ヒアルロン酸注射で失明させないために(その3)


前回(→こちらこちら)の続きです。
針を工夫してみました。


右はヒアルロン酸のボックスに付属の専用針です。先端はとがっています。左は今回試作してもらったもので、まったくの円筒状です。とがっていません。
側方に穴の開いているマイクロカニューレとの違いは、製作費が圧倒的に安いことです。また、側方からではなく、先端からヒアルロン酸が出るので、目的とする個所にヒアルロン酸を入れやすく、狙った通りの成形がしやすいと考えられます。

実際に注入する手順ですが、この針はとがっていないので、皮膚に刺さりません。そこで通常の尖った針(赤色)でまず穴をあけて道を作ります。 追記:このときの針は27G、あとでヒアルロン酸を注入する時の針は30Gがいいようです。
 
次に尖ってない針(白色)でその傷から先端を通してやります。失明の原因となる動脈は、この深部にありますが、皮膚を貫けないような鈍針が、動脈壁を貫通するとは考えられないので、動脈を傷つけず、安全に深いところにヒアルロン酸を注入することができます。

 
下の写真は針を進めて深部まで達したところです。注入時には、念のため、左右の眼付近への血流を遮断すべく、指で両側面を圧迫したほうがよいと思います。この手技なら、動脈にささって塞栓を起こして失明するということは起きないでしょう。
 
市販のマイクロカニューレ(→こちら)は、実際に使ってみると、非常に注入しにくいです。最大の原因は、針の長さでしょう。ヒアルロン酸付属の針は12mm長ですが、マイクロカニューレは25mmあります。30Gの細さで25mm、これで粘稠なヒアルロン酸を注入しようとしても、実際にはまず入っていきません。それで27Gとか太めの針に皆さん変更するようなのですが、これでは細かい仕事は出来ません。
 
現在、針のメーカーに特注で、30Gで12mmのマイクロカニューレを試作してもらっています。あと一か月くらいで出来上がるそうです。今回試した円筒状の針に比べると、先端が丸い分、皮下を進むときに抵抗が少ないことが予想されますが。製作コストは高くなります。安全性は、どちらも同じと思うので、コストと使い易さを勘案して、どちらを使っていくか決めようと思っています。

今回、試作に協力いただいている会社は↓です。
http://reactsystem.net/


このブログは、同業の先生方も見ていらっしゃると思いますが、私は、今回試作したり考案したりしている針を、自らのオリジナルな針として企業秘密にしたり、針製作会社と結託して自分の営利のためのビジネスにしたりするつもりはまったくありません。
それは、これが、施術の安全に関することだからです。
私の所属し、日々の糧を頂いている、プチ整形の業界全体の信頼に関わることだからです。上記の会社に電話して「鶴舞公園クリニックの先生がオーダーしたのと同じものを送ってくれ」と注文すれば、私に対するロヤリティーなどは一切なく入手できます。そんなものを付けて価格を高くしたら、私は小銭が儲かるでしょうが、普及しにくくなりますからね。

動脈塞栓→失明という最悪のリスクを100%回避するために、私たちプチ整形に携わる医師全員は知恵を絞って総力をあげて乗り越えていかなければなりません。もし、より良い方法を思いついた方いらっしゃったら、ぜひ教えてください。わたしも引き続き知恵を絞り、また考案したことをここに記していこうと思います。

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ヒアルロン酸の種類についてですが、アラガン社のジュビダーム・ビスタが日本で厚労省の認可を得ました。
これまでは、スウェーデンQmed社のレスチレーンを海外から輸入して使用していたのですが、日本で認可された製剤がある以上、こちらに変えることにします。
例によって仕入れは大量です。正規ブランド品を安く仕入れるには、大量購入しかありません。

 

 一度にこれだけオーダーするクリニックはうちだけだそうです。仕入れが安くなれば、お客様への価格も安く還元できます。


こちらはついでに発注したボトックス。年に数回発注します。ボトックスもうちはビスタの正規購入だけで、ほかは一切使用しないし浮気はしません。昨年のボトックスビスタの発注量は、うちのクリニックが日本で一番多かったそうです。ジュビダームも日本一を目指します。

プチ整形の業界、競争はありますが、その一方で針の工夫で記したように、業界全体で皆で知恵を絞って乗り越えていかなければならない山もあります。
弱肉強食の厳しい世界ではありますが、仁義や規律はあります。それはどこにあるかというと、医師ひとりひとりの心の中にあるのです。私はそう考えます。

その4(→こちら)に続く。
(2014年11月8日記)