鶏肉で糸リフトの実験しました

   
鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は8月1日(水曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年3月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

今日は1日、7か月後の予約受付日です。
朝10時から開始なのですが、9時過ぎから電話が鳴り始め、スタッフは携帯で時刻を確認しながら10時0分ちょうどになるまで待機します。公平第一なので。
今日1日でだいたい300件くらいのお電話をお受けします。1時間ほどで声がかすれてくるので、小さなアメを口に入れながら頑張って、2時間弱で次のスタッフと交替。この日ばかりは受付は5人体制で頑張ります。



しみ取りの枠と、糸など手術の枠があり、しみ取りの枠は初日で埋まりますが、手術の枠は2日目3日目でも日を選ばなければ空いていることが多いです。なので手術御希望でお電話繋がらないと困ってらっしゃる方、2日目の午前中あたりが狙い目ですよ。

さて、PAPARSという形成外科の雑誌があるのですが、そこから糸リフトについての原稿執筆依頼が来ました。糸リフトの経験の無い先生方に、糸でたるみが引き上がる理屈を解りやすく視覚化しようと、鶏の皮と腿肉を買ってきて実験しました。


左)施術前のたるんだ頬のイメージ 中)針を刺したところ 右)糸が通った施術後。赤線は引き上がり具合を解りやすくするための補助線。

どうでしょう、一点に集中していた重力負荷が糸によって周辺に分散される理屈がお解りいただけるでしょうか?
これを踏まえて、実際に口横のバッカルファット付近のたるみの引き上げを解説したのが下図です。最初下顎あたりから皮下を通して針を入れますが、このときの進行方向は、持ち上げたいターゲットである口横あたりに向けてです。針の先端がターゲットに届いたら、これを拾って、次いで針の進行方向を上方へと変えます。この操作がキモであり、針の方向をまったく変えずに、ただ糸をやみくもに皮下に通すだけでは、鶏肉の実験のような引き上げ効果は得られません。


次にコグ(返し)の性状についてです。糸リフトは、糸と組織との固着によって重力の負担を分散させる手技です。下図の左側は、単糸に手間をかけて刻みを入れた当院で使用している糸で、右側は近年出回っている型枠を作って樹脂を流し込んで成型した安価大量生産物です(モールドタイプと呼ばれます)。あなたはどちらの「返し」で魚を釣りますか?


スレッドリフト用の糸というのは、様々な製品が次から次へと現れます。しかし新製品=改良品というわけではありません。糸リフトの原理や仕組みを大して理解もしていない製造者が、コストだけを考えて改悪品を世に出してきているとしか思えないのが近年の現状です。
現場で施術している医師の側の問題も大きいと思います。私は皮膚科出身であり、解剖を熟知した形成外科医に対する敬意は決して忘れませんが、この問題に関してはあえて苦言を述べさせていただきたいと思います。多くの形成外科医が、切って縫い付ける手術ばかりに関心を寄せ、糸リフトについて真剣に考えようとしてこなかったのではないでしょうか?せめて今回のPAPERSの原稿を読んで、真面目に糸リフトに取り組もうと志している方だけにでも、私の思いと経験知が伝わればと願います。

専門的な話になりますが、そもそもSMAS(頬の深部にある筋膜組織)の切除縫縮というのは支持組織を強化する作業では決してありません。切除した皮膚が伸びるようにSMASもまた再びたるみます。むしろ手術の結果損傷を受けたSMASは長期的には伸びて菲薄化するでしょう。そこで脂肪吸引やら、時には顎下腺まで切除するというような「ボリュームを減らす」という戦法をフェイスリフトに併用する医師も現れます。溶けない糸によるたるみ引き上げというのは、外部から支持組織を加えるというプラスの作業であり、例えていうならば大腿筋膜をSMAS部分に移植して補強するようなことです。決して切るフェイスリフト手術と対立するものではなく、むしろこれを補強する手技と認識すべきと考えます。

何となく溶ける糸のほうが安全なような気がするからという理由で患者に溶ける糸を勧めて、効果が無かったと訴える患者に「やはり糸では駄目ですね。費用は高くなりますが切るリフト手術をしましょう」と誘導するためのツールに、糸リフトの施術を貶めて欲しくありません。15年間、糸リフトの施術をメインメニューとして施術を続けている私の心からの願いです。

もう一つ、コイル状の糸(アプトススプリング)についての実験です。コイル状の糸を挿入した後、実際に内部がどのようになっているのかを確認してみました。
下図はコイル状の糸(上)と、これを鶏のささ身に挿入したあとで切り開いたところ(下)です。コイル状の糸を引き延ばした状態で挿入すると、リングとリングの間で肉が挟まれて組織と固着します。コイルは縮んで戻ろうとするので、その性質を利用してたるみの引き上げに利用します。糸全体に伸縮性があるので口横や首など可動部位に向いています。
 

均一にむらなく引き伸ばされているようで安心しました。車のサスペンションの後付けみたいですね。

(2018.7.1記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継