紫外線計について


 うちのクリニックには紫外線計が設置してあります。センサーは屋上にあります。開院のときに知人の電気屋さんにお願いして作っていただいた特注のものです。今日は、この数字の見方の解説です。

紫外線には、A波(UVA)とB波(UVB)とがあります。表示されているのはA波で、このときの数値は5W/m2です。

 B波は、ハワイなどの強い日差しによって、赤くひりひりと日焼けするようなときの原因波長です。通常、街の生活において問題となるのはA波です。A波はメラニンの産生を亢進させて、肌を黒くします。A波は、赤くひりひりとした激しい日焼けは来たしませんが、B波よりも波長が長い分、皮膚の奥深くまで入って、光老化の原因となります。

 さて、日焼け止めクリームには、SPFや、PAといった指標がついています。
 SPFというのは、B波に関する数字です。SPFの数字1は、日本の夏の浜辺での20分間のB波を抑える、と覚えておくといいです。SPF30ということは、20分×30=10時間持続しますから、夏に海水浴にいくような場合には、SPF30程度のものを朝1回つけておけば、赤くひりひりとした日焼けからは免れます。

 一方、PAのほうですが、この見方を、ご存知の方は少ないんじゃないでしょうか?街の実生活や、光老化防止の観点からは、PAのほうが重要です。

 PAは、日本化粧品工業連合会によって、下のように定められた値です。
(画像をクリックすると拡大します)
 A波は、上に記したように、メラニンを動員して肌を黒くする作用があります。A波を肌にあてたとき、2~4時間後に黒ずみが生じるような、最小限の紫外線量をMPPDといいます。PA+の化粧品は、この紫外線量を2~4倍まで、許容量を大きくしてくれるわけです。

 MPPDの値は、個々人によってかなりのばらつきがあります。また、測定に用いる紫外線源(波長分布が異なる)によっても違ってきます。

 個人差や光源による差がありすぎるからなのでしょうか、MPPDを調べて論文にした文献は、意外と無いのですが、上海での調査では、24.00±6.19J/cm2、あるいは 9.98±2.22J/cm2だったようです(Yuan Chao et.al.,Chinese journal of aesthetic medicine 2009-09)。
 ちなみに、このMPPDやPAというのは、日本人など黄色人種においてのみ当てはまる概念です。白人は日に焼けても黒くならないし、黒人ははじめから黒いし。だから、外国製の日焼け止めクリームには、SPF値は記されていても、PA値は表示されていません。

 例えば、MPPDが、24J/cm2の人がいたとしましょう。W=J/Sですから、

24J/cm2=24×10^(-4)W・S/m2=60×60×24×10^(-4)W・h/m2=8.64W・h/m2

 8.64÷5≒1.7hから、上の表示の5W/m2の紫外線量の下では、MPPDが24J/cm2の人は、1.7時間以内の外出であれば、肌が黒くならずにすむ(日焼け止めクリームは要らない)ということになります。

 この方がPA++のクリームを外用すれば、この時間を4~8倍に延ばせますから、6.8~13.6時間外出しても大丈夫、ということです。

 もっとも、このMPPDというのは、個々人によって異なります。上の文献の一番小さな値=9.98-2.22=7.76J/cm2は、とても黒くなりやすい人と考えていいです。そのような方を想定して計算してみると、
 
(1)5W/m2の条件では0.6時間以内の外出であれば、黒くならない(日焼け止めクリーム不要)。

(2)PA++のクリームを外用すれば、2.4~4.8時間に延ばせる。PA+++のクリームならば、4.8時間以上に延ばせる。
 ということになります。ですから、自分が日に焼けて黒くなりやすいタイプか、なりにくいタイプかで、選ぶべき日焼け止めのPAの+の数は変わってきます。

 ・・ここまで記して、スタッフに読んでみてもらったんですが、「数字ばかり並んでるけど、結局自分のMPPDがわからないんじゃ、意味がない。全然関心沸かない。」という、きびしい批評でした(^^;。

 話を簡単にすると、

(1)「今日は、紫外線あまり出てないみたいだ。外出時に日焼け止めクリーム塗らなくもよさそうだわ。」
(2)「今日はちょっと数字が高いわね。朝一回日焼け止めクリーム塗っておきましょう。
(3)「今日はかなり紫外線出てるわ。いつもよりPAの+が多いものを使いましょう。念のため、不用な外出は避けて、お昼休みに一度塗りなおしましょう。」

 紫外線計の数字を、この3パターンの判断の目安にするといいです。
 「曇りの日でも意外と紫外線強いからご注意!」とかって、よく雑誌に書いてあったりするじゃないですか。ああいうの読むと、今、紫外線強いのか弱いのか判らなくなるでしょう?数字ではっきり出てれば迷わずに済みます。
 PAの+を増やす代わりに、PA表示のあるファンデーションを重ね塗りするのも有効でしょうね。
 これなら、紫外線計の数値、役に立ちそうかな?(^^;
 
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 紫外線にまつわる小話をいくつか。

(その1)
 もう15年ほど前になりますが、勤務医時代に、あるNPOに同行してスリランカに行きました。
当時まだ内戦中で、ゲリラの出没する貧しい村の、雨水貯留タンクの衛生状態確認(細菌検査)がわたしのミッションだったのですが、皮膚科医だし、赤道直下のスリランカはさぞかし紫外線が強かろうと思って、市販のポータブルの紫外線計を持っていきました。

 どのくらいだろうと計ってみたら、測定上限オーバーでした。100W/m2以上あったということになります。なるほど、こっちの人は色が黒いはずだわ。
原色の花々、青い透き通るような空、実に美しいところではあるのですが、紫外線は半端じゃないです。真ん中のおばあさんは、帽子を3つ重ねていますが、まあこれはファッションであって、紫外線が強いから3つかぶってるわけではないようですが(^^;。

(その2)
 ロシアにはじめて行ったのは、金沢大学理学部の先生にさそっていただいた、バイカル湖の水質調査の同行です。
これは、バイカル湖から流れてくる川から煙が上がっているところ。バイカル湖というのは世界の淡水の1/5を蓄えているくらい大きな湖で、熱容量が大きいので、夏に暖められた水が冬でも凍らず川の水が流れています。外気温は-30℃なので、流れる川の水から細かい氷粒が霧のように舞い上がります。ちょうど湯気があがっているように見えます。
その折に仲良くなったアラ先生。右に座っているのは、アラ先生の患者のアンジェリーナさん。アンジェリーナさんはその後日本に来て、うちのクリニックで糸入れました。

 紫外線の話に戻りますが、アラ先生、「日本製の、この日焼け止めクリームがいいから、日本で安く買えないか調べてくれ」と、帰るときにわたしに依頼されました。

 たまたま、私の知人が研究員として働いている化粧品会社だったんで、問い合わせたところ、

「先生、これはですね・・日本では売られてないんですよ」

「それは、わかるけど、同じ内容のものがあるでしょう?それを送ってあげればいいと思うんだけど。」

「いや、これはね、確かにうちの会社の製品なんですが、マレーシアの工場で作られてそのままロシア向けに輸出されてるんです。それと先生、これ、たしかに『サンスクリーン剤』と書いてはあるんだけど、日焼け止め成分はまったく入ってないんです。」

「・・・?」

「ロシアってほら、日差し弱くて、紫外線とっても弱いじゃないですか。だから、日焼け止め成分入れる必要ないんですよ。ただイメージ的に『紫外線対策してお肌を守りましょう』って書いてあると、ロシアでも女性の心を惹きつけるってことなんでしょうね。僕も初めて見ました。いい勉強させてもらいました。」

 ああ、なるほど、ロシア人の肌はとても白いけど、日焼け止めクリームに日焼け止め成分はいってなくても問題ないほどの紫外線なら、そりゃあ、肌は白いのだろうなあ・・。

とても納得しました。

 ただ、アラ先生には・・そのまま正直に説明するのも憚られたので、「ロシアの女性用に作られた特別な製品だから、残念ながら日本では手に入らないみたいです。」とお伝えしました。

 日焼け止めクリームの正しい使い方は、紫外線の量を測って、それに応じてPAの+の数の多いもの少ないものを使い分ける、または重ね塗りする、ということですね。
 紫外線があまり出ていないのに一生懸命塗っても、とくにいいことはありません。財布のお金が減るだけです。また、個人個人で、黒くなりやすさは異なります。うちの紫外線計の数字を目安にしていただいて、ご自分に合った間隔・回数を把握するのがよいです。
 紫外線計、いまは、玄関横にありますが、6月くらいには、隣のビルの屋上に移設して、遠くからでもよく見えるようにする予定です。お役立てください。
 ※現在移設準備のため紫外線計撤去中です。しばらくお待ちください。
(2012年4月4日記)