アートメイクの安全性について・その2


(これは、鶴舞公園クリニックアトリエのHP用下書き原稿(アートメイク施術)です。ご参考までにUPします。これまでの記事は→その1その2その3その4その5 
 
 アートメイクの安全性について、とくにMRI検査時にどのような問題が生じうるのか?についての考察の続きです。先回の記事は→こちら

 あさこ先生、実際に自分で実験してみました。

 あさこ先生は、既に「MRI safe」と明記されている色素で、のりこ先生に眉のアートメイクを入れてもらっていますが、アイラインは入れていません。

 そこで、アートメイク用の各種色素をアイライナーやアイブローペンシルのように使って、眉とアイラインをお化粧した状態で、1.5テスラのMRI撮影を行いました。
 向かって左側の眉は「Honey Nubrown」で、右側の眉は「Coco Nubrown」、左側のアイラインは「Black Ice」、右側のアイラインは「Midnight Black」でお化粧しました。「Honey Nubrown」と「Black Ice」は「MRIsafe」MRI検査を受けても安全)と明記された色素で、「Coco Nubrown」は不明な色素、「Midnight Black」はラベルに「FeO含有」と表示された色素です。これら4種類の色素でお化粧して、MRI検査を受けてみました。

 医学的関心は二つあります。ひとつは「チリチリ感、灼熱感はあるのか?やけどしないのか?」で、もうひとつはMRI画像にアーチファクト(画像の乱れ)が生じるか?」です。

 ひとつめについて、あさこ先生の感想は、「チリチリ感、灼熱感も何もない。もちろんやけどもしない。」でした。

 そもそも、「アートメイクをしたひとがMRI検査を受けると、やけどすることがある」という危惧は、実際にそういう事例があってのことなのでしょうか?それとも、都市伝説のような流言に過ぎないのでしょうか?

 調べ得た限りでは、1997年カナダでの、下の写真(左)のような赤と黒のタトゥーをおなかに入れた人がMRI検査を受けたところ、「灼熱感を訴え、検査が中断された。タトゥー周りの発赤や腫脹は12時間で痕を残さず回復した。」というレポートが、最初のようでした。
 写真右は、カナダでの報告のタトゥー(写真左)を切除したあと、その皮膚片をぶらさげて、磁石を近づけたところ、なんと吸い寄せられた、という写真です。ということは、これはよほどの強磁性体が含まれた色素であったということで、ほとんど酸化鉄そのものじゃないかと思われます。アートメイクでも酸化鉄を混ぜた色素はありますが、それは黒色の調整のためということであって、磁石にくっつくほどの量ではないでしょう。

 アイラインのアートメイクに関しても、灼熱感とともに、むくみや発赤を生じたというケースレポートがいくつか見つかりました。いずれも数時間、長くても3日後には後遺症を残さず回復しています。「やけど」には軽いものから重症なものまでありますが、アートメイクによるやけどというのは、仮に生じたとしてもこの程度の軽いもののようです。

 
 もう一つは、「MRIの画像にアーチファクトは現れるか?(画像は乱れるか?)」です。

 MRI画像には、スピンエコー(SE)とグラディエントエコー(GE)の二つのモードがあり、スピンエコーにはT1強調画像とT2強調画像とがあります。グラディエントエコーはMRA(血管を描出するモード)に用いられます。アーチファクトが現れやすいのは、GEです。

 あさこ先生のMRI画像では、眉に関してはアーチファクトは生じませんでした。しかし、アイラインについては、下写真のように、MRAGE)画像でアーチファクトが現れました。
 
Midnight Black」(ラベルに「FeO含有」と表示された色素)でアイラインを引いた側で、赤矢印の部分が黒く抜けている(アーチファクト)。

 過去の医学論文を検索すると、同様の報告がいくつかあります。したがって酸化鉄(FeO)を含む色素でアートメイクをした場合、その近くの組織のMRIによる画像診断の妨げになりうることは間違いないです。

 ただし・・眼科の先生にこのMRI画像見てもらったところ、「こんなところ、異常があったら表から見えるから、診療上差しさわりはまったく無いよ。」との見解でした。たしかに、MRIというのは、深いところ、それも骨に囲まれてCTでは描出の難しい個所を見るために用いるものですからね。

MRI safe」の表示のある色素については、アーチファクトは現れないようです。どうしても色調にこだわりがあって酸化鉄を含んだ色素にしたい、という方は仕方ないですが、できればMRI safeのものを使うのに越したことはありません
 また、先回の記事では、「MRI safeの色素は、比較的歴史が新しいので、アレルギーなどの心配を否定はできない」とも記しました。

 もし、アレルギーを生じたらどうしたらいいのでしょうか?化粧品かぶれなら洗い落として以後使わなければいいだけですが、アートメイクの場合は皮膚に彫り込みますから、取り出せません。すると、アレルギー反応がいつまでも続いてしまうのではないか?最悪、皮膚を切り取らなければならないということになりはしないか?という心配が生じます。

 アートメイクの色素は黒いですから、レーザーに反応します。

 レーザーに反応して分解されれば、アレルギーを生じている原因となっている化学構造だ破壊され、アレルギーから解除される可能性があります。

 ですから、もしアレルギー反応を疑ったら、色素をレーザーで消してみるといいでしょう。

 一応、アートメイクの色素がレーザーに反応して分解するかどうかも、確認してみました。

 白い紙に、色素を塗ります(左はMidnight Black、右はBlack Ice)。

これにレーザーを当てます。

 ちゃんと分解されて色が消えます。

ですから、アートメイク用の色素の医学的に安全な使い方としては、

1 MRI safeと表示されたものから選ぶ。

2 アレルギーが疑われた場合には、レーザーで分解する。

ということになると思います。

 あさこ先生、今回の自分の体験を、頭頸部のMRI撮影の機会の多い診療科や、化学療法をよく行う診療科の、東海地方の地方会で、順番に発表していく予定です。

 本当のところをよく調べもせず「アートメイク?そんなものしたら、MRIが撮れないだろ、絶対にダメだ!」という、頭の固い男のお医者さんまだまだ多いでしょうからね、結構なことです。

 ついでに、鶴舞公園クリニックアトリエの売り込みもしてくるそうです。あさこ先生、えらい(^^)。

☆ーーーーー☆ーーーーー☆ーーーーー☆ーーーーー☆
 「女性医師によるアートメイクの会」を立ち上げることになりました。

 これは、ひょんな話なのですが・・

 下のような広告を、地下鉄に出そうとしたら、待ったがかかりました。


 なぜか解ります?

 クリニック(医療機関)が広告をするにあたっては、厚労省の定めた「医療広告ガイドライン」に準拠する必要があります。そのガイドラインを解釈として、「アートメイク」という語を広告に用いたらいけないのだそうです。
 詳しく書くと、1)広告して良い施術名は、保険診療で認められているものだけ、2)アートメイクは保険診療上認められた施術ではない、ということなのですが・・。

 そこで一計を案じました(こういうこと考えるの好きなんです)。「女性医師によるアートメイクの会」というのを作って、その会が「アートメイクは医療機関でやりましょう」という意見広告を出すというので、どうでしょうか?とお伺いをたてたら、「それなら結構です」とOKが出ました。

 ひょうたんから駒な話ですが、これ、別に悪い話ではないです。
 あさこ先生・のりこ先生が中心となって、美容皮膚科系の女医さんでアートメイクを施術する人たちが、情報交換のために仲良しクラブ的に集まればいいのです。あさこ先生、「わかりました、要は部活ってことですね。わたし、大学時代はスキー部でした。」と張り切ってます。

 会則は→こちら。全国のアートメイクをしている(またはこれからしようとしている)女医さん、あさこ先生・のりこ先生と、お食事会しましょう♡。ご連絡お待ちしています。
(2014年2月8日記)

なぜ2回の施術が必要か?

(これは、鶴舞公園クリニックアトリエのHP用下書き原稿(アートメイク施術)です。ご参考までにUPします。これまでの記事は→その1その2その3その4
 
 アートメイクは、約4週間の間隔をあけて、2回の施術が基本です。なぜ、「2回」なのでしょうか?
 デザインや色調の微調整のため、ということもあるのですが、それ以上に実は大きな理由があります。それは、「表皮のターンオーバーが4~6週である」ということです。

 皮膚は、表皮と真皮に分けられます。表皮というのは、再外層のよろいのような構造で、外界に対するバリアとして働きます。真皮はコラーゲンなどが豊富で、ふっくらした柔らかさを保ちます。
 表皮では、たえず細胞が分裂増殖していて、基底層から最外層の角層まで、約4~6週間かけて押し出されていきます。いわゆる「垢」は、表皮細胞が最終分化して角層となったあと、剥がれ落ちたものです。
 
 アートメイクは、色素を針で打ち込んでいくわけですが、このとき、直後には、色素は角層から真皮浅層まで入り込みます(下図)。

(黒丸が色素)

 数日すると、まず角層の色素(というよりも染色された角層)が、剥がれ落ちます。薄いかさぶたが剥がれるような感じです。そのため少し色が薄くなります(下図)。

 


 ついで、約4週間(刺激を受けたために若干ターンオーバーが早くなるかもしれない)かけて、表皮が入れ替わります。すなわち表皮内に入り込んだ色素は全部取れてしまいます。真皮に入り込んだ色素のみが残ります(下図)。

 


 真皮は、表皮のように外に剥がれて入れ替わるということがないので、真皮に入り込んだ色素はそのまま残ります。この色素は、2~3年かけて消えていきます(酸化鉄を含む色素の場合はピンク~オレンジ色に変わっていく)。

 ※ ※この2~3年かけて消えていく根拠を「真皮の浅いところに入っているからだ」と説明されていることがありますが、そうではなく、色素の黒色調が、カーボン粒子ではなく、高分子量のオーガニック(有機系)の場合は、生体内でゆっくりと低分子へと分解されていくからだと考えられます。浅くても深くても、真皮まで入った色素は簡単には排出されません。その証拠に、酸化鉄の赤色は長期間残ります。

 以上のような理由で、アートメイクの仕上がりというのは、色素が入った直後ではなく、約4週間経ったあとで判断しなければなりません。

 実際の例です。

術前


アートメイク直後


4週間後


 直後の色調があまり濃いと、なかなかアートメイクに踏み切れないです。上(二番目)の写真程度が限界かな?といったところです。4週間めにはかなり薄く自然な仕上がりになっています。

 上は、うまくいった例ですが、実際には、4週間たったら、ほとんど全部色が取れてしまった、ということもありえます。
 それは、表皮の厚さには、個人差・性差・年齢差があるからです。

 下図は、若い人と年配の人の皮膚の断面を並べたところです(左が若い人、右が年配の人)。年配の方では表皮の厚さは約半分です。


 表皮の厚い方には、やや深く、薄い方には浅く、針を打たなければなりません。ある程度は経験的に解りますが、それでも第1回目の針の打ち方では浅く、4週間経つとけっこう取れてしまった、ということは、あり得ます。それで、4週間後に一度見せていただいて、色の入り具合を見て、追加打ちするということです。

 このあたりの考え方は、施術者によってもいろいろありますが、当クリニックでは、最初は控えめに浅く、4週間後に仕上がりを見て、2回目の打ち具合で調整する(色が薄くなってしまった場合は一回目よりも深くしっかりと打つ)という方針でやっています。なぜなら、最初からしっかり深く針を打つと、痛いし、直後の仕上がりがくっきりすぎて、数日間は「海苔を貼りつけたような」感じになってしまうからです。最初は浅めにやってみて色が乗れば、それに越したことはありません。

 その一方で、「せっかくお金を払ってアートメイクしたのに、4週間くらいしたらすっかり薄くなってしまった」では、クレームの元です。ですから、施術者によっては、痛みや数日間のダウンタイムを覚悟していただいた上で、最初からしっかりと入れてしまう人もいます。考え方ですね。
(2014年2月3日記)