タトゥー彫り師に独立したライセンスを与えてはならない(その3)


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【「タトゥー無罪」の逆転判決を読み解く5つのポイント(神庭亮介)】
https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/tattoo-point
タトゥーはアートか医療か――。医師免許なしに客にタトゥーを入れたとして、医師法違反の罪に問われた彫り師の増田太輝さん(30)に対し、大阪高裁は逆転無罪の判決を下した。
判決はどんなロジックで無罪を導き出し、彫り師業界にはいま、何が求められているのか。5つのポイントにまとめ、解説する。
1.タトゥーは医療ではない
大阪高裁の西田真基裁判長は、増田さんに罰金15万円の有罪判決を下した大阪地裁の判断について「医師法の解釈適用を誤ったもの」として破棄した。
一審判決は医行為を「医師でなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と定義し、感染症や皮膚障害、アレルギーを引き起こすおそれのあるタトゥー施術は医行為に当たると結論づけた。
これに対し、弁護側は医師法制定当時の国会答弁や学説を根拠に、医行為は「疾病の診断・治療・投薬」など医療に関連するものであると主張。上記の定義の前提として「医療関連性」が必要だと訴えた。
地裁判決の定義だけでは、理容師の顔そりやネイルアート、まつげエクステなども「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」として、医行為扱いになってしまうからだ。
高裁判決はこうした弁護側の主張を認め、「医療関連性も必要であるとする解釈の方が、処罰範囲の明確性に資する」と判断。
タトゥー施術によって「保健衛生上の危害が生じるおそれ」があることを「否定できない」としつつ、「本件行為は、そもそも医行為における医療関連性の要件を欠いている」と指摘した。
整理すると、医行為というためには
①医療関連性がある
②医師でなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為
の2つの要件を満たす必要があるが、タトゥー施術は①を満たしていないので、医行為には該当しないことになる。
2.彫り師と医師は別の仕事
「入れ墨(タトゥー)は、地域の風習や歴史的ないし風俗的な土壌の下で、古来行われてきており、我が国においても、それなりに歴史的な背景を有するものであり、1840年ごろには彫り師という職業が社会的に確立したと言われている」
高裁判決はタトゥーの歴史や文化に対して、一定の評価を与えた。
ある時期以降、反社会的勢力の構成員が入れ墨を入れるというイメージが社会に定着し、世間一般に否定的な見方が広がったとする一方、近年では外国での流行の影響もあって、ファッション感覚や個々の心情の象徴としてタトゥーを入れる人が増えていると考察。

「タトゥーの歴史や現代社会における位置づけに照らすと、装飾的ないし象徴的な要素や美術的な意義があり、また社会的な風俗という実態がある」と指摘した。
彫り師と医師という職業の違いについては、以下のように言及している。
「彫り師やタトゥー施術業は、医師とはまったく独立して存在してきたし、現在においても存在しており、社会通念に照らし、タトゥーの施術が医師によって行われるものというのは、常識的にも考え難い」
「タトゥーの施術において求められる本質的な内容は、その施術の技術や、美的センス、デザイン素養などの習得であり、医学的知識及び技能を基本とする医療従事者の担う業務とは根本的に異なっている」
「医師免許を取得した者が、タトゥーの施術に内在する美的要素をも習得し、タトゥーの施術を業として行うという事態は現実的に想定し難いし、医師をしてこのような行為を独占的に行わせることが相当とも考えられない」
彫り師と医師は別の職業。当たり前といえば当たり前なのだが、一審判決ではこの点が一緒くたにされていた。高裁判決はこの「当たり前」を丁寧に解きほぐした、常識的な内容と言える。
3.美容整形やアートメイクはどうなるの?
医療関連性がなければ「医行為」に当たらないとすると、美容整形やアートメイクの扱いはどうなるのか。
一審判決は医療関連性を要件とした場合、「美容整形外科手術等の医行為性を肯定することができない」としていたが、高裁判決は美容整形に関して「劣等感や不満を解消することも消極的な医療の目的として認められる」と判断した。
美容整形手術を「消極的な意義において患者の身体上の改善、矯正を目的とし、医師が患者に対して医学的な専門知識に基づいて判断を下し、技術を施すもの」とみなし、医療関連性の要件を設けたとしても「医行為に該当する」という解釈だ。
アートメイクは、美容のために眉やアイライン、唇などに針で色素を注入する施術。技術的にはタトゥーと共通する。
高裁判決は「アートメイクの多くの事例は、美容整形の概念に包摂し得る」「美容整形の範疇としての医行為という判断が可能」と指摘。
「医療関連性がまったく認められないタトゥーの施術とアートメイクを同一に論じることはできない」として、両者を明確に切り分けた。
近年、彫り師に対する医師法違反容疑での摘発が相次いだ背景には、アートメイクによる消費者被害があった。
アートメイクによるトラブル拡大を受け、厚生労働省は2001年、「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」は医師にしかできない、とする通知を出した。
警察はこの厚労省判断を根拠に、「医師免許なしのアートメイクが医師法違反であれば、同様の技術を用いるタトゥーも医師法違反に当たる」というロジックで彫り師に対する取り締まりを強めていた。
タトゥー側からすれば「とばっちり」とも言える状況だが、今回の判決はタトゥーとアートメイクを「別物」として交通整理する形をとった。
4.職業選択の自由、侵害のおそれ
医師免許がなければ、客にタトゥーを彫ってはいけない。そんな一審判決の解釈について、高裁判決は「被告人の職業選択の自由を侵害するおそれがあり、憲法上の疑義が生じるといわざるを得ない」と疑問を投げかけた。
医師免許を取得するには、医学部で6年学び、医師国家試験に合格する必要がある。数ある資格試験のなかでも非常に高いハードルだ。
高裁判決は「タトゥー施術業は反社会的職業ではなく、正当な職業活動であって、憲法上、職業選択の自由の保障を受けるものと解される」と判断。医師免許を求めることは「タトゥーの彫り師にとって、禁止的とも言える制約になることは明らか」と断じた。
弁護側は職業選択の自由だけでなく、彫り師の表現の自由や、タトゥーを入れたい客の表現の自由、自己決定権に対する侵害でもあると訴えた。
ただ、こうした主張に対して高裁は「これらの点を検討するまでもなく、タトゥー施術業は医師法にいう医業に該当しない」として、明確な言及を避けた。
京都大学の曽我部真裕教授(憲法学)は「タトゥーが表現の自由や自己決定権に含まれるかというのは非常に新しい論点なので、そこまでは踏み込まなかったのだろう」と推し量る。
5.どんな制度が望ましいのか
高裁判決の解釈をとった場合、タトゥー施術に対する規制は存在しないことになる。規制の空白に対して、どう向き合っていけばいいのだろうか。
高裁判決は、今後を見越した対応策にも言及している。
「医師法の医行為を拡張的に解釈してこれを処罰対象として取り込むのではなく、必要に応じて、業界による自主規制、行政による指導、立法上の措置などの規制手段を検討し、対処するのが相当」
「医師でない者のタトゥー施術業を医師法で禁止することは、非現実的な対処法というべきである」
欧米には届け出制や登録制、許可制など、彫り師に特化した制度がある。
「我が国でも、彫り師に対して一定の教育・研修を行い、場合によっては届出制や登録制など医師免許よりは簡易な資格制度を設けるとか、衛生管理の基準や指針を策定することなどにより、保健衛生上の危害の発生を防止することは可能である」
「(タトゥー施術で)必要とされる医学的知識及び技能は、医学部教育や医師国家試験で要求されるほど広範囲・高水準なものではなく、より限られた範囲の基本的なもので足りる」
高裁判決が提案した「自主規制」に関しては、すでに具体的な動きも出始めている。
弁護団の吉田泉弁護士は彫り師の業界団体「日本タトゥーイスト協会(仮称)」を立ち上げ、衛生や安全に関する自主規制基準を策定することを目指している。
吉田弁護士は「今回の判決で、業界団体や自主基準をやれ!と発破をかけられた感じがします。この判決を追い風にしないといけない」と語る。
協会は300人を目標に、今月にもメンバーの募集を始める。和彫りやタトゥーなどのジャンルを区別せず、全国から参加を呼びかけるという。
彫り師の世界は師弟や一門の関係が濃く、派閥性が強いとも言われる。そうした壁を乗り越え、業界全体として結束できるかどうかがカギになりそうだ。
弁護団長の三上岳弁護士は言う。
「規制がないからといって、衛生の知識や配慮を欠いた『自称・彫り師』のような人が出てきたら、真っ当にやっている彫り師の方々にも迷惑。絶対にやめていただきたい」
「誰もが安心してタトゥーを入れられる環境をつくらないといけない。これで終わりではなく、ルールづくりへ向けていまからがスタート。彫り師の皆さんにも気を引き締めてほしい」

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大阪高裁の判決は確定していないので、判決文を入手することが出来ません。新聞記事などの二次情報をもとに推測するしかないのですが、上記記事からは、かなり論点が浮かび上がってきます。
タトゥーが医行為ではないとされた根拠は、「医療関連性」がないということのようです。
一方、美容外科の施術やアートメイクは、「劣等感や不満を解消する」という「消極的な医療の目的」があるから医行為である、と解釈したようです。
さて、そうなると、ピアスの穴開けはどうなのか?舌を二つに切り裂くスプリットタンの施術もまた、医療関連性があるとは言えないから医師以外のものが業として行っても良いということになるのではないでしょうか?要するに身体改造系の施術は、どんなに「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」としての程度が大きくても、医行為ではなく、無資格者で可となってしまいます。極端な話、指や性器を切断する施術ですら、合法ということになります。
「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」としての程度が大きい場合には、「医療関連性」が明白でなくても、これを医行為として医師(または医師の指示)によってのみ行うことが出来るとしたほうが安全です。
さて、そうすると、タトゥー施術の「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」としての程度が問題になります。私たちタトゥーやアートメイクの合併症や除去の困難さを熟知している医師から観ると、大阪高裁の裁判官の認識の甘さが非常に気になります。
タトゥーを入れた人のうち、どの位が就職やその後の社会生活に不便をきたして、これを除去したいと考えるに至ると思うでしょうか?「タトゥー除去の窓口」によれば、若い頃にタトゥーを入れた30~40代の80%以上の人が「タトゥーを消したい」と考えているそうです。繰り返し記していますが、タトゥーを消すには、色素を入れる時よりも激しい痛みを伴うレーザー施術が複数回必要となり、費用は通常数十万円から数百万円かかります。なおかつ完全には消えません。うっすらと残るか、完全に消そうとすれば瘢痕を残します。
タトゥーは入れるのは簡単ですが、その後の精神的苦痛や除去の困難さを考えると、「保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」としての程度は非常に大きいです。施術に当たっては、この点のインフォームドコンセントをしっかりと取って、それでもタトゥーを入れたいという強固な意志を確認しなければなりません。だから医行為として、医療の範疇におかれるべきです。
高裁は「我が国でも、彫り師に対して一定の教育・研修を行い、場合によっては届出制や登録制など医師免許よりは簡易な資格制度を設けるとか、衛生管理の基準や指針を策定することなどにより、保健衛生上の危害の発生を防止することは可能である」「(タトゥー施術で)必要とされる医学的知識及び技能は、医学部教育や医師国家試験で要求されるほど広範囲・高水準なものではなく、より限られた範囲の基本的なもので足りる」と、彫り師独自の届け出制や登録制を提案したようです。
しかし、よく考えてみましょう。果たして、このようなライセンスを彫り師に与えることによって、何がどう変わるのでしょうか?
彫り師たちはライセンスを得て若者たちにこれまで以上にタトゥーを勧めるでしょう。そこに「将来後悔するかもしれない、除去は困難である、アレルギーを発症したら難治である、色素に何が含まれているのか自分たちは実は全然把握していない」そういったことを「自主規制」によって積極的に伝えるという姿は想像できません。ライセンスの無い現在のほうが、若者に誤った安心感を与えないという点でまだましです。
だから、タトゥーもアートメイク同様、というよりも、広範囲に多種類の色素を使う分なおのこと、医行為として医療の管理下におかれるべきです。具体的には、彫り師にライセンスを与えるとしても、医師の指示のもと施術されるべきです。
これも繰り返しになりますが、医師が彫り師を管理して上前をはねようということではないです。タトゥーを医行為とすることは、医師にメリットデメリットの説明責任を持たせるということです。彫り師は、合併症や除去の困難さを知らないし対処も出来ないのだから、独立したライセンスを与えるべきではありません。
(2018.11.16記)

タトゥー彫り師に独立したライセンスを与えてはならない(その2)


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「タトゥーは医療行為ではない」 彫り師に逆転無罪判決 (朝日新聞DIGITAL 2018年11月14日)


医師免許がないのに客にタトゥー(刺青(いれずみ))を施したとして医師法違反の罪に問われた彫り師の増田太輝被告(30)=大阪府吹田市=の控訴審判決が14日、大阪高裁であった。西田真基裁判長は「タトゥーは医療を目的とする行為ではない」と判断。罰金15万円(求刑罰金30万円)とした一審・大阪地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。
 増田被告は2014年7月~15年3月、医師免許がないのに客3人の体の一部にタトゥーを施したとして15年8月に略式起訴され、翌月に罰金30万円の略式命令を受けたが拒否。タトゥーを客に施すことが医師法で医師免許を必要とする「医行為」に当たるかが正式裁判で争われた。
 高裁判決は医行為について、17年9月の一審判決が示した「医師が行わなければ保健衛生上、危害を生ずるおそれのある行為」とする基準に加え、医療や保健指導が目的の行為であることも要件だと解釈した。
 その上で、タトゥーは歴史や現代社会で美術的な意義や社会的風俗という実態があることを踏まえ、「医師の業務とは根本的に異なる」とし、医行為には当たらないと判断。彫り師に医師免許を求めれば、憲法が保障する職業選択の自由との関係で疑義が生じるとも述べた。
 さらに、医師法以外に法規制がないとされてきたタトゥー施術は、業界による自主規制や立法措置などを検討すべきであり、医師法で禁止することは「非現実的な対処方法」だと批判。施術を医行為とした一審判決の判断は「維持しがたい」と結論づけた。
 大阪高検の田辺泰弘次席検事は「判決内容を精査した上で適切に対応する」とコメントした。(大貫聡子)
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本当は、判決文を読んで、以下の文章を書きたいところなのですが、確定していないので公開されていません。ですから、二次情報である新聞記事などを頼りにせざるを得ず、情報の正確さにもどかしさがある点はお含みおきください。
私が今回の高裁判決で憤っているのは、上記の記事中「タトゥーは医行為ではない」と高裁が判断したという点です。
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高裁判決は医行為について、17年9月の一審判決が示した「医師が行わなければ保健衛生上、危害を生ずるおそれのある行為」とする基準に加え、医療や保健指導が目的の行為であることも要件だと解釈した。
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医行為がこのように「目的」でもって規定されるとするならば、たとえば美容外科で行っている二重瞼の手術などもすべて医行為ではなくなります。医行為は、生体への侵襲の程度によって定義されるべきです。
大阪高裁の裁判官は、タトゥーをよほど軽く考えているのではないでしょうか?ボディペインティングではないのです。容易には消せません。レーザー照射を繰り返しても、うっすらとした痕は完全には消えないし、消えたように見える色素は、実は細かく砕かれて体内のリンパ流に乗って深部組織に沈着しています。


 色素が発癌物質を含んでいれば、タトゥーを施された人は、終生発癌リスクが高まります。そういった生体の仕組みを理解せずに、色素の成分は何なのかも知らず、ただ、キャンバスに絵を描くような軽い気持ちで他人の肌にインクを入れる、それが「芸術」だろうか?倫理的な疑問を感じないのか?
 
他の新聞記事には「医師免許ではなく、彫り師をライセンス制度で管理してはどうか」という提案もありました。仮にそのようなライセンスを作るとしても、あくまで、タトゥーの合併症や除去の困難さを熟知した医師の指示のもと、そういったリスクを考慮しても本当にタトゥーを入れたいのか?に関するインフォームドコンセントをしっかりと取ったうえでの「医行為」として位置付けるべきです。
医行為ではない、独立したタトゥーのライセンスによって、何が解決するのでしょうか?単に彫り師の存在を正当化するだけで、私たち医師がこれまで経験してきたタトゥーの悲劇、後始末はむしろ増えるに違いありません。若者がより気軽にタトゥーを入れるようになるでしょう。
誤解して欲しくないのですが、医師に管理をまかせることで、医師に上納金をよこせと言っているのではありません。医行為とすることで、医師に責任を負わせろ、と言っています。独立したタトゥーのライセンスは、単なる免罪符であって、責任の所在を不明確にします。

以下は、来年度から開始する予定の、医師・看護師を対象とした「医療アートメイク検定」の試験問題草案の一部です。あまり、一般の方を不安がらせるのも良くないと考えて、伏せていましたが、これまで無資格者に委ねられていたタトゥーやアートメイクで、具体的にどんな問題が生じていたのかを垣間見ることが出来ると思うので、一部公開します。
極論と言われるかもしれませんが、タトゥーを彫るというのは原発を造るのに似ています。造るよりも廃炉のほうがはるかに費用も労力もかかるし、リスクもあるという意味でです。

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問 次の文章の正誤を判定しなさい。
「黒色色素の主成分として広く使用されているカーボンブラックは炭素(C)であるので、発がん性はない」

×
(解説)
カーボンブラックの工業的製造法には、ファーネス法、アセチレン法などがあるが、炭素原子は様々なストラクチャーで結合しており、粒子径も様々である。またその表面には-OHや-CO,-COOHなどの側鎖を有する。多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons:PAHsベンゼン環を2個以上持つ化合物の総称)も混在しており、これは強い発がん性を有する。ドイツではPAHの代表的な18物質について日常生活品における含有量の規制があり、色素がカーボンブラックを含有する場合には、この規制が一つの目安となるだろう。

 
問 次の文章の正誤を判定しなさい。
「アメリカ製のアートメイク色素を購入した。新品未開封であるので無菌である。」

×
(解説)アメリカ合衆国で販売流通しているタトゥー用の色素の微生物汚染を調べたところ、85検体中42件で細菌・真菌の汚染が認められたという報告がある。そのうち34件では人体に有害な病原菌を検出した(J Appl Microbiol. 2018 May;124(5):1294-1302)。


問 アートメイクの前処置として高濃度の局所麻酔薬を外用したところ、数分後に患者の頸部に蕁麻疹様の発赤が現れて、患者は「少し呼吸が苦しい」と訴えた。脈は速く、血圧を測定したところ,100/60で心拍数は120であった。準備すべき薬剤はどれか?

a アトロピン1㎎ b 生理食塩水50ml c βブロッカー吸入剤 d アドレナリン1㎎ e ケナコルト筋注用40mg


(解説)局所麻酔薬によるアナフィラキシーショックは死亡事故につながる。特効薬はアドレナリン1㎎筋注であるが、安価な薬剤であるにも関わらず、他に用途がないため、外来で常備されていないクリニックも多いので、勤務先を各自チェックしておいたほうがよい。多くの場合は、麻酔薬を拭き取って様子をみることで回復するが、意識障害やチアノーゼなどショックの兆候を認めた場合には救急車を呼ぶよりも先にまずアドレナリンを注射すべきである。


問 次のうち、アートメイクの針で眼球を突いたことにより、強膜炎を起こしていることを示す画像はどれか?

A
(解説)いわゆる白目の部分は表層から結膜・強膜・脈絡膜・網膜の4層構造を取っており、強膜はその名の如く固い繊維製の組織で、網膜を保護している。アイラインのアートメイクを行う場合の針刺し事故の医学報告には、強膜に達して強膜炎を起こしたというもの(A)や、強膜に色素が入って外傷性刺青となってしまった(A,C)というものがある。結膜レベルの針刺し事故はおそらくもっとも多いが、医学報告されるほどの重篤感が無いものと考えられる。強膜炎を起こすと、受傷部位を超えて広く充血・血管拡張がおきる。強膜を超えて網膜まで達した針刺し事故の報告は無いが、もし貫通した場合には、その部から網膜剥離が広がり、また眼内炎を起こしてくるので、失明の危険が高い。
Cはいわゆる黒目の部分の針刺し事故によって、角膜を貫通した症例で、ブドウ膜炎を起こしており、前房蓄膿を認める。報告には患者はこのあと緑内障発作を繰り返したとあり、ブドウ膜炎による隅角閉塞が原因であろう。黒目部分には強膜が無いため、白目部分より針は穿通しやすいと考えられる。患者はおそらく何かの理由で針を注視してしまったと考えられる。
Dはレーシック後のDLK(層間角膜炎)と言われる合併症で、円形のフラップを起こした部分に炎症が見られ、アートメイクとの関連を疑っている論文がある。

 
問 次の文章の正誤を判定しなさい。
「アートメイクをした部位に一致して、施術4か月を経過したのちに痒みをともなう腫れが生じてきた。施術後4か月も経っているのだから、色素によるアレルギーは疑いにくい」

×
(解説)アートメイク色素は生体内に長く残存し、マクロファージなどの抗原提示細胞に晒されるので、施術後長期間経てから感作が成立してアレルギー反応を生じてくることは稀ではない(例:J Dermatol. 1991 Jun;18(6):352-5)。また、色素は生体内で代謝され酵素反応によって異なる物質へとされるため、もともとの色素でパッチテストしても陰性のことも多い。なおかつ、化粧品と異なり、洗浄してアレルゲンを除去することが出来ないので、化粧品のアレルギーと異なり、肉芽腫様、偽性リンパ腫様といった難治性で独特な臨床像に発展することもある。

問 アートメイク施術後痒みと腫れが続いており、色素に対するアレルギーが疑われている。以下の対処法のうち、全身性のアレルギーを発症するリスクのあるものはどれか?
a ステロイド外用
b ステロイド(ケナコルトA筋注用の生理食塩水4倍希釈)の局所注射
c Qスイッチレーザー
d フラクショナルレーザー
e 外科的切除

c
(解説)治療の第一選択はaである。アートメイクはタトゥーと異なり、色素の層が比較的浅いので、炎症とともに自然にアレルゲンである色素が排出されて症状が治まることも多い。それまで対症的にステロイド外用や抗ヒスタミン剤の内服を行う。ただし、ステロイド外用剤を長期連用すると特に眼瞼では酒さ様皮膚炎をおこしやすい。また眼圧が上昇することもあるので眼科との連携が望ましい。肉芽腫様でステロイド外用に反応しない場合にステロイド局注が奏功したとの報告もある。Qスイッチレーザーはアレルギーがない場合には色素除去に有用であり、アレルギーが疑われた症例でも安全に除去できたという報告もあるが、血管周囲の細胞内に取り込まれていた色素を細胞外に放出しリンパ流に乗せてしまうため、色素がアレルゲンである場合に全身性のアレルギー反応(紅斑やアナフィラキシー症状)をきたすことがある。フラクショナルレーザーは皮膚に小孔を開けることによって、真皮から体外への色素放出を促すので、アレルギーが疑われる場合のレーザー治療としては無難と言える。外科的切除は整容的に許される場合には選択肢の一つである。


問 眉のアートメイク施術を受けて一か月後から下図のように黄色の角化を伴う丘疹や扁平な隆起をきたしてきた。誤っている記述はどれか?

a 鑑別診断として色素に対するアレルギー、異物反応、サルコイドーシス、非定型抗酸菌感染症があげられる
b 色素によるパッチテストが陰性であればアレルギーは否定できる
c 組織片の培養で非定型抗酸菌が検出されれば確定診断となる
d 病理組織像が非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫であってもサルコイドーシスと確定診断は出来ない
e サルコイドーシスの患者であっても、患者がアートメイクの再施術を強く希望した場合には、絶対的禁忌ではない。

b
(解説)aはその通りで、臨床像からは様々な病態が考えられ得る。bアートメイク色素は生体内で代謝されたり、蛋白質と結合してハプテンとしてアレルゲンと働いたりするので、色素そのものでパッチテストしても陰性のことが多い。c培養で非定型抗酸菌が検出されれば確定診断となる。dサルコイドーシスの診断方法には病理診断群と臨床診断群とがあり、病理診断群の要件として非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫は必須であるが、同時に「既知の原因の肉芽腫および局所サルコイド反応を除外できているもの」を満たす必要がある(日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会、サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き)。非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫は非定型抗酸菌症など他の疾患でも認めることがあるからである。局所サルコイド反応との鑑別は、皮膚の他部位の皮疹や、両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、血中ACE・ sIL-2R上昇、眼や心臓などの他臓器病変があればサルコイドーシス、無ければ局所サルコイド反応と考えればよい。dサルコイドーシス患者にアートメイクをすると必ず病変を生じるというわけではないので、十分なリスクを説明したうえで患者が希望した場合には施術は可能である(Am J Clin Dermatol. 2018 Apr;19(2):167-180)。しかし現実問題としてはなるべく施術を控えたほうが無難ではあろう。


問 下図はタトゥーに合併した非定型抗酸菌症(Non-tuberculous mycobacteria : NTM)の臨床写真である。非定型抗酸菌症についての記述として誤っているものはどれか?
a 感染経路として施術時に使用された未滅菌のインクや水が考えられる
b 痒みや痛みを伴うことがある
c 培養で検出されなければ否定的である
d 施術後1~4週間後からの丘疹や膿疱で始まることが多い
e 病理組織所見は毛嚢炎や肉芽腫様で非特異的であり診断の決め手にはならない

c
(解説)非定型抗酸菌は生活環境に広く存在し、ときに保存された水中で繁殖して皮膚への感染源となる。自覚症状は痒みや痛みを伴うこともあれば無症状のこともある。病理組織所見は非特異的であり、組織片を抗酸菌培養することで確定診断できるが、陽性率は40~50%であり、検体採取を繰り返してはじめて検出できることもある。他覚症状は丘疹や膿疱、結節、潰瘍、プラーク(扁平な隆起)などである(Dermatol Online J. 2014 Jun 15;20(6),BMJ Case Rep. 2018 Jan 12;2018,問題文中の画像はJ Cutan Pathol. 2012 Dec;39(12):1110-8から)

(2018/11/15記)

続きがあります→その3

タトゥー彫り師に独立したライセンスを与えてはならない(その1)

  
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タトゥー彫り師が医師法違反の罪に問われた裁判の判決に関する声明

タトゥー(入れ墨)を彫ることを業としていた彫り師が医師法違反で逮捕された裁判で、大阪高裁は一審の有罪判決を破棄し、無罪を言い渡しました。果たしてこれで良いのでしょうか?
彫り師側は、医師免許の取得には長い時間と多額の費用がかかることや、憲法が保障する職業選択の自由や、タトゥー施術を自己表現の芸術活動とする被告の表現の自由を侵害することなどを根拠として訴えていました。私は医師の観点から、大きな問題が見過ごされていると感じます。それは、タトゥーを施されたが、後悔して消したいという考えに至る人の多さです。彫り師は墨を入れることは出来ても消すことは出来ません。完全に消すことは出来ないし、多額の費用がかかるという事実も客に伝えません。
世界的には、タトゥーに対する国の姿勢は二つに分かれます。一つは米国に代表される個人責任主義で、タトゥーは各州の簡単な免許のもと、無資格者が自由に施術できます。日本の厚生労働省にあたるFDAも色素などタトゥー用品の安全性には一切関知しません。問題が生じたときにのみ対応します。
もう一つは韓国のように、タトゥーを医療行為として、医師の管理下に置くという方式です。医師の管理下と言っても、医師がタトゥーを施術するわけではありません。医師の指示のもと、看護師資格を有する者が合法的に施術します。
日本の厚労省は、後者を選びました。私は、この厚労省の判断は賢明と考えます。そして、これまでタトゥーやアートメイクといった侵襲的な行為に、合併症の対処や色素の除去といった後手の対応に回っていた自らを恥じて、積極的に希望者に施術もしていこうという有志が集まり医療アートメイク学会が発足しました。
いかなる芸術活動であっても、それが人体への非可逆的で元に戻すことのできない侵襲を加える行為である以上は、医療有資格者の管理下に置かれるべきです。もしも表現の自由を謳うのであれば、ボディペインティングなどの、洗い流せば落ちる行為にとどめるべきでしょう。
繰り返しますが、私たち医師はタトゥーやアートメイクの色素によるアレルギーなどの合併症に苦しむ患者たちを数多く診てきています。そしてそれは体内に注入した異物であるがゆえに、化粧品かぶれのように簡単には治癒しません。また色素の除去には、複数回の痛みを伴うレーザー治療が必要で、費用は通常数十万円から数百万円かかります。かつ、完全に消すことは出来ません。
今回の大阪高裁判決に対し、国は当然最高裁へ上告すると考えられますが、私は、国側を全面的に支持いたします。
将来的に、タトゥーの彫り師がその特殊性から、看護師とは異なる独自の免許制となったとしても、タトゥーが医療行為であるという点は譲れません。合併症や消すことの困難さを熟知した医師の管理下におかれるべきです。

平成30年11月14日
鶴舞公園クリニック院長 
医療アートメイク学会理事
深谷元継

【参考】以下は韓国の事情を記した
http://news.kmib.co.kr/article/view.asp?arcid=0012343995
をGoogleで自動翻訳したものです。

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タトゥー施術、違法ですか? (2018-05-13)
眉毛の入れ墨、レタリング、伴侶タトゥーなどタトゥー人口が100万人ものと推定されるが、肝心のタトゥー施術は違法です。 「タトゥーがなぜ違法ですか?」というイ・サンミンさんの依頼が受理されて取材しました。
タトゥー施術は、医療法27条で禁止されている「無免許医療行為」に該当します。 針を用いて皮膚を打つのは厳然と医療行為なのに、医師の資格もなく、医療行為をしてはいけないというのです。 ため、医療関係者ではなく、タトゥーイストの入れ墨施術は、現行法上違法です。 医師の資格を取った人の中、医療関係者の資格を持つ合法タトゥーイストが10人ほどあったりですよ。 皮膚科医がタトゥー除去手術などをして関心を持つようになっている場合がほとんどだね。
他の国では事情が少し異なります。 全世界をひっくるめて、非医療関係者の入れ墨施術が違法である国は、韓国と日本だけです。 残りの国は、一定の要件を満たしていればタトゥー施術を行うことができます。 米国、英国、オーストラリアなどは、タトゥーイスト免許制を施行しており、衛生教育を必須的に実施してのです。
韓国も非医療関係者のタトゥー施術を可能にしてくれという要求は継続ました。 韓国のファッションタトゥー協会と株式会社アートメイク協会などは昨年12月、憲法裁判所に入れ墨を合法化してほしいという集団憲法訴願請求書を出しました。 タトゥー合法化関連憲法訴願は、1988年以来、5回目だが、初めて個人ではなく集団で請求したものです。 タトゥー人口が徐々に増えているが、無条件の違法処理は不当だという理由だった。 「すでにタトゥーが普及された日陰で行われれば、より危険である」「消費者は、正当なタトゥーを受ける権利がある」「タトゥーイストの職業の自由を保障してほしい」などの声を出しました。
しかし、まだ韓国医療界は、入れ墨合法化を快く思わない。 感染などのウイルス性疾患を引き起こす危険性が高いということでしょう。 実際にオーストラリアで女性が眉毛の入れ墨手術を受けた後、ウイルスに感染した事例もありました。
非医療関係者のタトゥー施術規制、みなさんはどう思いますか?
取材代行小王毅
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続きがあります。→こちら

スプリットタンを真面目に考えてみた


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は12月1日(土曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年7月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

 
そばかすをレーザーで取りに来た若い女性が、スプリットタン(舌を割って二股にする)にした方でした。お話があんまり興味深かったので、ちょっと披露します。
まずは動画ご覧ください(画像の下のURLをクリック)。


左右は別々に動かせるそうです。味覚や知覚も正常で、滑舌もよく、ふつうに話しているだけだと、スプリットタンにしていること気が付きません。


「なぜそんなことを?」と誰もが思うでしょうが、身体改造趣味というか願望ゆえだそうです。しかし、実際にスプリットタンの方とお会いして思ったのですが、タトゥーと違い、一見まったく判りません。就職にも不利にならないだろうし、温泉にも入れます。
また、これは彼女としては想定外だったのですが、スプリットタンにしてから男性に口説かれることが多くなったそうです。私は最初ちょっと意味が判らなかったのですが、あからさまな目的のようで、彼女としては、そういうのに応じるつもりは無いが、言い寄られて悪い気はしないそうです。彼氏には喜ばれるとのこと。
案外、身体改造願望が強い人が欲求を満たすには、賢い選択肢なのかもしれません。少なくともタトゥーよりは絶対メリット多いと思いました。

彼女のスプリットタンは、舌小帯の一部が切れ残っていて、少し引っ張られるので、出来ればこれを切ってほしいとのことでした。それくらいはお安い御用ですから、局所麻酔下で切ってあげました。


ついでに、少しスプリットタンを深くしてほしいと言われたので、乗りかかった船ですから、これも施術しました。
もともとは、彼女は非医師の知り合いに切ってもらったそうです。それでネットで検索して調べてみたのですが、スプリットタンの施術を行っているクリニックはほとんどありません。皆さん自力、あるいは非医師による施術でされているようです。
大きな合併症やトラブルの報告もないようですから、なんとかなっているようではありますが、どうせするならクリニックでしたほうが麻酔もしっかり出来て痛くないでしょう。
少し興味が沸いたし、実際に彼女の施術をしてみて実に簡単だということも判ったので、どうしてもスプリットタンにしたい、という強い願望のある方に限って、当面の間、施術を引き受けます。他に施術するクリニックが増えてきたら、止めようと考えています。クリニックが見つからずに困っている方へのボランティア的な気持ちからです。

価格は3万円+税、施術時間は15分ほどです。お昼休みに特別枠を設けて施術しますので、TEL 052-264-0212までご予約ください。
(2018/10/27記)

鶴舞公園クリニックと、アートメイク関連の学会・団体との関係


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は11月1日(木曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年6分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

10月28日に、第三回医療アートメイク学会が開催されます。


アートメイクは本邦では医療行為とされ、2016-7年頃に無資格者による摘発が相次ぎました。それに伴い、アートメイク施術に取り組む医療機関も増えて、2018年現在では医師や看護師、あるいはメーカー主導による協会・学会などが育ちつつあります。
アートメイクをしたいという患者さんまたはお客さんはもとより、これからアートメイクを取り入れたいという医療機関や医師・看護師の皆さんにも解りやすいように、以下に私の立場から整理してみました。ご参考になさってください。

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<女性医師によるアートメイクの会>
鶴舞公園クリニックでは、分院の女医さんたちが2016年に「女性医師によるアートメイクの会」を立ち上げました。それまで無資格者によってなされていたアートメイクを医師の目から見直し、施術を再構築するための勉強会です。もっとも現在は下記の医療アートメイク学会も出来たことだし、ホームページを残して休眠状態です。

<医療アートメイク学会>
翌2018年、東京皮膚科形成外科の池田先生が発起人となって、医療アートメイク学会が設立されました。この学会の最大の目的は、厚労省と密な連携をとって、アートメイク医療の現場を正しく導いていこうというものです。将来的に公益法人化を目指しています。

私も四人の設立時理事に加わりました。下の写真左から実業家で片山さつき参院議員の夫の片山龍太郎氏、東京皮膚科形成外科の池田欣生先生、東海大学形成外科准教授の河野太郎先生、そして私です。


<日本メディカルタトゥー協会>
さて、医療行為というのは、基本的に医師が行うのが原則です。アートメイクも然りで、医師自らが施術するのが正道なのですが、医療行為には「相対的医行為」といって医師の指示のもとに看護師などによる施術が認められているものもあります。2018年時点では、まだ明文化された通達等は無いのですが、看護師による相対的医行為としてのアートメイク施術は認められているようです。厚労省に電話で確認しました。
これに伴い、看護師を対象にアートメイクを技術指導して、派遣先のクリニックをも開拓・斡旋する団体が現れました(日本メディカルタトゥー協会)。
鶴舞公園クリニックは、すでに「女性医師によるアートメイクの会」を擁していますが、日本メディカルタトゥー協会と連携することにしました。それは、
(1)日本メディカルタトゥー協会の本部が名古屋にある、
(2)医師よりも看護師のほうが圧倒的に数が多く、マーケットの需要に応えやすい、
(3)アートメイクに造詣の深い医師との連携が日本メディカルタトゥー協会に必要である、
からです。
そのため、鶴舞公園クリニックスタジオでは、アートメイクは女性医師が施術し、近いうちに開院する4番目の分院、鶴舞公園クリニックアイダージュでは、日本メディカルタトゥー協会所属の看護師が施術する、という二つの方式を併用することにしました。

<BioTouch>
このほかにアートメイク関連の団体としては、BioTouchという海外のアートメイク機材・色素などの輸入代理店があり、独自にアートメイク施術の講習会も行っています。
鶴舞公園クリニックとしては、針やマシンなどの単純な機材はともかく、海外製の色素については、メーカーがどんな謳い文句を掲げようが、疑ってかかったほうがいいと考えていますので、相容れない部分もありますが、現時点ではお互い協力して、日本におけるアートメイクを健全に育成していくべき段階と考えています。

さて、そうはいっても、日本メディカルタトゥー協会やBioTouchに対して、医師として、現時点において私から注文があります。以下にそれを記します。

<日本メディカルタトゥー協会への注文>
下の写真は日本メディカルタトゥー協会所属の看護師さんが施術した眉のアートメイクです。古いアートメイク(下方)を肌色色素で消して、その上方に新しいデザインでアートメイクしています。
デザインなど、技術的には、ご覧のように問題ない、きれいな出来栄えなのですが、彼女たちは、無資格者たちが施術していた技術を踏襲して施術しているため、古いアートメイクをレーザーで消すという発想がない、あるいは、そういう機械や技術を持っていないクリニックと提携してアートメイク施術を行うことがあります。そのため、このように肌色で隠してしまうようです。

肌色色素には「パラドキシカル・ダークニング」という問題があります。アートメイクとしては成功であっても、いやしくも医療行為である以上は、将来的なことを見据えた施術がされなければなりません。ここを肝に銘じていただきたいです。
パラドキシカル・ダークニングの例、上まぶたからこめかみにかけて、しみを隠すために肌色アートメイクをしていた上から、しみ取りレーザーを当てたところ、かえって黒変してしまった。(Dermatol Surg. 2015 Sep;41(9):1091-3より)

日ごろ、医師のお手伝いのような業務をこなしている看護師にとって、デザインから施術までを完結できるアートメイクという仕事は魅力的でしょう。やりがいを持つことは結構なことなのですが、日本で「アートメイクは医療行為である」とされたことの重みを感じてください。そして、ただクリニックの軒先を借りるのではなくて、アートメイクについて十分な知識を持った医師と連携して仕事をしてください。

<BioTouchへの注文>
2108年9月現在、BiotTouch Japanのホームページ(下図)には「FDA公認の成分」と記されています。

FDAはいかなるアートメイク用色素の安全性も認めていません。ここで「公認」と書かれているのは、体表面につけて拭き取ることのできる化粧品成分としての公認です。
化粧品として認可されているものなら、アートメイク色素としても安全なのではないか?と思ったとしたらあさはかというものです。化粧品はかぶれたら、よく洗い流して除去することが出来ます。しかし皮内に埋め込まれたアートメイク色素は容易には除去できません。長期にわたって炎症が続くことにより、肉芽反応などとんでもない副作用を引き起こすこともあります。
さらに、アートメイク色素は化粧品と違って、皮内で代謝されて、当初とは異なった化学物質に変化します。成分それ自体が安全であっても代謝物に問題があることがあります。皮表につける化粧品とはまったく異なるレベルの慎重さが求められます。

Biotouch Japan社ホームページの「色素に関する情報」には、「弊社の色素顔料は、主に酸化鉄(黒、赤、黄)と二酸化チタン(白)です。これらは化粧品としても一般的に用いられているもので、安全性の高い物質です」とあります。

 素人や、あまり勉強していない医師や看護師なら、これで煙にまけるかもしれませんが、英語版のHPのMSDS(製品安全シート、http://www.biotouch.com/Biotouch/Material-Satety-Data-Sheet)に掲示されている通り、実は、アゾ色素や、由来の不明なカーボンブラックが使用されています。
この子供だましのような安易な安全性強調の姿勢は、無資格者に対して教育や資材供給をしてきた名残りでしょう。
改善方法は簡単です。
「当社はUSA(CA)の企業であるBiotouch社の代理店であり、アメリカ国内法を遵守して製造されたアートメイク色素を輸入販売しています。本邦ではアートメイクはアメリカと異なり医療行為とされておりますので、色素の安全性については本社が提供するMSDS(製品安全性シート)をご参照頂き、各施術クリニックにてご判断いただきますようお願い申し上げます。」
この一文に置き換えたほうがよほど誠実といえます。無理をして誤解を招く表現でホームページを飾れば、かえって信用がなくなります。
Biotouch Japanは、アメリカのアートメイク材料供給会社の、単なる日本代理店です。そしてアメリカではアートメイクは医療行為ではなく、自己責任のもと法的に野放しの状態です。技術指導や針やマシンの輸入販売はともかく、色素や施術の医学的安全性に言及するべきではないし、その必要もありません。そこをよく認識していただきたいものです。

鶴舞公園クリニックの理想は、自らアートメイクを施術できる医師が、看護師と協力して、安全な国産色素で施術を行い、針やマシンなど単純で安全性において問題のなさそうな機材は、Biotouchなどの輸入販売業者の協力でまかなうという形態です。
悪い展開は、海外製品の代理店などが、看護師対象の講習を積極的に行って、アートメイクについて理解も関心も無い医師のクリニックを単に間借りして看護師を派遣し、未熟な施術を行うことです。無資格者が施術していたのとまったく同じ内容の施術がクリニックで行われるようになっただけ、という悪夢のような状況ですが、実のところ現状はこれに近いです。ホームページでアートメイク施術を自院メニューとして派手に掲げている美容クリニックの多くが、現在このような実態にあります。

この現状を是正すべく、鶴舞公園クリニックとしては、
(1) アートメイクの施術に造詣の深い医師を増やし、
(2) 国産色素の普及に努める
ことに力を入れていこうと考えています。(1)に関して、医療アートメイク学会での活動を続けていくとともに、鶴舞公園クリニックとしても、いつでも他院の医師の見学を歓迎します(BiotouchやJMTAが開催する講習会は、無資格者を対象としていた時代の講習内容を基礎にしているので、医師には不要な座学が多いです。医師にとっては実際の施術の見学のほうが参考になるでしょう)。(2)に関して、医師・看護師たちに啓蒙を続けていきます。皆様のご協力ご理解をお願いいたします。
(2018/10/08記)

あごの長い看護学生さんのその後

 
鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は11月1日(木曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年6分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。
 
先日紹介した看護学生さん、ときどき来て、クリニック手伝ってくれてます。
せっかく来てくださってるんで、趣味といったらあれですが、創作意欲を駆り立てる素材なので、ちょっとずつ仕上げてます。原型と直近の顔写真の比較。


鼻下・法令・頬へのヒアルロン酸注入は先回解説した通り(記事は→こちら)ですが、その後どことどこをいじったかわかりますか?間違い探しです(笑)。
 
1) 二重埋没しました。もともと睫毛の長い大きな目ですが、顔下半分を小さく見せるためには、目は大きければ大きいほどいいです。なので、二重をより強調しました。


2) おとがいにボトックスをしっかりと打ちました。ここに気が付いた自分は偉いと思うのですが、この子、おとがいの筋肉がなぜか発達していて、ポパイのように力こぶが盛り上がるのです。この筋肉が、あごが大きく見える要素の一つであることは間違いないので、ボトックスで委縮させてやろうという戦略です。右写真は注射後一週間。早くも力こぶ出来なくなりました。継続的にボトックス打っていれば筋肉委縮して、ひょっとしたら骨も小さくなるかもしれません(咬筋へのボトックス注射で下顎骨が縮小することはデータが出ています)。


3) 顔の傾け方の工夫。この子、睫毛が異常なほど長いことは前に記しましたが、それで多分視界が悪くなるんでしょう、ちょうど眼瞼下垂の方のように、下目使い気味に顎を突き出す癖があります。二重埋没すると、睫毛が少し上向くので見えやすくなるので、この癖が取れます。
 
彼女、昔から、自分はとにかく骨格を直さなければ美人にはなれないと悲観していて、そのために貯金もしてきたそうで、その予定は変えられないので、来年くらいに歯の矯正と骨格の手術をとにかく受けたいそうです。上手な先生にお願いすればさらに綺麗になるでしょうから反対はしませんが、まあ、私がやった程度でも、けっこう良い仕上がりになってるんじゃないかな?
何度も書きますが「あごの長い美人」って結構いますから、骨格いじらなくても美を演出することが不可能ってわけでもないと思うんですけどね。
 
名古屋駅前の分院の内装工事が進んでます。開院は来年になる見込みですが。
追記)院長は以前からときどき鶴舞でお仕事手伝ってくださっていた女医さんです。うちは求人サイトなどでの募集は一切していませんので誤解のないようにお願いいたしますね。今後も分院作るかもしれませんので、一緒に働いてみたいという女医さんいらっしゃったら直接クリニックまでご連絡ください。
(H30.8.29記)

4つめの分院作ります♪


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は9月1日(土曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年4月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

 
今ある鶴舞公園クリニックの3つの分院の案内をまとめてみました(下記URLをクリック)。
http://www.tclinic.jp/3satelites.pdf

目下準備中なのですが、来年二月に名古屋駅前に分院作ります。
なので、来年二月には「鶴舞公園クリニックの4分院」という表題に置き換わる予定です♪

さて、これだけでは記事として寂しいので、小ネタ2本上げておきます。まず外人さんの首の糸リフト(アプトススプリング)。
(術前)
(術直後、しみやほくろを同時に取ってるので、その部分の皮膚が赤くなったり絆創膏貼られてたりします)
(クリックして拡大すると解りやすいです)

脂肪で重そうだし、糸で持ち上がるか自信なかったのですが、けっこう良い仕上がりでした。太っているのではなく、たるみで下がっている場合には、やっぱり引き上げるのは有効みたいですね(太ったあごや首周りは、やっぱりリポレーザーや脂肪吸引だと思います)。

もう一つ。乳輪の色素沈着。上が施術前、下が施術後です。


これは、お客様のほうから「ネットで他のクリニックでやっているようなので施術してほしい」と言われてやってみたのですが、結構きれいになります。勉強になりました。
あまり人に見せるところでもないかもですが、やはり綺麗になれば嬉しいものでしょう。
通常のしみとりと同じ、エンライトン(ピコレーザー)で焼きます。

以上小ネタ2本でした。
(2018/08/05記)

ヒアルロン酸でどこまで美人顔が作れるか?


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18才の看護学生さん。ご縁あって、ときどきクリニックの見学にいらっしゃいます。
「マスクをしていると美人と言われるのでマスクをしていることが多いです」とのこと。


 眼が大きくぱっちりしてるし、とにかくまつげが長い。育毛薬使ってるのではなく天然だそうです。20㎜近いです。

ただ、マスクを外すと、これはご本人も認めていらっしゃるし、了解を得てこうして写真UPして解説もしているのですが、顔下半分がどうもバランスが悪い。「お金を貯めて、将来骨格の手術を受けたい」と言っています。

(写真をクリックして拡大してみるとわかりやすいです)

しかし、何をどうしたらいいのか、非常に難しいケースと思います。あごを短縮する手術というのがあるし、下顎を短縮する(セットバック)手術や、頬骨を削る手術もあります。私は専門ではないですが、それでも一応美容外科医を名乗っていますから、学会などで症例をみて、どんなケースにどんな手術が向いているかくらいは、普通の人よりは解ります。アドバイスしたり、術式さえ決まれば上手そうな先生に紹介することも出来ます。しかしこの子の場合、決め手が思いつかない。

何度も写真を見直すうちに、ひょっとしたら、この子は、骨格の手術ではなく、ヒアルロン酸である程度行けるのではないか?という気がしてきました。
注射のポイントは赤丸の箇所です。とくに重要なのは、鼻柱から人中のあたり。鼻翼よりも鼻柱が貧弱で引っ込んだ感じになって、人中すなわち鼻の下が短い。ここを伸ばすと良いのですが、鼻の下というのは長いのを短縮する外科手術はありますが、伸ばすのはむつかしいです。ヒアルロン酸を繰り返し注射していれば、expander効果で伸びてくるでしょうから、それがいいんじゃないかと考えました。
もう一つは、頬のこけの感じの部分。要は、なんとなく凹んで境界のようになっている個所を左官仕事で平らに直す感じです。


仕上がりがこんな感じ。悪くないと思います。


(写真をクリックして拡大してみるとわかりやすいです)

初見ではたぶん誰もが「あごが長いから短縮すれば?」と考えると思いますが、あごが長い美人って結構います。そうではなくて、ポイントは鼻の下の短さと、頬のこけ(凹凸)にあったのではないか、というのが私の判断です。
 
この子が、お金を貯めて、骨格系の手術を受けたとして、確かに顔は変わるでしょうが、それによって美人度が上がるどうかは微妙だと思います。手術をすればそれなりの傷跡は残りますし、何よりも「骨格の美容整形手術してこの程度ですか・・」というレッテルはやはり嫌でしょう。
ばっちり上手くいくケースがあるのを否定はしませんし、自分が施術メニューに入れていないからといって切る系の大きな手術は何でも反対というわけでもないのですが、ヒアルロン酸などの小技でも、意外といけるケースもありますよということは、覚えておいて良いかと思います。
 
この子の場合、私も確信がなかったので、ヒアルロン酸注射に先立って、生理食塩水注射でシミュレーションしました。クリニックに見学にいらっしゃる関係者(準スタッフ)なので、自分の勉強もかねて行った施術です。お客様でいらっしゃったら、ヒアルロン酸を勧めはしなかったでしょう。何度も彼女の顔を見ているうちに気が付きました。
なので、7か月先の私のクリニックの予約とって初見でカウンセリングして、私が一発でお客様の美人度が上がる最適解を見つける能力があるわけではないです。ここは誤解を招かないよう強調しておきます。しみを取ったり、糸で加齢のたるみを引き上げたりという、単純で間違いのない仕事が私のルーチンです。若返りは単純作業ですが、美容(美人度を上げる)は難しい。今回のケースは、あくまで皆様のご参考までにとご本人の了解のもと提示しました。
(2018/07/15 記)
続きがあります→こちら

鶏肉で糸リフトの実験しました

   
鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は8月1日(水曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年3月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

今日は1日、7か月後の予約受付日です。
朝10時から開始なのですが、9時過ぎから電話が鳴り始め、スタッフは携帯で時刻を確認しながら10時0分ちょうどになるまで待機します。公平第一なので。
今日1日でだいたい300件くらいのお電話をお受けします。1時間ほどで声がかすれてくるので、小さなアメを口に入れながら頑張って、2時間弱で次のスタッフと交替。この日ばかりは受付は5人体制で頑張ります。



しみ取りの枠と、糸など手術の枠があり、しみ取りの枠は初日で埋まりますが、手術の枠は2日目3日目でも日を選ばなければ空いていることが多いです。なので手術御希望でお電話繋がらないと困ってらっしゃる方、2日目の午前中あたりが狙い目ですよ。

さて、PAPARSという形成外科の雑誌があるのですが、そこから糸リフトについての原稿執筆依頼が来ました。糸リフトの経験の無い先生方に、糸でたるみが引き上がる理屈を解りやすく視覚化しようと、鶏の皮と腿肉を買ってきて実験しました。


左)施術前のたるんだ頬のイメージ 中)針を刺したところ 右)糸が通った施術後。赤線は引き上がり具合を解りやすくするための補助線。

どうでしょう、一点に集中していた重力負荷が糸によって周辺に分散される理屈がお解りいただけるでしょうか?
これを踏まえて、実際に口横のバッカルファット付近のたるみの引き上げを解説したのが下図です。最初下顎あたりから皮下を通して針を入れますが、このときの進行方向は、持ち上げたいターゲットである口横あたりに向けてです。針の先端がターゲットに届いたら、これを拾って、次いで針の進行方向を上方へと変えます。この操作がキモであり、針の方向をまったく変えずに、ただ糸をやみくもに皮下に通すだけでは、鶏肉の実験のような引き上げ効果は得られません。


次にコグ(返し)の性状についてです。糸リフトは、糸と組織との固着によって重力の負担を分散させる手技です。下図の左側は、単糸に手間をかけて刻みを入れた当院で使用している糸で、右側は近年出回っている型枠を作って樹脂を流し込んで成型した安価大量生産物です(モールドタイプと呼ばれます)。あなたはどちらの「返し」で魚を釣りますか?


スレッドリフト用の糸というのは、様々な製品が次から次へと現れます。しかし新製品=改良品というわけではありません。糸リフトの原理や仕組みを大して理解もしていない製造者が、コストだけを考えて改悪品を世に出してきているとしか思えないのが近年の現状です。
現場で施術している医師の側の問題も大きいと思います。私は皮膚科出身であり、解剖を熟知した形成外科医に対する敬意は決して忘れませんが、この問題に関してはあえて苦言を述べさせていただきたいと思います。多くの形成外科医が、切って縫い付ける手術ばかりに関心を寄せ、糸リフトについて真剣に考えようとしてこなかったのではないでしょうか?せめて今回のPAPERSの原稿を読んで、真面目に糸リフトに取り組もうと志している方だけにでも、私の思いと経験知が伝わればと願います。

専門的な話になりますが、そもそもSMAS(頬の深部にある筋膜組織)の切除縫縮というのは支持組織を強化する作業では決してありません。切除した皮膚が伸びるようにSMASもまた再びたるみます。むしろ手術の結果損傷を受けたSMASは長期的には伸びて菲薄化するでしょう。そこで脂肪吸引やら、時には顎下腺まで切除するというような「ボリュームを減らす」という戦法をフェイスリフトに併用する医師も現れます。溶けない糸によるたるみ引き上げというのは、外部から支持組織を加えるというプラスの作業であり、例えていうならば大腿筋膜をSMAS部分に移植して補強するようなことです。決して切るフェイスリフト手術と対立するものではなく、むしろこれを補強する手技と認識すべきと考えます。

何となく溶ける糸のほうが安全なような気がするからという理由で患者に溶ける糸を勧めて、効果が無かったと訴える患者に「やはり糸では駄目ですね。費用は高くなりますが切るリフト手術をしましょう」と誘導するためのツールに、糸リフトの施術を貶めて欲しくありません。15年間、糸リフトの施術をメインメニューとして施術を続けている私の心からの願いです。

もう一つ、コイル状の糸(アプトススプリング)についての実験です。コイル状の糸を挿入した後、実際に内部がどのようになっているのかを確認してみました。
下図はコイル状の糸(上)と、これを鶏のささ身に挿入したあとで切り開いたところ(下)です。コイル状の糸を引き延ばした状態で挿入すると、リングとリングの間で肉が挟まれて組織と固着します。コイルは縮んで戻ろうとするので、その性質を利用してたるみの引き上げに利用します。糸全体に伸縮性があるので口横や首など可動部位に向いています。
 

均一にむらなく引き伸ばされているようで安心しました。車のサスペンションの後付けみたいですね。

(2018.7.1記)


ざわちん見に来ませんか?(医療アートメイクの無料講演会@名古屋)


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は7月1日(日曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年2月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

5月9日(水曜日)10時~11時半、ウインク愛知5階小会議室にて、下記のような無料市民講演会を催します。
事前登録不要、入場無料です。
会場は300人収容なんですが、無料市民講演会なので、大々的に宣伝広告する筋合いのものでもないし、クリニックのお客さんにチラシ配布しているですが、正直、どのくらいお客さん来てくれるのかがわかりません。
あまりにガランとしてたら寂しいし、せっかく来てくれるざわちんさんや池田先生に悪いので、お暇だというかた、助けると思ってご来場ください。よろしくお願いいたしますm(_ _)m。
和子先生とあこさんが、モニターさんの施術動画流しながら解説もします。いま頑張って編集中なので、全部で1時間半のことですし、出来れば、ざわちんさん終わったらぞろぞろ帰ってしまうなんてことなく、最後までお付き合い頂ければ、さらに嬉しいです。

【日時】平成30年5月9日(水曜日)、10時-11時30分
【会場】ウインク愛知(愛知県産業労働センター)5F小ホール
【内容】
1 アートメイクを取り巻く現状と、医療アートメイク学会発足の経緯について 池田欣生(東京皮膚科形成外科総院長、医療アートメイク学会理事長)
2 「私、失敗しないんです」-正しい眉のアートメイクデザイン ざわちん
3 安全・安心な医療機関でのアートメイクー実際の施術動画を供覧して解説 河村・小澤(鶴舞公園クリニックスタジオ)
【主催】医療アートメイク学会
【共催】女性医師によるアートメイクの会、日本メディカルタトゥー協会
【協賛】鶴舞公園クリニック
【後援】中日新聞社
(2018/04/25 記)

2018/05/10追記
昨日の講演会の様子が中日新聞に掲載されました。すぐに収穫できる種蒔きではありませんが、実績になっていくと思います。ご来場いただいた皆様有難うございました。



抜去した糸とその組織像


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は5月1日(火曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年12月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

フェイスブックの非公開グループで「美容外科症例わからん会」というものがあります。
美容外科医が知恵を出し合って、互いの疑問を解決しようという集まりで、メンバー数は380人です。
そこに下記のような質問をしてみました。
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当院で一年前に入れた溶けない糸(コイル状、ナイロン)を、凹凸が気になるために抜去して入れ替えたのですが、その際に周囲の脂肪組織が絡まってきた部があったので、病理に出してみました。なかなか見る機会の無いものだと思うのでUPします。


 通常は糸のみ抜けてきて、脂肪は付いてきません。時にこのように脂肪が付着します。視診的に明らかな感染などの炎症症状は一年を通してありませんでした。
ピンク色の均質な丸がナイロン糸の断面です。
 真ん中あたりの糸周囲に繊維化が強く起きていて、この癒着が強くて脂肪がくっついてきたのだと思います(拡大1)。


 癒着の少ない糸周囲にも弱いながら繊維化生じていることがわかります(拡大2)。

脂肪が付いてきてはいますが、溶けない糸の場合、このようにしっかり抜けるため、抜いてしまえば凹凸は治ります。脂肪付着しているからと言って、線状の陥凹になるなんてことはありません。
 溶けない糸はこのように、面倒ではありますが抜去は可能ですが、溶ける糸は、そもそも抜けないし、溶ける糸といえど異物であり、一年以上残る場合には周囲にこのような繊維化生じるでしょうから、凹凸きたした場合には修正しにくいのではないかと想像します。
それで質問です。溶ける糸で、一年以上たって、凹凸残存している例ってみたことありますか?
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数日待ってみたのですが、「いいね」は貰えるものの、コメントはつきません。そこで少し挑発的に下記のように付け加えてみました。

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コメント付かないですね・・
1) 凹凸が一年以上継続している例がある←溶けない糸と異なり抜けないから修正困難ではないか?
2) 凹凸が継続する例が無い←周辺に生じたわずかな繊維化だけでは支持力が足らないことの証明ではないか?
と反論して、溶ける糸の欺瞞を叩いてやろうという目論見だったんですが(笑)。
冗談は置いておいて、どなたか溶ける糸派の方で反論ございませんか?
学会などでもしつこく強調していますが、埋没二重が溶ける糸で出来ないのとまったく同じ理屈で、溶ける糸によるたるみ引き上げは意味が無いというのが、昔から変わらぬ私の持論です。
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しばらくするとお二人からコメントが付きました。

===(コメント1)===
〇大のAです。
深谷先生、ご報告ありがとうございます。
同じような症例何例もありますので、ヒアルロン酸でも、吸収糸でもなんでも、同様のことが生じうると考えております。
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私の返信です。

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ありがとうございます。ヒアルロン酸は半年から一年で吸収されると言いながらも、数年たっても残ってるように見える方日常的に診ます。同じ理屈だと、溶ける糸も、周囲繊維化した状態で残存するのではないかと考えます。もちろん細かく千切れて張力は無くなっているでしょうが。

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もう一人の先生。

===(コメント2)===
深谷先生、ご報告ありがとうございます。
〇美容外科のBと申します。
若輩者の美容外科医で大変恐縮でございますが、せっかくの機会ですのでコメントさせて頂きます。
まず、溶ける糸で「凹凸が一年以上継続している例があるかどうか」についてです。
私の溶ける糸のスレッドリフトの730症例程度の経験上で私の知る範囲ではありません。
(症例数が多くなくて申し訳ございません。数千症例以上の先生のコメントが欲しいところです。)
ただ、糸の刺入部付近のヨレが長期的に残ってしまっている症例は見たことがあります。
そのため、テクニカルエラーによっては溶ける糸でも凹凸・ヨレが長期的に残るリスクはあるのかなと思っております。
次に「周辺に生じたわずかな繊維化だけでは支持力が足らないことの証明」ということに関してですが、基本的に私も同意見です。
深谷先生のおっしゃる通りで溶ける糸では長期的には大きな支持力はないと考えています。
ただ、大きな支持力はないものの溶ける糸でもそこそこの支持力はあると思っています。
というのも、溶ける糸のスレッドリフトをしている患者さんはたるみが少なく見た目も実年齢より若い方が多いからです。
(特に繰り返して受けている方です。私の730症例程度の経験上です。数千症例以上の先生のコメントが欲しいところです。)
ちなみに、
Suh DH et al:Outcomes of polydioxanone knotless thread lifting for facial rejuvenation.
Dermatol Surg. 2015 Jun;41(6):720-5.
という文献ではスレッドリフトの施術を受けた方を2年間以上後ろ向きに調査しています。
<結果として>
・満足した人の割合は87%。
・肌質改善に関しては、もっとも良い”excellent,”が13人、良い”good,”が9名という格付け評価であった。(31人中)
・リフトアップ効果に関しては、もっとも良い”excellent,”が11人、良い”good,”が6名という格付け評価であった。(31人中)
であり、以下のように結論づけられていました。
「Facial rejuvenation using PDO thread is a safe and effective procedure associated with only minor complications when performed on patients with modest face sagging, fine wrinkles, and marked facial pores.」
「スレッドリフト(材質はPDO)を使用した顔の若返りは、軽度の顔のたるみ、小じわ、毛穴が目立つ患者において合併症も少なく安全かつ有効な施術である。」
そのため、溶ける糸のスレッドリフトは溶けない糸と比較して効果は劣っているかもしれませんが、730症例の私の経験上も患者満足度が高いですし有用な施術の一つであると思っております。
長々とコメント失礼致しました。
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私の返信です。

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B先生、ありがとうございます。
730例で凹凸一年以上続くケース思い浮かばないということは、無いのでしょうね。
解釈については、先生もお認めになっている通りと思います。
患者満足度については、組織学的に微細な繊維化が残る以上は、重力にあらがってたるみを引き上げる効果はなくても、張りを出すというか、ちょうどサーマクールを当てるような効果はありそうです。
B先生のようにまともな考えで、溶ける糸を施術しておられる方には、何も物申す気持ちはないのですが、中には「溶けない糸は危険で溶ける糸のほうが優れている」ような発信をなさる方がいるので、溶けない糸派の私としては困ります。患者が不安がって、なだめるのが大変ですから迷惑です。
私のほうが年長ですし(58才です)、もとより症例数を競う積もりはないですが、一応ご参考までに、私の溶けない糸の経験値はだいたい延べ5千例くらいで入れた糸総数は3万本くらいです。10年以上の観察例も多く、最近「溶けない糸の長期効果」として論文にまとめました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29180885
溶ける糸で満足度の高い成果をあげているB先生なら、溶けない糸を施術すればもっと患者に感謝されると考えます。最初は凹凸の修正など大変かもしれませんが、時間をかければなんとか抜けるものですよ。ぜひ溶けない糸にも挑戦してみて下さい。
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追伸が来ました。

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深谷先生御返信誠にありがとうございます。
少なくとも溶ける糸のスレッドリフトのテクニカルエラーで凹凸が長期的に残ってしまうことは稀ですがあります。
(私が知っている範囲ですと
・脂肪吸引+溶ける糸のスレッドリフトの組み合わせの症例で凹凸が長期的に残ったケース
・糸の刺入部付近の凹凸・ヨレが長期的に残ったケース)
また、私の経験でもスレッドリフト後の凹凸をヒアルロン酸注入で修正したケースが数例あり長期的に残るかもなと思ったこともございます。
なお、おそらく皮膚・皮下組織が薄い人に浅いレイヤーで糸を挿入したら溶ける糸でも長期的に凹凸は残りそうな気がします。
そのため、私も深谷先生の意見にほぼ同意なんですが
「溶ける糸で凹凸が1年以上続くケースが無い」と言い切るのはベストな表現ではないかと思います。
また、
Savoia A et al:Outcomes in thread lift for facial rejuvenation: a study performed with happy lift™ revitalizing.
Dermatol Ther (Heidelb). 2014 Jun;4(1):103-14. doi: 10.1007/s13555-014-0041-6. Epub 2014 Jan 17.
という別の文献でも
・スレッドリフトの施術を受けた方を2年間以上調査されていて
【結果】
・満足した人の割合は89%。
・左右非対称となったのは6%であったが、簡単に修正された。
・合併症の頻度は少ないが、以下のようなものが認められた。
→腫れ、内出血、赤み、少量の出血 、一時的な感覚障害。
【結論】
「Thread lift with “Happy Lift™ Revitalizing” is a safe procedure associated with minor complications, when performed on cohorts of patients requiring a facial lifting of modest degree.」
「スレッドリフト(種類はハッピーリフト)による若返りは、中程度の顔のリフトアップが必要とされる患者さんにおいて、合併症も少なく安全な施術である。」
などとポジティブに書かれています。
また、私の経験上で1年に1回溶ける糸のスレッドリフトをしている患者さんの症例写真を見比べてみて、1年前よりもたるみ減っているなと感じることもあります。
そのため、深谷先生のおっしゃることに概ね同意はしていますが、
・溶ける糸のスレッドリフトはたるみ改善効果がない。
・患者満足度の高さは組織学的な繊維化でサーマクールを当てる効果だけによるもの。
と言い切れるほどシンプルなテーマではないような気はします。
ありがとうございます。
やはり、深谷先生の経験値は卓越されていますね。
もちろん溶けない糸の方がたるみ改善効果が高いということは理解しております。
ただ、現状ですと溶けない糸のスレッドリフトは技術的に私は自信がないのでチャレンジできないです・・・。
論文・文献の方も誠にありがとうございます。
勉強させて頂きます。
長々とコメント失礼致しました。

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私の返信です。

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ご丁寧な追伸ありがとうございます。
すると、B先生ご自身の経験においては、一年以上凹凸が残った症例の記憶はないが、他院での施術(?)の修正の経験からは、凹凸が残る場合もあるかもしれない、という印象ということですね。
B先生が丁寧に施術していて、凹凸が目立ちにくいのかもしれませんね。
他院の症例は、一年後も目立つということは、直後は相当な凹凸で、初心者に近い先生が施術したのかもしれませんね。
それなら、「単なる張りではなくて、若干はたるみ効果が残るような気がする」というB先生の印象にも合致します。なるほど。
ところで、先生が挙げられた2論文は、実は私も読みました。
スレッドリフトに関する英語論文は、先生もご承知のように、数えるほどしかありません。
なおかつ、患者満足度を尺度として評価しているものばかりです。
ここが私は不満です。なぜなら、患者満足度は、効果のみならず、価格やスタッフの対応まで含めた複合的な結果であって、たるみ評価の尺度ではないからです。
なおかつ、長期効果の場合には、患者の実年齢自体が増加していくと言う面も考えなければなりません。
それで私は自分の論文では、評価尺度に工夫をこらしました。よい方法だと思うので、またお時間あるときにご一読ください。
私と同じ方法でB先生の手持ちの症例で解析して、両者を比較できるといちばんいいのですけどね。
お互い、溶ける糸と溶けない糸、片方しかやっていないですから、相手側のことは推測しかできません。
今回は、貴重なお時間費やして、私の挑発的で失礼な質問に丁寧にお答えくださいましてまことに有難うございました。
気が向いたら遊びに来てください。先生のようにまともな意見交換出来る方は好きなので歓迎します。

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いかがでしたでしょうか?若干専門的な議論ではありますが、一般の方が読んでもわからない話ではないし、むしろ有意義な情報だろうと考えて、こちらに紹介しました。
B先生のコメントにありますように、溶ける糸にもそれなりの効果というか満足度はあるようですから、私も決して全面否定するつもりはありません。もし溶ける糸の施術を選ばれるならば、B先生のような効果も限界も承知した方にやってもらうと良いですよ。
(2018/03/02 記)

外部から何かを足さなければ補強したことにはならない。第131回日本美容外科学会(JSAPS)報告・その2


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は3月1日(木曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年10月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。
 
その1は→こちら

右はMarten先生、真ん中は宇津木先生(クリニック宇津木流)です。


宇津木先生とは、今回の学会事前の摺り合わせで、メールでかなり突っ込んだディスカッションをさせて頂きました。その内容が、面白かったんで、かいつまんでご報告です。
宇津木先生曰く、

「SMASの固定や力源の支持力は耳前部から咬筋の前縁までで終わっています。それより前(口側)は、SMASの支持力はありません。しかし、本当に支持が必要なのは、咬筋前縁より前のまさに支持力のない部分です。そこを別の組織または糸のようなもので補強する必要があるのです。」


SMASというのは、頬のたるみを支持する筋膜です。図のように広がっており、これを上方に引き上げ、短縮することでたるみを改善しようというのが「切るリフト」の考え方です。
宇津木先生は、SMASの引き上げで改善するのは、咬筋の前縁まで、すなわち図の紫色のエリアよりももう少し狭い範囲で、口横のたるみなどには影響が及ばない、と考えています。
宇津木先生は、切るフェイスリフト手術の際には、大腿から腱膜を採取し、SMASの及ばない部位に縫合して、引っ張り上げるという補強をされるそうです。
これって、糸リフトの考え方に似ています。
腱膜を移植しないただのSMAS短縮(引き上げ)手術というのは、支持組織を加えていません。引き上げてはいるのですが、補強は行っていないです。
だから、脂肪吸引などであごや首の重みを取るなどの操作を加えない限り、戻りも起きやすい。
引っ張ることでSMAS自体も薄くなるでしょう。
糸リフトと腱膜移植は、外部から補強材料を持ってきて、将来的なたるみの進行を食い止めようという点で発想が似ています。
宇津木先生は、スレッドリフトの手技を御自身の施術に応用したいようで、

「腱膜移植は、糸を使う概念、原理と同じだと思います。 実は、糸を勉強したいと思ったのは、糸の代わりに腱膜を使えばかなり効果的な手術ができると確信しているからです。」

とのことです。

切る手術をしてたるみを引き上げたとしても、外部から何かを足さなければ補強したことにはならない

この点で、宇津木先生と私の考えには共通項があると思いました。

Marten先生とツーショット。


ヴェリテの福田先生が私の発表に好感を持ってくださって一緒に写真を撮って送ってくれました。福田先生とは10年ぶりくらいです(私が学会にあまり顔を出さないからです)。福田先生が名大形成の医局長だった頃に、医局会の末席に加えていただいて勉強しました。懐かしい。


4人で写真。たまにはこういうのいいですね。私は名古屋でクリニックに引きこもってるので、気が付くと一か月くらい女性としか話してなかったりします。



せっかく東京に来たので、マンダリンオリエンタルに泊まりました。朝6時過ぎ、夜明け前の部屋からの景色です。このあと帰っていつも通りの仕事に戻りました。同じような日々の繰り返しですが、その中に平和と安心があります。大切にしたいと思います。

(平成30年1月16日記)

溶ける糸は溶けない糸よりリスク・デメリットが多い。第131回日本美容外科学会(JSAPS)報告・その1

 
鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は2月1日(木曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年9月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

第131回日本美容外科学会(JSAPS)の、「フェイスリフトとスレッドリフト」のパネルで、15分間の口演をしてきました。せっかく作ったパワポなので、ここにUPしておきます。前半はこれまで書いてきたことのまとめですが、後半の、溶ける糸と溶けない糸の比較などは、目から鱗の方も多いんじゃないでしょうか。

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私は最近、「溶けない糸によるたるみ引き上げの長期効果」という論文を書きました。受付で別冊を配布しておりますので、ぜひご一読ください。
 
 
まず最初に、私のスレッドリフトの施術の動画をご覧ください。約三分です。
第一に、コイル状の糸による施術です。コイルのリングの間で組織が挟まれて糸が固定します。糸は、後付けの靭帯のように、生涯支え続けます。
 
第二に、エックストーシスです。これは私独自のデザインです。針は私が発明しました。針にヘッドが付いていないので、進行方向に引き抜くことが出来ます。
二本目の糸は、最初の糸と交差するように挿入します。二本の糸の4つの端を引っ張って、こめかみ辺りの組織を引き締めます。
  
三番目に、アプトスです。針を進める途中で、方向が上向きに変化する点にご注目ください。糸は水平方向に引っ張りますが、口横のたるみは上方向に引きあがります。
 
  
患者と方法。
再来患者のうち、過去にスレッドリフトの施術を受けた者を、連続して100人ピックアップして、解析対象としました。
 

正面および斜めからの写真を撮って、目より下の中顔面下顔面のみが見えるように切り取ったものを用意しました。


100人の患者の、スレッドリフト前後の写真を、6人の女性にランダムに見せて、年齢当てをしてもらいました。
6人の数字の平均を「見かけ年齢、アペアラントエイジ」と定義します。

  
患者の実年齢と見かけ年齢の差を、「若さ値、ユースバリュー」と定義します。そして二つの若さ値の差を、「若返り効果 ジュビネーションエフェクト」と定義します。


 例えば、この女性は、初診時、実年齢30才、見かけ年齢31才でした。
スレッドリフトの施術を受け、34才のときに再来しました。見かけ年齢は28才でした。
彼女の「若さ値、ユースバリュー」は、30-31=-1才から、34-28=6才になり、若返り効果、レジュビネーションエフェクトは、6-(-1)=7才です。
 

これは100名の患者のスレッドリフト前の実年齢と見かけ年齢のプロットです。
回帰直線が、Y=Xにほぼ一致するので、6人の女性による年齢当ては、かなり信頼できます。


これはスレッドリフト施術後の、実年齢と見かけ年齢のプロットです。
見かけ年齢が明らかに低いです。スレッドリフトの効果を表しています。


最後にスレッドリフトを受けてからの時間と、若返り効果との関係です。50人の患者は最後にスレッドリフトを受けてから1年未満で、あと50人は1年以上経過していました。
これは、一年未満の患者のプロットです。月数がたつにつれ、若返り効果が減弱しています。
 

一方、最後にスレッドリフトを受けてから1年以上経った50人の、経過年数と若返り効果とのプロットがこちらです。
回帰直線は右上がりであり、年数が経つにつれて、若返り効果が上昇しています。
これはとても興味深いことです。私は、スレッドリフトの効果には、短期と長期とがあり、施術後数ヶ月は短期的効果が減弱していきますが、一年以上たつと、実年齢に比べて見かけ年齢が若くなるという、長期効果が見込まれるのだと考えます。


溶けない糸を入れるというのは、組織の中に、靭帯を後付けするようなものです。たるみの進行はゆるやかになります。
図に示したように、スレッドリフトの施術のあとは、実年齢と見かけ年齢とが、年数とともに乖離し、若さ値(ユースバリュー)が大きくなるのだと私は考えます。
溶けない糸によるスレッドリフトの施術のあと、たるみはいったん引きあがりますが、数ヶ月で戻っていきます。しかし、それは無駄ということではなく、一年以上の長期でみたときに、たるみの予防効果があると考えられます。


さて、最近では溶ける糸によるスレッドリフトを施術する先生が多いです。その理由に、溶ける糸のほうが安全という考えがあるようです。本当でしょうか?
 

溶ける糸も溶けない糸も同じ異物ですから、感染は起こり得ます。溶ける糸のほうが感染症を起こしにくいなどということは理論的にありえません。なおかつ、感染を起こした場合は、溶けない糸のほうが除去しやすいです。溶ける糸を抜こうとすると、もろくなっているので途中で千切れてしまうからです。


 注) 動画です。生々しいので苦手な人は見ないほうがいいです。同業の医師などで、どうやって抜くのか参考にしたい方のみご覧ください。
昔から繰り返し言ってるんですが、糸って言うのは、入れ方よりも抜くほうが難しいのだから、まず抜き方を、鶏肉などを使って練習したほうがいいです。抜き方を知らない医者に業者が「溶ける糸なら後のこと考えなくていいですよ」と売り込んだ結果が現状です。それを、糸抜くどころか入れた経験も無い形成外科医が論評するから話がややこしくなる。

実際に私が溶けない糸で施術した後、感染を起こした例で、糸を抜いている様子を示します。
最初に局所麻酔をします。感染を起こして瘻孔を形成しているので、麻酔薬が漏れてきます。
鉗子で糸をつかみ、手でマッサージしながら、注意深く糸を組織から外します。
糸が抜ければ、瘻孔は数日で閉鎖します。溶ける糸で自然に吸収されるのを待つと、数ヶ月かかります。
注) PLA(ポリ乳酸)などの2年くらいかけて溶けていく糸を推奨する医者もいますが、感染したときには抜くこともできずに2年待たなければなりません。炎症が長引けば、瘢痕や変形もきたします。そもそも2年で溶けるっていうのは、2年で急に消えるわけじゃなくて、もっと早い時期に千切れ始めて糸としての強度は無くなってます。解ってるはずなんですが、なんで溶ける糸にこだわるんだろう?たぶん直観と言うよりはただの思い込みです。


この女性は、溶ける糸を頬に入れた後、異物感と発赤・硬結が数ヶ月続いています。溶ける糸というのは、吸収の過程で低分子になりますから、アレルギーを引き起こす可能性があります。
 

これが結論です。感染しやすさは変わりません。溶けない糸のほうが抜きやすいです。溶ける糸にはアレルギーを起こす可能性があります。溶けない糸では長期効果が期待できます。


最後に、私は外科的フェイスリフトとスレッドリフトというのは、決して競合するものでは無く、相互補完の関係にあるということをお伝えしたいと思います。たるみの少ない方には、長期的な予防効果が期待できるスレッドリフトが望ましいし、しっかりとたるんでしまっている場合には、外科的に引き上げると良いです。以上です。ありがとうございました。

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(平成30年1月15日記)