国産のアートメイク色素を作ります・その4

鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は3月1日(水曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年10月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

その1・その2は→こちら、その3は→こちら

先々回、アメリカでは、アートメイクを含むタトゥーは医療行為ではなく州が発行した免許のもとになされており、色素には成分開示の義務もなく安全性の保障はない、といったことを記しました。
アメリカ以外の国ではどうなのでしょうか?ネット上で調べてみました。
 
まず、お隣の韓国ですが、アートメイクは日本と同じく医療行為とされているようです。クリニック以外での施術は違法のようです。
インクについてですが、
====
2016年10月には、2013年1月~2016年6月までの3年半の間に77件の副作用等の事例が消費者障害監視システム(CISS)に報告されていたタトゥーインキに絞った市場調査結果も公表されています。25製品中12製品で基準値を超過するカドミウム、ヒ素、鉛、亜鉛、銅、ニッケルなどの含有制限物質が検出され、自主回収が命じられました。さらに表示基準については調査した全製品で、韓国語の表記がない等の不備が指摘されました。
http://j-net21.smrj.go.jp/well/reach/column/161111.html
====
とあります。「全製品で、韓国語の表記がない」ということは、日本同様、国産のインクは存在せず、海外からの輸入に頼っているということなのでしょう。
 
ここに日本と同様の病理構造が浮き上がります。アートメイクやタトゥーを医療行為と位置づければ、インクは医療用となりますから、国産の製品は作りにくく、海外から輸入せざるを得ません。その輸入元は、タトゥーを医療行為とみなしていない国ですから、インクに対する管理も甘く、有害物質を含んでいることがあります。皮肉な話です。
 
次にヨーロッパです。ドイツでは、「タトゥーに関する規制は、ソーセージ販売の規制よりも少ない」と嘆かれているようです。
http://www.dw.com/en/german-minister-pushes-for-stricter-rules-in-the-tattoo-industry/a-19365412
アメリカと同じく、ヨーロッパのほとんどの国で、アートメイクやタトゥーは医療行為ではなく、免許・許可制のようです。インクについての規制もほとんどありません。
 
調べていて、たまたま見つけたのですが、ヨーロッパには「Rapid Alert System for dangerous non-food products」という仕組みがあるようです。
http://ec.europa.eu/consumers/consumers_safety/safety_products/rapex/alerts/repository/content/pages/rapex/index_en.htm
食料品以外の様々な商品の安全性を調査して、有害と認められたら、そのデータを共有する目的で、毎週RAPEX Reportとして公表されます。タトゥーインクについてのまとめがありました。
http://www.blcleathertech.com/blog/toxic-tattoo-inks/2013/02/12/
2013年には、ドイツに輸入されたアメリカ製のインクから発がん性のある多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbon、PAH)が検出され、公表の結果、自主的な回収がなされたそうです。
このシステムには、ヨーロッパの31か国が参加しているそうです。日本も近隣の韓国などとこういった有益なシステムを構築して情報共有しあうといいと思うんですけどね。
とにかく、国産の成分のはっきりしたインクができるまでは、こういった情報収集に努めて、自己防衛していく姿勢が大切でしょう。
 
オーストラリアでも、アメリカ・ヨーロッパと同じく、タトゥーは医療行為ではなく、免許制です。インクの成分についても、同様に問題となっており、政府機関(National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme (NICNAS))が調べたところ、調査した49の頻用されているインクの5分の1以上で多環芳香族炭化水素が検出されたそうです。
http://www.abc.net.au/news/2016-09-09/one-in-five-tattoo-inks-in-aus-contain-carcinogenic-chemicals/7831410
 
結局、世界中、どこでもアートメイクやタトゥーのインクの安全性は問題となっているんですね。社会の盲点というか、誰も真剣に手をつけようとしなかった問題のようです。
完全に成分開示した、安全性の高いアートメイク色素作製の取り組みっていうのは、ひょっとしたら世界初かもしれません。
 
ところで、今回、ネットで調べていて気が付いたことがあります。それは、タトゥーが可能となる年齢の問題です。
世界的には、18歳以上とされている国や州が多く、次に「16才以上であれば保護者の同意があれば可」です。アメリカの一部の州など14才からのところもありますが。
 
日本ではどうなっているかというと、18才未満は禁止されているのですが、それは青少年健全育成条例によるようです。
しかし、実際には、16才でタトゥーを入れて、20才過ぎて後悔している、あるいは就職にあたって除去したいという相談を受けることは、美容外科の現場では珍しくないです。
タトゥーを彫ること自体が、医師法に反していて違法だという問題もありますが、それ以前に、18才未満にタトゥーを彫った人を、もっと厳しく摘発してもいいと思います。18才未満とセックスして条例違反で摘発される人は、よくニュースで見かけますが、それよりも罪が深いと思います。
(2017/01/26 記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継

(追記)
1月27日の日経夕刊に、医療アートメイク学会の記事が掲載されました。いよいよです。

国産のアートメイク色素を作ります・その3



その1・その2は→こちら

先回Infininkの記事で、「微粒子化したインクは消える」と書きました。インクの粒子が細かくなると、なぜ消えるのでしょうか?また、インクの粒子のサイズによって消える消えないがあるなら、たとえば黒色インクの主成分であるカーボンには、いろいろなサイズのものがありますから、ふるいにかけて粒子径を揃えておけば、消えやすいインクと消えにくいインクができるかもしれません。今回は、そのことについての考察です。

まず、粒子径が大きいと消えにくく、小さいと消えやすいというのは本当か?について調べてみました。タトゥーについての研究論文というのは少ないのですが、興味深い論文が一点ありました。
FSNPという蛍光色素を付けた様々な直径の粒子をマウスの皮膚にタトゥーをしたときに、皮膚からその蛍光の強さが消えていく様子をグラフ化したものです。皮膚がんの所属リンパ節を探るツールの研究のようです。


Cross-Linked Fluorescent Supramolecular Nanoparticles as Finite Tattoo Pigments with Controllable Intradermal Retention Times.(ACS Nano. 2016 Dec 20. doi: 10.1021/acsnano.6b06200.)

1456nmから240nmまでの6段階の粒子で検討されています。やはり粒子径の大きいFSNPのほうが皮膚から消失するのは遅いようです。
しかし、タトゥーの色素は、上のマウスの実験のFSNPのように数十日で消えてしまうなんてことはありません。実際のタトゥー色素と、FSNPとの違いは何でしょうか?タトゥー色素の直径は1456nmよりもさらに大きいということなのでしょうか?タトゥーした皮膚を電子顕微鏡で観察した報告を探してみました。
 
下は、タトゥーをした直後、真皮のコラーゲンの間に存在する色素です。縞模様の紐のようなものがコラーゲンで、濃い点々が色素です。色素粒子の直径は0.01~0.1μm、すなわち10~100nmくらいです。
 Light and electron microscopic analysis of tattoos treated by Q-switched ruby laser.  J Invest Dermatol. 1991 Jul;97(1):131-6.

マウスの実験のFSNP粒子よりも小さいです。FSNP粒子は、数十日で皮膚から消失してしまうのに、なぜタトゥーのインクは長期間留まるのでしょうか?

下は、タトゥー施術後13日め、貪食細胞であるマクロファージに取り込まれたタトゥー色素です。粒子が凝集し、1μm径に達するものもあります。タトゥー色素はマクロファージや繊維芽細胞に取り込まれて凝集し、マクロファージや繊維芽細が皮膚に留まることによって、定着するようです。


 FSNPとタトゥー色素の消えやすさの違いは、これらの細胞に貪食されるかどうかが関係していそうです。また、粒子の比重(重さ)も関係するのかもしれません。
タトゥー色素は金属が多く、比重が大きいでしょう。重いものを貪食したマクロファージは、動きが悪くなって、リンパ管や血管まで遊走して、壁をくぐってリンパ節や肝臓まで辿り着けず、皮膚に留まるのかもしれません。
もしそうであるなら、同じ物質なら直径が大きいほど消えにくく、異なる物質なら比重が大きいほど消えにくい、ということになります。

次に「レーザーによってタトゥーの色が消える」メカニズムについて調べてみました。
レーザーの光エネルギーは、いったん色素に吸収されたあと、熱(photothermal effect)または物質の構造を変える力(photomechanical effectまたはphotoacoustic effect)となって放出されます。後者の結果、色素は細かく砕かれて、直径がより小さな粒子となります。小さくなった色素はマクロファージで処理されやすくなります。
しかし、上の、タトゥーを施した直後の電顕写真を見る限り、そもそもタトゥーの色素は元々から細かいです。
ここでもまた、色素がマクロファージや繊維芽細胞に取り込まれた形で、皮膚に存在するということが関係していそうです。
光エネルギーを吸収した色素は瞬間的に1000℃以上になるようです。パルス幅が短いQスイッチレーザーでは周辺に熱影響を及ぼしにくいですが、それでも多少は伝わるのでしょう、細胞内の水分は気化して急激に体積が増し、空胞が生じます。
Light and electron microscopic analysis of tattoos treated by Q-switched ruby laser. J Invest Dermatol. 1991 Jul;97(1):131-6.
 
空胞が生じないまでも、細胞膜が破れたりして、色素を貪食していた細胞はダメージを受けます。上図の空胞化は、photothermal effectの結果、下図の微小構造の破壊は、photoacoustic effectの結果とも言えます。


これら、破壊された細胞は、何らかのサイトカインを放出して、新たなマクロファージを呼び寄せるでしょう。多くのマクロファージがあつまって分担してダメージを受けた細胞を貪食し、かつ、色素自体の粒子径も小さくなっていることから、色素はリンパ管や血管内まで運ばれて処理されていくということだと考えられます。
 
最近、ピコレーザーという、パルス幅がナノレーザーよりもさらに短いQスイッチレーザーが、タトゥー除去に優れていると評判ですが、ピコレーザーとナノレーザーの違いは、ピコレーザーのほうがエネルギーを熱ではなく破砕力に変換する率が高いということのようです。おそらくですが、ピコレーザー施術直後のほうが、ナノレーザー施術直後よりも、空胞は少ないのではないかと思います。
 
レーザーの照射を受けた色素自体はどうなっているかというと、下図のように、粒子が細かくなると同時に、電顕上、色調が薄くなっており、しわのような(ラメラ構造といいます)ものが出てきています。粒子は細かくなると同時に、構造上の変化も起こしていそうです。色素によっては、構造の変化が色の変化(退色)をもたらすこともあるのかもしれません。


さて、以上の知見を踏まえて、アートメイク色素(カーボン)の粒子径はどのくらいが最適かというと、結局よくわかりません。
粒子がある程度大きいほうが消えにくいのではないか?という仮説のもとに調べてみたのですが、実際には10nm径くらいのちいさなものでも、貪食されさえすれば、定着しそうです。
むしろ、色素の定着のためには、マクロファージの数と、色素の絶対量との比が大切なようです。色素が少ないと、貪食したマクロファージは軽快に遊走して、色素を処理して皮膚から去っていくでしょう。しっかりと高密度に入れたほうが定着率高いだろう、ということです
また、タトゥーを施した後の炎症を抑えることも、色素の定着率を高めるためには大切と考えられます。炎症を抑えれば、マクロファージがあまり真皮内に遊走してきませんから、色素は繊維芽細胞に取り込まれるでしょう。アートメイク施術後にはロコイド軟膏という弱いステロイドを経験的に外用してもらっているのですが、このことの理論的な裏付けともいえます。
レーザーで色素を除去する際の工夫です。まず、できればピコレーザーが望ましいです。
そのほかに、色素を入れるときとは逆に、炎症が惹起されてマクロファージが集まったほうがいいわけですから、ステロイドの外用や内服はしないほうがいいし、ひょっとしたら、何らかの炎症惹起物質を外用や局所注射、あるいは内服や注射などの形で投与してやると、効果的なのかもしれません。たとえばですが、事前にGM-CSFを投与してやるとか。
 
年末にアメリカに行く用事があったので、飛び込みでタトゥースタジオを見学させてもらってきました。ちょっと怖かったですが、面白かったです。

オーナーの方が、フレンドリーで、ラッキーでした。
たどたどしい英語で見学の交渉しているところ。ちょっとびびってます。
 映画の世界みたいでした。
日本のタトゥー屋さんの現場も見てみたいものです。私は、現在、医療アートメイクに尽力していますが、個人的には、アートメイクやタトゥーの施術は医師や看護師など有資格者でなければならないとは考えていません。
医師が医学的な観点から、色素や施術方法などを管理・監督できれば、実際の施術は職人仕事ですから、技術やデザイン力のある方のほうが向いていると思っています。
交流によってお互いプラスになる面もあると思います。よろしければinfo◎tclinic.jp(◎を@に変える)にご連絡ください。
(2017/01/23 記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継

国産のアートメイク色素を作ります(その1とその2)

その1
メルスモンという、日本製のプラセンタ注射薬があります。日本で私が問屋から仕入れると、下のような青い箱に入ったものが届きます。

 ところが、下のような緑色の箱に入ったメルスモンも存在します。違いは色だけです。さて何が違うのでしょうか?

 青色の箱は日本製で、緑色のものは、メルスモン製薬が韓国の現地法人で作った韓国製です。ただし、中味のプラセンタ(胎盤)エキスは、日本で作られた日本人女性由来のもので、パッケージの色以外はまったく同じものです。

なぜ、中味が同じなのに、韓国製のメルスモンが存在するのでしょうか?
それは、韓国が、外国製の医薬品の輸入を厳しく制限しているからです。
韓国でも、日本のプラセンタ製剤に対する信用は強く、日本製のメルスモンの需要は高いです。しかし、韓国が、国内の医薬品メーカー保護のために、海外製の医薬品の輸入を認めないので、メルスモン製薬は韓国に現地法人を作って、日本製のメルスモンの販売をしています。そういう事情です。

このように、医薬品や医療機器、医用材料に関する考え方は、国によって異なります。日本では、医薬品の個人輸入は一般の方でも自己責任において可能ですが、韓国では、日本のように海外の医薬品を個人輸入できません。税関でストップされます。また、日本では、医師は、海外の医薬品や医用材料を個人輸入して、患者に処方もできますし、個人輸入した材料による施術も可能です。
美容外科・皮膚科のホームページや先生たちのブログを読んでいる方であれば、日本の医師たちが、韓国製や、その他の海外製の材料を用いた施術の講習に、熱心に参加している話が、よく出てくるのに気が付くでしょう。「きっと韓国は美容大国だから、技術や新製品の開発も盛んなんだろうな」その程度に考えているのではないでしょうか。
そうじゃないです。日本製のものは韓国には輸出できないし、韓国製のものは日本に個人輸入できます。医師による個人輸入にあたって、日本の厚労省は安全性に関してノータッチです。
また、日本の厚労省は、韓国よりもこの種の医用材料の認可に厳しいです。その分、海外から医師の個人責任において、輸入して使いたければ使いなさい、そういう方針のために、必然的に日本の美容自由診療マーケットは、韓国をはじめ、海外の製品が席巻しているわけです。

前置きはここまでです。アートメイクの色素の場合、アメリカ製の色素が使用されていることが多いのですが、1)アメリカではアートメイク(タトゥーも)自体が、医療行為とは見做されておらず、州が発行した免許をうけた人が施術している、2)アートメイク用の色素は化粧品扱いである、3)化粧品には、日本のような成分開示の義務がない、といった理由から、施術者は、何でできているかも全くわからない色素を使って施術しています。

厚労省が、「日本ではアートメイクは医療行為であり、医師免許を有さない者の施術は認めない」という見解を明確にして、ボールを私たち医師に投げてよこした訳ですが、無資格者がアートメイクをしていた時代ならともかく、医師が患者に施術するのに、成分内容も不明なものを使っていて良いわけないじゃないですか。

ここに、私たち医師が、自分たちで成分内容のはっきりした色素を作らなければならない大義が生じます。

さて、振り返って考えてみると、このアートメイク色素の問題というのは、現在の日本における美容自由診療の抱える問題の象徴であるということに気が付きました。アートメイク色素に限らず、例えば脂肪溶解注射とか、成長因子エキスとか、成分内容すら開示されないまま、メーカーまたは代理店のうたい文句を信用して、一部の医師が個人輸入で仕入れて患者に用いているものは結構あります。
私は昔から、開業時に購入したレーザーはあえて日本のメーカーの製品で揃えたし、スレッドリフトの糸や針なども、国内で加工してもらって自作で揃えてきました。日本人として、どうせ買うなら国産のものにして内需に貢献したいし、日本の技術を信用しているからです。
別に韓国が嫌いというわけではありません。日本に誇りをもっているだけです。

ここ数年、若い美容系の先生たちが、韓国はじめ外国製の新しい糸だとか、技術だとかと言って有難がっているのを見ると、なんだか情けなくなります。とくに韓国は自国のマーケットが小さく(人口が日本より少なく、経済的にも厳しい)、日本は格好のマーケットです。大して変わり映えもしない二番煎じのような「新製品」を、毎年のように日本の医師に売り込みに来ます。なぜそのことに気が付かないのだろうか?
今回、アートメイク色素を自らの手で調整することで、こういった風潮に一石を投じたいものです。


試作された色素をまぜて調色中です。第四色覚がほしい・・。

☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆

その2
先日、美容外科学会(JSAPS)で、医療アートメイク学会立ち上げに尽力されている池田先生と東海大学の河野先生にお会いして、よもやま話してきました。
河野先生「アメリカでは、レーザーで簡単に消せる色素が開発されたそうですよ。ハーバード大のRox Andersonが考案したそうです。」
私「あのRox Andersonが??」
Rox Andersonは、熱緩和時間の理論を提唱した、Qスイッチレーザーの生みの親です。


早速帰って、調べてみました。
Infinitinkという商品名で、黒と赤とが市販されているようです。一本5mlで25ドルですから、さほど高くもありません。
 

なぜ、このインクが「レーザーで消しやすい」かですが、インクの色素を非常に細かい微粒子にして、あるいは液体状の色素を用いて、それを樹脂で固めてあります。この樹脂はレーザーに反応しやすく、レーザーを当てると砕かれます。砕かれて放出した色素は、細かい微粒子あるいは液体のため、貪食細胞で処理されて、皮膚から消えていきます。なるほど。



ただ、この色素には、気になる点があります。それは、樹脂にアクリルが使われているという点です。


アクリルというのは、モノマーを重合して作るのですが、アクリルモノマーは非常に強い感作物質(アレルギーの元になる物質)です。2013年の「Contact Allergen of the Year」に選ばれたくらいです。写真は、ネイルの際のアクリル(モノマー)で爪囲がかぶれている例。


ポリマーが安全とは言え、ポリマーの中には未重合のモノマーが少量含まれています。レーザーでアクリルを破砕した際に、モノマーが放出されないとは限りません。もっとも、この色素による、アレルギーの症例報告自体はまだ無いようですが。
 
これは、Infinitinkと通常のインクとで、半分ずつタトゥーをしたあと、レーザーで消去を試みた結果のようです。たしかに、Infinitinkの施術側はきれいに消えています。しかし、こんな実験ほんとにしたのかなあ・・?ロシア語だし、Infinitinkの公式なものでは無さそうではあります。


このインク、2009年ころに出来たようで、すでに7年くらい経っています。
当初は画期的と言われて、マスコミ記事もかなり多かったのですが、その後さほど市場を席巻したとまではいきません。
たぶんですが、タトゥーを入れる人って、そもそも後で取ることなんて考えずに入れるからじゃないかなあ・・。もちろん後で後悔する人は多いでしょうが。
取るのに苦心して「消える色素があったらいい」と願っているのは、主に医者のような気がします。だから、アメリカのように、「アートメイクやタトゥーは医療行為ではない」とされている国では、広まりにくいのかもしれないですね。日本のように医師が管理する国では広まるかも。
ただ、アートメイクについては、そもそも2年くらいで自然に薄くなって消えるように浅く彫るのが現在の風潮です。眉のデザインには流行があるし。
Infinitinkが、樹脂をアクリルではなく、私のような皮膚科医が聞いても抵抗のない、何かほかのアレルギーを起こしにくい素材で開発して、なおかつ色素自体も成分開示されると、一番いいと思います。やはり「まず成分開示ありき」ですね。
(2017/01/21 記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継