私のPRP(多血小板血漿)作成法


 私の考案したPRP作成法を、昨年の第4回PRP研究会で発表しました。今回の記事はそのときの発表内容に、その後さらに改良した点を加えてまとめたものです。


 まず、PRPについての基本事項のうち、とくに勘違いされやすい部分をいくつか指摘します。


 上は、PRP療法を説明するときによく用いられるイラストです。遠心後の血漿の、上の方には血小板が少なく、下の方には血小板が多い、とするものです。


 これは間違っています。まずはそのお話からしたいと思います。

 青い小さな丸が血小板です。赤血球の比重は重いですから、まずは赤血球が沈殿します。話を簡易にするために、その時点では血小板は、血漿中に等間隔で浮遊していると仮定します。

 液体中の粒子の沈降速度は、重力加速度に比例し、重力加速度すなわち遠心加速度は、遠心機の中心からの回転半径に比例しますから、血小板の沈降速度は、回転半径に比例することになります。すなわち、vイコールdt分のdxイコールaxという簡単な微分方程式となり、これを解くと、時間経過とともに、血小板は青い線のように沈降していくことになります。血小板同士は等間隔、すなわちbイコールdのままで、その間隔がa,b,cのように開いていくということです。


 ですから、血漿中の血小板密度は、どこも同じで、沈殿だけが増えていきます。下の方で濃くなるなどということは、生じ得ません


 ゲルセパレーターのある遠心管を用いれば、血小板はその直上で沈殿しますし、そうでない場合は、赤血球層の上部で濃縮されます。

 歯科では、この濃縮層のあたりを採って用いるようですが、美容外科ではそれは出来ません。赤血球が多く混ざると、皮内注射したときに、内出血様となるからです。



 したがって、美容外科でPRPを調整する場合には、まず低速で赤血球のみを沈殿させ、ついで血漿を高速遠心して、血小板を沈殿させ、上清を除去したのち沈殿を含めて混和して血小板を再浮遊させてPRP液を作る、これしか選択肢はありません(二回遠心法)。

  一回遠心法で、下の方の血漿をPRPであると信じて採取した場合や、二回遠心法で沈殿を混ぜずにPRPとして使用した場合の血小板濃度は非常に薄いです。W-PRP法と称して、沈殿を含めて混和したPRP液を「白血球を加えることによって効果を高めている」などという根拠のない寝言のような理屈を掲げているところがありますが、そうではなく、二回遠心法で白血球を含んだ沈殿を含めて混和しなければ、理論上PRP液は採取できないのです。

  もう一点、重要な点を指摘します。




それは、抗凝固剤を用いただけでは、血小板凝集は抑制されない、という事実です。


 先ほど説明した二回目の遠心終了時の血漿です。血小板というのは、沈殿させると、一次凝集が起こって、壁にへばりつきます。これは、ミキサーで混ぜて再浮遊させることはできません。まぜようとすればするほど、残っている血小板も壁に粘着して、血漿中の血小板は薄くなっていきます。血小板というのは天邪鬼なんですね。数時間静置すれば、一次凝集というのは可逆的ですから、また再浮遊しますが、そんなに待ってはいられません。プロスタンジンなどの血小板凝集抑制剤を少量添加してやると、この問題は解決します。

 PRPについての論文や、キットのメーカーの資料では、最終血小板濃度として高値が記されていますが、これはおそらく、調整後数時間静置したあとで測定したものだと考えられます。実際の臨床現場では、PRPは調整後(沈殿混和後)ただちに使用するでしょうから、血小板は一次凝集から回復しておらず、血漿中の密度は薄いままです。



  次に、実際のPRP作製の様子です。



まず、プラスチックシリンジの耳を切り取ります。普通のハサミで切れます。


ふたとして、保護栓を使います。これも医療用消耗品として入手できます。

 次に抗凝固剤を加えます。わたしと同じ世代の方は、研修医のころ、動脈血ガス測定の時に、このようにヘパリン採血をした経験があるのではないでしょうか。同じ要領です。(注:ここでは抗凝固剤としてヘパリンを用いていますが、ACD-AとヘパリンとでそれぞれPRPを作製してPDGF濃度を測定してみたところ、同じ血小板密度であってもACD-AのほうがPDGF値が高いことがわかったので、現在はACD-Aを用いています)



 採血します。5mlのディスポシリンジに4mlまで採血したものを8本採取します。4mlというのは、これ以上採血するとシリンジが長くなって、遠心分離器に入らなくなるからです。

ここからがキモですが、採血したシリンジごと、遠心分離します。下図は遠心が終わったところ。




 遠心分離の条件は、よく聞かれます。簡単な話なので、ちょっと考えれば誰でも気が付くことだと思うのですが、第一回の遠心では、赤血球を分離するのが目的ですから、「赤血球が沈殿するが、血小板は沈殿しない最少の遠心力」がベストです。遠心力が少なすぎると赤血球が分離されないし、大きすぎると血小板まで沈殿して血漿中の血小板が少なくなります。手持ちの遠心器の、遠心時間や回転数をいろいろためして、赤血球と血漿が分離する最少の遠心力を、肉眼(赤血球が分離されているかどうか)で確認して決めればいいのです。私の使っているKOKUSANのH-19αでは、3000rpm×3分です。


 手製の、シリンジ台に載せます。東急ハンズで材料を買ってきて、3千円くらいでできます。金属製なので毎回オートクレーブで滅菌して再使用できます。

 血漿を採取します。このとき用いるのは、延長チューブと三方活栓で、これらはすべて医療用消耗品です。

 遠心チューブを用いず、ピペッティング操作も不要なので、安価、かつ衛生的、倫理的です。

実 際には行いませんが、採取後の赤血球を生理食塩水で薄めて患者に戻しても、問題が生じません。血液(血漿)は医療用消耗品から外には一回も出ていないからです。成分献血と同じ理屈です。

 いま、血漿を採取したシリンジには、あらかじめプロスタンジンを少量、血小板凝集抑制の目的で入れておきます。一次凝集が起きないようにです。

 経験上、18G針で割った一かけら、だいたい1マイクログラムくらいで十分です。1バイアルに20μg入っているので、目視でその1/20かけらということです。
 あるいは生理食塩水1mlに溶かしてその1/20の0.05mlを加えます。このほうがより定量的なので、最近はそうしています。


次いで、2回目の遠心分離です。

このときの遠心条件もよく聞かれますが、二回目の遠心は、浮遊している血小板を少しでも多く沈殿させることが目的ですから、「最大の回転数で、長時間遠心すればするほどいい」です。私の遠心器は回転数MAX4000rpmですから4000rpmで、時間は、お客様をお待たせできるぎりぎりの最長時間ということで15分に設定しています。


2回目の遠心が終わったところです。
 

下方に白く沈殿しているのが、白血球と血小板で、バッファーコートと呼ばれます。


一回目の遠心後の血漿と、二回目の遠心後の血漿とを並べたところです。下の2回目の遠心後の血漿のほうが、透明度が高いのがお判りでしょうか?この一回目の遠心後の血漿の「濁り」が血小板と白血球です。高脂血症の方や、脂肪の多い食事をした直後の方の血漿も濁っていますが、この場合は一回目と二回目で、濁りに変化はありません。

上澄みを適量抜きます。


上澄みを少量残して除去したところ。シリンジを少し浮かして「遊び」を作ります。

(注;最近は完全に上澄みを抜いてしまって、生理食塩水で置き換えています。そのほうが、ACD-Aの残留が少なく注射したときに痛くないからです。)

キャップをします。


これを、試験管ミキサーで混和します。


出来上がったPRP液です。一次凝集は起きません。一次凝集(粘着)しないので、いくらでも濃縮が可能です。

血小板が本当に採れているか、を確認してみましょう。
(※血小板が採れているからと言って、その中に含まれるPDGF(血小板由来成長因子)も多いとは限りません。遠心などの過程で血小板からPDGFが放出されてしまうのか、条件によっては血小板が多くてもPDGF濃度はあまり高くない、というPRPも出来てしまうからです。しかし、血小板が少ないのにPDGFが高いということはありえないので、その意味で血小板がちゃんと採れているかを確認してみることは重要です)
 

生理食塩水を適量とります。ここに、出来上がったPRP液を一滴だけ加えます。


30G針で一滴は、だいたい20マイクロリットル前後のようです。生理食塩水数ccと混ぜるとだいたい数千倍希釈になります。

どうして一滴がだいたい20μlになるかというと、PRP液をポタポタと別のシリンジに滴下して、0.1ml(100μl)が何滴になるかを確認してみた結果です。私がやってみたときは5滴でしたが、これは、針やPRP液によって変わるであろうから、厳密ではありません。しかし、採取したPRP液が本当に十分な血小板量を有しているか、の半定量的な確認には十分です。

PRPの施術のときには、市販のキットでも自作のキットでも構いませんが、最初のうちは出来上がったPRP液の最終血小板濃度を顕微鏡で確認するとよいと私は考えます。そうしなければ、実は非常に薄いPRPとはとても言えない血漿を打っているだけかもしれません。
 生食で希釈した液を、試験管ミキサーで混ぜて、ディスポの細胞計数板
http://www.tech-jam.com/items/KN3318905.phtml)で、血小板を数えます。


ディスポの細胞計数板に一滴たらします。


白い点々が血小板です。さきほどのPRP液はだいたい200万個パーマイクロリットルであったことがわかります。


ちなみにですが、上はPRPの原液を顕微鏡で見たところです。やや大きなのが白血球で、小さな点々は皆血小板です。このように、正しく調整されたPRP液は血小板密度がとても高いので、希釈しなければ数えられません。

血小板というのは、通常の細胞より小さく、なおかつ無染色なので、顕微鏡観察には多少のこつが要ります。皮膚科医であれば、コンデンサーを絞って白癬菌を観察する要領で通常の顕微鏡で確認することも出来なくはないのですが、よりストレスレスに観察するためには、位相差顕微鏡が望ましいです。


上の写真は、私の構築した、位相差顕微鏡システムで、手持ちの古いオリンパスの顕微鏡の光源をLEDに替えて、位相差コンデンサと対物レンズをYahooオークションで入手して付け替えたものですが、もし新規に購入されるのであれば、DAIKO
http://www.daikosci.co.jp/pdf_f/dsmp03.pdf
が一番安価でいいと思います。細胞計数板というのは、けっこう厚さがありますから、歯科で歯周病菌を確認するのに用いるようなタイプの位相差顕微鏡では観察できません。DAIKOのものは、フィールドタイプということもあって、けっこう厚い試料にも対応していますから使用できます(確認済み)。


これにDINO-EYE
http://microscope.vc/product/microscope/dinolite/dino-eye-premier-s-30mm.html
をつければ、パソコン上でストレスレスに計数できますし、画像の記録も出来ます。というか、DAIKOの顕微鏡は一眼で視野が狭いので、ほとんど必須です。
 

PRP液を注射する際には、これまたコツがあります。普通に皮内注射すると、針を抜いたときに圧であふれて、PRP液が皮膚上にこぼれてしまってもったいないです。針を抜くときにシリンジ内筒を引いて陰圧をかけながら抜くと、皮膚上にこぼれません。お試しください。

また、PRP療法のキットを用いて調整・使用するときには、カルシウムや自己血清などを用いて、PRP液を「活性化」してから注射するところが多いようです。わたしはこれが非常に不思議です。なぜなら、PRP液というのは、注射して組織内に入った時点で、トロンボプラスチンやカルシウム、コラーゲンなどに触れますから、血漿は凝固するであろうし、血小板は非可逆的な二次凝集を起こして顆粒を放出します。歯科などで、充填物としてPRP液を用いるときには、ゲル状になっていないと使えないから、体外で活性化(ゲル化)しておくというのは解りますが、美容外科領域での使用で、わざわざ「活性化」して、使いにくくする必然性がないのです。

昨年、PRP研究会で発表した時に、質疑応答の際に、演壇からフロアに向かって、この点について何か知っている方、ご意見お持ちの方いないか、逆質問してみたのですが、誰もなぜ「活性化」させて使っているのか、解らないようでした。たぶん、歯科で使っているものを、そのままキット化された製品を、皆が何も考えずに習慣的に使っているからじゃないかな?

PRP研究会では、プロスタンジンを添加する点について、「プロスタンジン自体に、創傷修復作用があるから(それでプロスタンジン軟膏という製品があります)、臨床的に良い相乗効果を出すのではないか?」という指摘がフロアの先生からありました。その発想は、わたしは気が付かなかったのですが、プロスタンジンと言うのは、動脈硬化などの患者さんで点滴治療に用います。点滴がもれることがたまにあるのですが、その部に何か変化が起きるかと言うと、通常の点滴漏れと同じで、良くも悪くもならないので、たぶんさほどの臨床効果にはつながらないのではないか?と考えます。

さて、以上のような私のPRP作成法を用いると、しっかり原価計算をしていないのですが、医療用消耗品と薬剤のみですから、たぶん数千円で出来るはずです。市販のPRP作成キットは、どれも数万円ですから、PRPの施術もまた高価になります。
正直なところ、このPRP療法というのは、確かに効果はあるのですが、その効果が一回(一本)につき数十万円するような施術には私には思えません。だから、市販のキットでのPRPの施術は、うちのメニューとしては掲げませんでした。
自作キットで安価にPRPが作成できるようになったので、初回5万円、2回目以降は3万円で施術しています。
しかし、自分でやっていて思うのですが、私の方法は、昔実験室で多少研究していたといった経験が無い方には、取っつきにくいでしょう。というよりも、PRP療法そのものが、これは外科的な手技と言うよりも、血液内科的な知識が必要な施術ですから、そういうことの好きな研究オタク的な脳が無いと、やってて楽しくないと思います。
自院メニューに掲げるかどうかは、やっていて楽しい施術かどうか、というのが、個人クリニックにとって大きな要素です。私は、採算性というよりは、この施術、やっていて楽しいので好きです。

お医者さんの見学は可能ですので、お電話ください。わたしは出不精で、なかなか学会等にも足を運ばないのですが、うちのクリニックまでお越しいただければ、同業者といろいろ情報交換すること自体は大好きです。また、女医さんは、そのままうちのお客さんになっていただける率が非常に高いので、とくに歓迎しますよ。
(2013年10月23日記)