その1は→こちら
その2は→こちら
ALSO(産科救急)の話は→こちら
一昨日の日曜日にクリニックをお休みして、自治医大までPALS(小児救急)の更新コースの受講に行ってきました。
今回4度目の更新です。2年に一回の更新なので、最初に受講してから早いもので8年経ちました。
JATECやALSO、FCCSいろいろ受講して、インストラクターを経験したりもしましたが、現在はACLS(成人の心疾患を中心とした救急コース)とPALSの2つのプロバイダーを維持しています。この2つは本当に基本なので、医師である限りスキル維持のために更新を続けたいと考えています。
今回講師として指導していただいた方は産婦人科の先生で、大野病院事件で刑事告訴され無罪が確定した産婦人科の先生とお二人で、福島県内の周産期医療センターに勤務しておられるとのことでした。たまたま、というよりも、救急の講習に行くときには、気を引き締める意味もあって、これを使うことが多いのですが、当時の支援ボールペンを持参していたので、記念に進呈しました。
発案したのは実は私です。うちのクリニックの女の子たちがボランティアで発送事務をしていました。最終的に1万500本を配布しました。費用は全て現場の医療者たちのカンパです。
無罪判決のあと、あの産婦人科の先生はどうされたのだろうか?と思いだすことはありましたが、福島に留まって、周産期医療センターで頑張っていらっしゃったとは・・。
医師でない方には、この感銘伝わりにくいと思いますが、大野病院事件の当時、この産婦人科医の先生(匿名も変なので、以後加藤先生と実名で書きます)に対して、地元では同情的な声ばかりではなかったそうです。それは、単に「昨日まで元気だった妊産婦が死んでしまった。産婦人科医のせいに違いない。」という単純なもので、悪意のない誤解であるがゆえに、医療者側としては、やりきれない思いがつのります。
加藤先生が産科医療に情熱を失ってしまって、たとえば私が今やっているような美容自由診療のような世界に転向してもよかったわけです。
そういう道を選ばずに、自分に石を投げてきた住民も混ざっているであろう福島にとどまり、お産の現場の仕事を続けるっていうのは、私はブラックジャックとか読んでも何の感動も覚えないのですが、加藤先生には脱帽です。
私の横にいらっしゃる講師の先生(河村真先生といいます)がまた心根の良い方で、大野事件とそれに続く震災を契機に、福島の周産期医療に尽力しようと決意して福島に移住されたのだそうです。こういう方々こそが本当の医者です。それに比べれば、私などは医師免許を持っているだけのただの人です。
およそ出不精の私が、救急救命の講習に行くのだけは厭わないのは、スキルの維持という目的もさることながら、こういう気持ちの良い現場の医師の方々と出会うことが多いからです。本当に心が洗われます。
同時に、私なりに強調しておきたいことがあるのですが、医者の中には一定数、こういった善意の方がいます。一般の人間(この場合私も一般人に含めます)は感謝し称賛すべきです。
しかし、注意しておかなければならないのは、こういった話を聞いたり読んだりしていると、それが当たりまえのような気持ちにだんだんとなってくるという危険です。「医者であれば当然の行動だ」という厳しい意見を言う人が出てきます。すると医者の中からも、「救急や産科など、好きな医者がやっているのだからそういう連中にやらせておけばいい」という、開き直った意見を言う人も出てきます。医者と一般人のそういう対立は、悲しいです。
そうではなく、私も含めた一般人の立場にある人間は、こういう善意の医師たちに対して、ただただ有り難いことだと後背を拝んで感謝すべきだと考えます。
そしてもうひとつ強調しておきたいことは、全ての医者の心には、一定率、こういった善意に向かう気持ちがあるということです。私の中にもあります。
実際、私も16年間の国立病院勤務時代に、救急や産科とは異なりますが、別の種類の善意の医療に尽くした時期がありました。医療の中の不採算部門は、こういう医者の中の善意によってしか支えられない、そのことをよくご理解ください。そして、そういった医者の善意を最大限に引き出して、かつその医者自身も不幸にしない(過度な称賛はその医師を後戻りできなくさせて追い詰めることもあります)ためには、私たち一般人はどういう言動をとるべきか、そこをよく慎重に見極めて、皆で幸せな社会を作りたいものです。
最近、プチ整形の具体的な施術とは離れた話題が続いてすみません。私がいまやっている美容医療も、お客様を幸せにすることで、社会的意義はもちろんあると自負しますが、医療の本流は、やはり河村先生・加藤先生たちがなさっているような仕事です。
お客様に対しては、信頼に答える誠実な医師でありたいし、その一方で、河村先生・加藤先生たちのような「本当の」医師たちに対しては、心から称賛と敬意を送りたいと思います。