アートメイクにレーザーを照射した際の黒色化(darkening)について


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は8月1日(火曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年3月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。
 
タトゥーを除去する目的でレーザーを照射すると、ときに予想外の黒色化をきたすことがあります。除去しようとしたのに、かえって色が濃くなってしまうので、患者さんはびっくりします。
繰り返しレーザーを照射していけば、反転して薄くなっていきます。
 
Bae YS et al. Successful treatment of paradoxical darkening. Lasers Surg Med. 2016 Jul;48(5):471-3.から引用。赤い花弁が黒色化しているのがわかります。繰り返し照射することで消えています)
 
どうしてこういうことが起きるかというと、色素として用いられている酸化第二鉄(Fe2O3)などの酸化金属が、レーザーのエネルギーで還元されて黒色になるためです(→こちらに解りやすい実験がのっています)。



タトゥーの施術では、赤や黄、緑、青といったきれいな色にグラディエ―ションを付けてデザイン性を高める目的で、白色色素(酸化チタンTiO2や酸化亜鉛ZnO)を混ぜることがあります。すると後日、これをレーザーで除去しようとすると真っ黒になってしまいます。
眉やアイラインでも同様のことは起こります。

下図は実際に私が経験した例です。お顔全体のしみ取りを希望して来院された方で、眉の上にも一個しみがあったので、Qスイッチレーザーを照射したところ、その部が黒色化しました。昔やったアートメイクが残っていて、その色素と反応したためと考えられます。


上図はレーザー照射直後です。黒色化は直後にわかります。下図は一週間後です(拡大像)。痂疲が取れたあとにも黒色化は残っています。

最初に引用した文献のようなタトゥーの黒色化の場合は、タトゥーそのものを除去するのが目的ですから、繰り返しQスイッチレーザーの照射を繰り返せばよいですが、こういった場合は、アートメイクを消すことが目的ではないですし、色素が入っている範囲は小さく浅いので、私は小さなほくろを除去する要領でCO2レーザーで削り取っています。

擦り傷が治るように、だいたい2~3週間で痕を残さず治癒します。
 
さて上の例ですが、残存していた赤色色素(酸化第二鉄でしょう)の黒色化にしては、ちょっと黒くなりすぎです。
おそらく酸化チタンなどの白色色素を混ぜた色素であったと私は推測します。
実際に酸化亜鉛ZnO、酸化チタンTiO2、酸化第二鉄Fe2O3、およびこれらを混合したものを作製して、波長・パルス幅・フルエンスを変えて、レーザーを照射してみました。


白色色素をアートメイク色素に混ぜる目的は、クリーミーで上品な色合いを出すためです。海外から個人輸入されて使われているアートメイク色素には、仕上がりの綺麗さを演出するため、白色色素が混ぜてあるものが多いです。
 
私が現在販売しているアートメイク色素(→こちら)は、後日レーザー照射をして除去したい場合の黒色化が嫌なので、白色色素は加えていません。私が現在販売しているアートメイク色素の「赤茶」に、白色色素を加えていくと、下図のような色調になります。クリーミーで明るい、若い人好みの色合いになります。

右端に一か所づつレーザーをスポット照射してあります。白色色素を加えると、どうしてもレーザー照射後の黒色化が目立ちます。白色色素を加えない、カーボンブラックと酸化第二鉄だけで調色した色素(「赤茶」)でも、酸化第二鉄が入ってますから黒色化は起こりますが、白色色素が添加された場合よりは目立ちません。
 
しかし、仕上がりの色合いの好みを考えると、白色色素、とくに酸化チタンTiO2を加えたものも用意したほうがよいのかもしれないという気が最近してきました。それは施術する女医さんたちの要望によります。「これまで使っていた輸入色素のような明るい若い人向きの茶色は出来ないの?」と聞かれるからです。


白色色素で調色したい場合は、近日、上図のようなものを用意しますので、これを既存の黒―茶―赤の5色のラインに混合して、お好みの色合いにしてください。ただし、「後日レーザーで除去したくなったときには、一過性に黒色化することと、多くの回数のレーザー照射が必要となります」といったインフォームドコンセントを必ず取ってくださいね(色素にインフォームドコンセントのひな形の用紙を添付しておきます)。

白色色素は、ご要望にお応えして、近日販売サイトにUPする予定です。しかし、茶―赤系色素は、皮膚科医としてアレルギーなどのリスクを考えると、酸化第二鉄Fe2O3抜きには作成しかねるのですが、白色色素というのは非金属で何か適当なものがあるかもしれません(まだ十分に調べ終えていません)。より安全な白色色素が用意出来たら置き換えますので、なんとか、酸化チタン、酸化亜鉛を使用しない現在の色素で、対応して頂ければ幸いです。


安全性の高い国産の色素の普及キャンペーンとして用意したバナーです。先生方のHPなどに貼付してご活用ください。色素の販売サイトは→こちら  
 (2017/07/22 記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継