糸での引き上げの長期効果について その2


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は4月1日(土曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の11月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。
 
先回(→こちら)の続きです。
昨年12月から、再来院された方々のカルテを振り返って、過去に糸を入れた方を総数100名になるまでピックアップして調査しました。
ちなみにこのような研究手法は「後ろ向き研究(retrospective study)」といいます。「前向き研究」というのは、例えば糸を入れた方100名全員のその後を追跡調査するという方法です。しかし、美容クリニックから追跡調査の連絡などして欲しくない、という方は多いでしょう。だから再来院された方について調査しました。
しかし、一定期間内に再来院された方全員について調べていますから、結果が良かった症例のみを恣意的にピックアップするよりは、真実に近いはずです。
正面と斜めの2枚の写真の目から上の部分を切り取り(目周りの印象で頬のたるみの印象が薄れるのを防ぐため)、40~60才台のスタッフ6名に年齢当てをしてもらいました。100人について、初診時の写真と最近の写真とで行っているので、合計1200回の年齢当てをしたことになります。スタッフ6名の平均を取って「見た目年齢(apparent age)」と定義します。
また、「若さ値(youth value)」=実年齢(real age)―見た目年齢、「若返り効果(rejuvenation effect)」=「最近の写真の若さ値」-「初診時の写真の若さ値」と定義しておきます。
以前掲載した下の写真の方の場合、初診時(上段)の実年齢は30才で見た目年齢が31才、最近(下段)が実年齢34才で見た目年齢29才でしたから、若さ値は初診時が30-31=-1才で最近が34-29=5才、この間の若返り効果は5-(-1)=6才となります。


100名全員の初診時の実年齢(X軸)と見た目年齢(Y軸)とをプロットしたものが下図です。赤は回帰直線といって、プロット全体の近似直線です。回帰直線がY=Xにほぼ重なるので、スタッフによる年齢当ては結構当たっていることが判ります。

次に、最近の写真の評価です。回帰直線はY=Xに比べて明らかに下がっています。この分が糸での引き上げによる効果と考えられます。


「スタッフが判定してるのだから、恣意的に若く見積もってるのじゃないか?」と疑う人もいるかもしれません。スタッフに年齢当てしてもらうときには、どちらが初診時でどちらが最近の写真かは完全にマスクされています。だから恣意は入りようがありません。

さて、ここからが本題です。「最近の写真」といっても、最後に糸を入れてからの年月にはばらつきがあります。そこで、最後に糸を入れてからの月数(一年未満の場合)または年数(一年以上の場合)をX軸、若返り効果をY軸にプロットしてみました(糸を入れてから2か月未満の方は、初期の戻りを考えると真の効果とは言えないため、最初から100名の中に入れていません)。


かなり興味深い結果でした。糸を入れてから一年までは、若返り効果はゆっくりと減少していきますが、一年を超えると上昇に転じます。
糸での引き上げには、短期効果と長期効果と二つあるということのようです。長期効果はどうして現れるのでしょうか?私は先回解説したように、糸を入れた時点から、実年齢と見た目年齢との乖離が始まり、年を追うごとに下図のように乖離が広がっていくためと推測します。

 
この理屈で行くと、糸でのたるみ予防というのは、若ければ若いほどよい、たぶん20才台くらいで入れ始めると良いんじゃないかと思います。
 
糸の施術の回数、総本数と若返り効果とのプロットは下図です。本数多いほど、回数多いほど若返り効果がはっきりしています。回数や本数が少ない場合には、さほど若返り効果がないか、あるいは逆に老けて見えてしまう(若返り効果がマイナス値)という場合もあるようです。
もっとも、ここの解釈は難しいところで、一回糸を入れてみたけどさほど効果を感じなかった方は、リピートしてこの施術を受けようとは思わないでしょう。手術回数や本数の多い方は、単に効果が出やすい方であったという可能性もあります。

100名の中に、初診から3年以上たってから糸を入れたという方が5名いました。初診時はしみ取りが希望だったけど、数年経って糸もしたくなっていらっしゃったといった方です。1)初診時と、2)最初の糸の施術直前、3)最近、の三回の若返り値をグラフにしたものが下図です。
糸を入れる前と後では、若さ値がはっきり違いますね。ブログへの掲載に御協力いただけた方の実際の写真も示します。

上段:初診時、中段:最初の糸リフト手術(初診から6年後)直前、下段:最近(最後に糸を入れてから3年)

また、100名の中には、過去一年以内に法令線にヒアルロン酸注射をした人が24名いました。その方々の若返り効果は平均6.4才で、残り76名の平均は5.2才でした。ヒアルロン酸注射による若返り効果は6.4-5.2=1.2才くらいということです。また、過去にリポレーザーで口横やあごの脂肪を焼いて引き締めた方は24人で若返り効果の平均は7.0才、残り76人の平均は5.0才でした。しみ取りをしたことがある人は48名で若返り効果は6.0才、残り52名では5.0才でした。したがってこれら施術による若返り効果は1才から2才くらいで、残り5才くらいが糸での効果と考えられます。
昔から経験的に言われていた「糸を入れると5才くらい若返る」という話に一致します。
 
合併症ですが、大きな内出血は7件、感染症(糸の交差部や端が赤く腫れて膿む)が3件、糸端の突出や触知のクレームが24件ありました。100人の施術総数は289回、挿入した糸の総本数は1689本なので、内出血の率は手術回数に対して2.4%、糸本数に対して0.41%、感染症は手術回数に対して1.0%、糸本数に対して0.17%、糸端のトラブルは手術回数に対して8.3%、糸本数に対して1.4%でした。
こうして振り返ると、糸端のトラブルが結構多いんですね。
内出血は経過観察で3週間程度で後遺症なく自然治癒します。感染症の場合は糸を抜去しますが、私が使っている糸は作りがしっかりしているので除去は容易です。意外と、溶ける糸が感染すると、抜こうとしてももろく千切れてしまうんで大変なんだそうです(実際に施術していた先生からお聞きしました)。また「スプリングスレッド」も感染を起こすと抜けなくて大変なことがあるようです。途中で千切れてしまってその先の部分の腫れが残っている方の相談を受けたことがあります。
糸端のトラブルは、直径1-2mmの穴をCO2レーザーで開けて、糸端探って切り取って対処します。感染症・糸端のトラブルとも、あとに小さな瘢痕は残しますが、すごく気になるものではないようです。多くの方は追加で糸を入れにいらっしゃるので。

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5月の美容外科学会(JSAS)のシンポジウムのプログラムが公開されました。

 
この10年ほど学会参加してなかったうちに、どうもあちこちに「我こそは糸の専門家」と豪語する若い先生方が出てきたようです。いったい誰が本物なのか、雌雄を決してやろうと今から気合を入れてます。
ここ見てる美容系の女医さんで、まだ溶けない糸入ってない人、一日も早く入れておいたほうがいいと思いますよ。今までは経験的・直観的なものでしたが、今回の調査で確信しました。
 (2017/03/23 記)

糸での引き上げの長期効果について (付:糸端がひっかっかったときの外しかた)


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は4月1日(土曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年11月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

今年5月の日本美容外科学会(JSAS)で糸での引き上げ(スレッドリフト)のシンポジストを引き受けることにしました。
実は学会にはもう10年くらい行ってないです。いくつか理由があるのですが、10年ほど前に「もう、ここから先は、学会で情報を仕入れるのではなくて自分で切り開くしかないな」と感じたのが最大の理由です。
10年経って、なぜ学会で報告しようと思い立ったかというと、最近美容外科の先生たちも世代交代してきたようで、そういった先生たちの中には、私のやっていること、やってきたことを知らない方々もいるようなので、この辺りで一度インパクト与えて存在感示しておいたほうが、いろいろ都合がよさそうだ、と考えたからです。
どういう風に都合がよいかというと、うちのクリニック、遠方からのお客さんも多いです。術後の経過で心配があるときに、近所のクリニックにセカンドオピニオン的に相談にいくこともあるかもしれません。そういった際に、担当医の先生が私が糸での引き上げについて真面目に取り組んでいる経験豊富な医師だということを知っていれば、対応も良くなるでしょう。お客さんの安心につながります。
 
さて、話が変わりますが、「How old do I look?」というサイトがあります(→こちら)。
顔写真をuploadすると、年齢を言い当ててくれるもので、顔認証の技術の応用だそうです。
お顔のたるみというのは、なかなか数値化しにくいです。いきおい、学会でも、症例写真をせいぜい数例提示するのが関の山で、そうすると何とか理解を得ようと、良い経過の写真を使ってしまいます。客観的な情報提供になりません。
そこで、このHow Old Robotを使って、顔年齢を出して術前後を数値化して比較したらどうだろうか?と考えました。

頬のたるみを数値化する方法としては、以前、「数名のひとに写真を見せて、年齢を推測してもらい、その平均値を計算する」という方法を、ここに書きました(→こちら)。
この方法は手間がかかるので、How Old Robotで代用できれば、ずいぶん簡単です。
そこで、クリニックを受診した60人くらいの方の初診時の写真(正面と斜めの2枚を並べて目から上を切り取ったもの)を、まずはスタッフ6名に順に見せて、年齢当てをやってもらいました。6名の評価の平均と実年齢とをグラフにした結果が下図です。

相関係数というのは、散布している点が、どのくらいY=X(斜めの直線)に近いかを示すもので、1に近いほど良いです。
一方How Old Robotに同じ写真を判定させると、下図のようになりました。ただし、How Old Robotは目の部分を切り取ると、顔と認識しなくなるので、目を含んだ全顔です。


相関係数は0.74なので、数名のひとが判定して平均を取ったほうが、より正確なようです。
また、このHow Old Robot、40代~60代の人を若く判定してしまう傾向があるみたいですね。
ちなみに私の顔写真を判定させたら「30才」と出してきました(実年齢は57才)。

商用というか、遊びのツールなので、わざと実際より若く出るようになっているのかもしれません・・。

なので、手間はかかりますが、数名の人で判定する方式のほうが、正確なようです。将来的にはHow Old Robotも進化するかもしれませんが、今のところは。
 
下は、あるお客様の、初診時と、スレッドリフト後に再診された際の最近の写真です。



この写真を、うちの6人のスタッフたちに判定させたところ、上の初診時の写真を「実年齢-6.3才」と判定しました。一方、下の最近の写真のほうは、「実年齢-9.5才」と判定しました。ということは、この方は、この間に9.5-6.3=3.2才若返ったことになります。
 
さて、最初にグラフで示した60名の方は、いずれも、当院で過去に糸を入れた方です。学会に備えて、再診にいらっしゃったお客様で過去にうちで糸を入れたことのある方を順番に100人評価する予定で、その途中経過です。
60名の方の、最近の写真をスタッフ6名に評価させた結果は下図です。


一番最初のグラフに比べると、全体的に下にシフトしています。これが、スレッドリフトによる若返り効果と言えます。
なお、術後の評価において、実年齢よりも見た目年齢のほうが高い方もいます。しかし、これは即「糸が効果が無かった」ということにはなりません。なぜなら、術前は見た目年齢が実年齢に比べてさらに老けていたかもしれないからです。
例えば、実年齢が40才のときに見た目年齢が45才の方がいたとします。その方がスレッドリフトを受けて、その後43才のときに再来し、見た目年齢が44才であれば、(43-44)-(40-45)=4才若返ったと言えます。
逆も言えます。すなわち、40才のときに見た目年齢が35才だった方がスレッドリフトを受けて、その後43才のときに再来し、見た目年齢が40 才であれば、(43-40)-(40-35)=-2才ですから、再来時に実年齢よりも若く見えていても、糸が有効であったと考えるべきではありません。
下は、そのような観点から、解析した結果です。60人のうち、最後に糸を入れてから1年以上経っている方たちだけをグラフにプロットしました。全体的に右上がりです。

これはどういうことかというと、「溶けない糸を入れておくと見た目年齢は年を取りにくくなる。それは実年齢が進むほど顕著となる」ということです。

私は、これまで、「溶けない糸を入れておくと、だいたい5才若返ります。それは10年経っても同じことです」と説明してきたのですが、実際には、「「溶けない糸を入れておくと、だいたい5才若返ります。10年後には糸を入れないより8才くらい若返ってます。」という説明のほうが正しいのかもしれません。
これは、実はそれほど意外な話でもないです。下図のように説明できます。

スレッドリフトによって、頬のたるみの進行が妨げられれば、実年齢が進むほど、見た目年齢との差は大きくなります。
  
以上、60例ほどデータ入力したので、息抜きに解析してみました。100例入力したら、糸の本数や施術回数などとの関係も調べてみます。結果が楽しみです。

スタッフに写真見てもらって見た目年齢評価しているところ。100人×2回(術前後)×6人の数値を出すので、けっこう大変です。だけど、興味深い(^^)。

さて、話は最初に戻って、当院では遠方からのお客様も多いのですが、そういうお客様に一番気を遣うのは、術後のトラブルです。交通費も時間も大変ですから。
よくあるトラブルに、「凹みが出来ている」というものがあります。そのまま放置で目立たなくなることも多いですが、糸端がひっかかっているだけのことが多いので、下のような手技で直せます。自分でもできますので、まずはトライしてみてください。もちろん当院までお越しいただければ、すぐに直します。
スレッドリフトの経験の多い医師にとっては、当たり前の手技なのですが、経験のない医師だと、難しいことを言われて不安になるかもしれません。セカンドオピニオンというのも善し悪しです。

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(H27/3/1記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継