PRP療法11月以降もできそうです(認定再生医療等委員会について)・その1

 
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私はときどき、近所にあるメガロスというスポーツジムに行くのですが、そのすぐ隣に「incubator(培養器)」と書かれた建物があります。


「これ何の建物なのかなあ?」と長年気になっていたのですが、最近ようやく解りました。
「名古屋医工連携インキュベータ」といいます。
鶴舞には名大医学部と名工大が隣り合っています。名市大も近いです。そういった大学発の技術を事業化するベンチャーを支援する建物のようです。
http://www.smrj.go.jp/incubation/nalic/
この中に、特定非営利活動法人 先端医療推進機構(JAPSAM)があります。
http://www.japsam.or.jp/index.html
この機構の活動の一つに、治験審査委員会の外部機関としての受託があります。
新薬の開発には治験が必要ですが、これが適正に行われているかどうかを監視するのが治験審査委員会です。大学や病院が自前で組織しているところが多いですが、それでは第三者としての中立性が保てません。それで、治験を実際に行う医療機関とは別組織が行ったほうが望ましい、そういう観点から成立したもののようです。

ご縁があって、このJAPSAMの理事の一人である林衆治先生(名古屋大学先端医療バイオロボティクス学寄附講座前教授)とお話させていただき、うちのクリニックのPRP療法の審査をお願いできることになりました。ちょうどJAPSAMとしても再生医療等委員会を立ち上げつつあるところで、私が第一号だそうです。
なので、11月以降も、たぶんですが、PRP療法施術できそうです。よかったよかった。

林先生と、もうお一人、元名古屋大学整形外科教授の岩田久先生のお二人に、先日うちのクリニックまでお越しいただきました。
実際に私の考案したPRP作成法を見ていただき、また色々お話しさせていただきました。


 左が林先生、右が岩田先生。林先生は名大外科の移植グループのご出身で、癌免疫療法を実践されています。脂肪由来幹細胞のバンキングやiPS細胞作製も可能で、これらの臨床応用にも積極的です。美容の方面での研究や臨床応用を共同で行うことにも前向きで、頼もしい限りです。

岩田先生は、整形外科の大御所です。スポーツ医学におけるPRP療法は、田中将大選手の肘の治療に用いられたように、海外では広く行われているのですが、日本ではまだ一般的ではありません。今後、岩田先生が整形外科医を組織して、PRP療法を普及させるにあたって、私の安価で経済的(原価が1000円かかりません)な作成法は有用だから、タイアップして、新規にPRP療法を始める整形外科医を対象に講習会を開こうか、という流れになっています。

もともと、愛知は物造りの街です。こういった先生方と交流・連携して、新しい臨床技術を名古屋から発信していきたいものです。

さて、具体的な申請の手順ですが、私の理解するところによれば、PRP療法というのは、認定再生医療等委員会の審査さえ通れば、あとは地方厚生局への届け出だけで済みます。届け出だけですから認可はいりません。
なおかつ、厚労省も混乱を回避したいと工夫したのでしょう、昨年末に支援サイトがUPされました。

https://saiseiiryo.mhlw.go.jp/

この「再生医療等提供計画関連」の「提出様式作成」→「再生医療等提供計画(様式第1)の新規作成」とクリックして、必要事項を記入していけば、自動的に申請書が出来上がります。

もう一つ「特定細胞加工物製造関連」の「提出様式作成」→「特定細胞加工物製造届(様式第27)とクリックして、必要事項を記入します。ここで注意すべきは、医療機関、すなわち私たちクリニックの医師がPRPを作製する場合は、様式第14ではなくて第27の方です。

特定細胞加工物製造届は2015年5月24日までに、再生医療等提供計画は2015年11月24日までに提出しなければなりません。

もっとも、現在、各地で認定再生医療等委員会が立ち上がって、厚労省の審査を受けているところです。2015年1月現在、ネット上で認定再生医療等委員会を探しても、あちこちで立ち上げはあるものの正式に審査の受託を受けているところはありません。

話は戻って、私たちクリニックの院長の行動計画ですが、3月くらいには各地で認定再生医療等委員会が立ち上がるであろうから、4月に審査を受けて、5月24日までに特定細胞加工物製造届と再生医療等提供計画を地方厚生局に提出すればいいです。そうすれば今年の11月以降もPRP療法を継続できます。
ネットで検索すると、厚生局への届出など、自分でやればネット上で30分くらいで出来てしまう仕事を、請け負いますというサイトが色々出てきます。しかし、重要なポイントは、これらは「届出」ですからね。審査が必要なのは認定再生医療等委員会だけですから、ここにお金を払えばあとは不要です。不要なところにお金を払うと、結局はそれが消費者=お客さんに転嫁されてPRPの施術料金を高く設定せざるを得なくなるわけですから、自分で出来る「届出」は自分でやりましょう。

林先生とお話しして意見が一致して盛り上がった点があります。それは、施術の前の審査を厳しくするのではなくて、審査を通したあと、そのクリニックで行ったPRPの施術によって何らかの有害事象が生じた場合に、これを把握するシステムこそが重要だ、という点です。
方法はいくつかあります。たとえば、全例厚労省に報告するとか、有害事象が生じた場合に報告を義務付け違反したら罰則を課すとか。実際、認定再生医療等委員会がいかに専門家で構成されていても、美容外科の施術としてのPRP療法の臨床にまで精通しているのではありませんから、事前審査には限界があります。いっそ、事前審査の門戸はゆるくして、その代わりにその後の監視を厳しくした方が理にかなっています。
認定再生医療等委員会というのは、5人で構成できるし、おそらく大手のチェーン系の美容外科などでは、自前で組織してしまうのではないでしょうか?チェーンで10クリニックあれば、10店舗分の審査料を払うよりも、安く済むかもしれませんし、審査もクリニック側の思いのままでしょう。そうすると、この認定再生医療等委員会の審査そのものが、不良な施術をカモフラージュする免罪符のように機能してしまうことすら考えられます。

閑話休題。
たまたま見つけた小ネタです。1990年のクイズ王決定戦のYouTube動画。
https://www.youtube.com/watch?v=JAzYodFYW6Y
 「初の外人記者として中国に入り、「中国の赤い星」を著したアメリカ人ジャーナリストは?」
答えは「エドガー・スノー」。よくこんなこと知ってるなー。
13分30秒頃からの問題、「小鼻の横から、ほほ、くちもとにかけて出る線を、人相占いでは何と言う?」
これ、二人の新旧チャンピオン、答えられませんでした。答えは「ほうれい線」。
今から25年前、「ほうれい線」という言葉は、クイズ王ですら知らなかったということです。
これはたまたまこの二人が知らなかったのでは無い。そもそも決勝戦の問題として採用されている時点で、難問と認識されていたということだし、私も25年前には「ほうれい線」という言葉知らなかったと思います。いつごろだったかはっきりしないですが、この単語が世の中で使われるようになって「ほうれい線の法令って、なんで法令って言うんだろう?」と疑問に思った記憶があります。たぶんこのちょっとあと、90年代後半か2000年頃です。
世の中、いつのまにかゆっくりと変わっています。10年20年先にはさらに変わっているのだろうな。

話は戻って、再生医療関連法案というのは、iPS細胞が正しく活用され、日本の国益にかなってくれるよう環境設定のために成立したといっても過言ではないです。なぜPRPなど美容外科施術が絡め取られたかと言うと、数年前に京都で脂肪幹細胞の点滴を受けた後で韓国人のメディカルツーリズム客が死亡すると言う事件があったからでしょう。患者は規制の多い韓国を避けて日本で施術を受けました。こういったことが再びiPS細胞絡みで起きて、日本のiPS細胞の臨床応用が足踏みしてしまっては他国に抜かれてしまいます。
だから今回の規制の目的は、「思いつきで勝手なことをして虎の子のiPS細胞の足を引っ張るな」ということに尽きます。PRP療法に問題があって法規制が必要と判断されたわけではありません。だから現状のPRPの施術に強くブレーキがかかるということは無いはずです。
むしろ、厚労省あるいは国が描く最終的なイメージと言うのは、京都であったようなややこしい事件が再発することなく、しかし一般医療でも美容医療でも、再生医療が健全に育ってくれると良い、10年後20年後にはアジア各国から再生医療のために日本にさらに多くのメディカルツーリズム客に来て欲しい、そういうことです。
規制は逸脱せずに、しかしその範囲内でいろいろ頭をひねれば、何か面白いアイデアが生まれるかもしれません。規制をネガティブに捉えずに、いよいよ自由に臨床応用を工夫するための土俵を国が作ってくれたんだ、と考えると良いかもですね。

その2(→こちら)に続きます。

(2015年1月14日記)