はリフティング効果を際立たせるための補助。
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これだけでは、つまらない、納得できないという方もいると思うので、判りやすい症例写真もUPしておきます。
8年前、糸を入れる前の写真と、最後に糸を入れてから3年後の写真の対比です。5年の間に3回のスレッドリフト施術を受け、総本数16本です。3年ぶりに追加でいらっしゃったときの写真です(もちろん追加施術前です)。
「純粋に機械的な効果」による長期の引き上げが続いているのが判ると思います。お顔立ちにもよるので、全員がこんな感じに上手くいくというものでもありませんが、とにかく溶けない糸っていうのは、見た目の若さを維持したい方は、早めに入れておいたほうがいいですよ。
さて、私も今年の4月で60才、還暦です。目周りの手術からは手を引きましたが、スレッドリフトの施術も、いつまでやろうか今悩んでいます。一応あと5年、65才くらいまでにしようかと何となく思います。
それまでに何とか、私の技術というかやってることを、後進に伝えたいのですが、ときどき見学にいらっしゃる先生はいるものの、「鶴舞公園クリニックの深谷先生と同じ糸の施術をうちでもやってます!」と大きな声で言ってくれる方がまだいません。ニーズというかお客様はいると思うのですが、なぜだろう?・・
ということで、以前も見学の先生受け入れていましたが、これからの5年はさらに積極的に他院の先生方に「うちの施術を見に来てください」と訴えていきたいと考えます。だって、自分が苦労してものにした技術やノウハウですから、なんとかして、後に残したいじゃないですか。論文はいくつか書きましたが、技術は直接指導でなければ伝わりません。
別に指導料取って儲けようって腹じゃないです。正直、私の人生に必要なお金はもう貯まりました(ていうか、私の場合は親が有難かったので、元々あった)。大してお金遣う人間でもないので、自分の年齢を考えると、これからはむしろ頑張って遣い道を考えなければいけません。社会に還流してこそ、お金は意味があります。お金遣わずに貯金の数字を増やしていくっていうのは、トランプの「7並べ」で8を止めてるようなもので、あまり良い趣味ではありません。
繰り言はさておいて、見学ご希望の先生、052-264-0212までお電話ください。美容外科に勤めていて、これから開業しようという先生なんか良いのじゃないでしょうか?
(2019/02/14記)
鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継