HPリニューアル原稿:上まぶたのたるみ取りについて

 厚労省の方針で、美容外科のHP中の、単純な「before→after」の写真解説が、今年中に規制されて出来なくみたいです。誤解を招きやすいからだそうです。
 それで、HPのリニューアルに向けて、基本的な事項をまとめていこうと考えました。写真は入りますが、単純な「before→after」でなく、むしろ詳細な経過写真と解説なら、趣旨から考えて許されるのではないか?と今のところは考えています。
 HPのリニューアルのためなので、ところどころ、現在のHPやブログの写真と重複しています点、御了解ください。

 上まぶたというのは、毎日毎日、またたきしますから、皮膚は伸び縮みして、少しずつ引き伸ばされていきます。最初は、たるんだ瞼を、おでこの筋肉でもって一生懸命持ち上げようとして、どうにもおでこが疲れます。まつげに皮がかぶさってくると、もともとの二重のラインが隠れてしまったり、視界が狭くなってしまいます。わたしの母親などは、まぶたを切る前は、「毎朝よいしょっとまぶたを自分で持ち上げてやらないと目が開かない」とこぼしてました。

 対処は単純なことで、伸びてしまった皮膚を切り取ってしまえばいいです。と、簡単に記しましたが、なかなか勇気も要るし、切る手術は腫れや内出血が付きものですから、それなりの準備というか、周囲の人たちに色々言われなくても済むようなタイミングが大切です。

 よくあるのが、転職することになって日にちが取れたから、ですが、開腹手術で一週間入院することになったので、入院前日に切って欲しい、といった方も結構いらっしゃいます。二年計画三年計画で虎視眈々とチャンスを待っているひとは多いです。

 たるみの程度によっては、二重埋没法のテクニックでもって、切らずに対処できる場合もあります。伸びた上まぶたの皮膚を、今ある二重のラインよりやや上で押し込み、そこで埋没縫合する方法で、押し込んだ分皮膚が畳まれて、ちょうど少し切り取ったと同じ効果を出します。ただ、これは、たるみの程度が軽い場合の一時的な方法なので、いずれまたかぶさっては来ます。

 たとえばこの方の場合、
印の位置(元々の二重のラインより少し上)で二重埋没を行うと、
こんな感じでうまく左右が揃います。
 一時的とはいえ、数年は切る手術を先送りに出来ます。切る手術に比べてダウンタイム(腫れや内出血)がほとんどないので、向いている方には、有用な選択肢です。

かぶさってきた皮膚を切り取る手術の経過は、腫れや内出血が少なければ下のようです。
 術前。
直後。
4日後。
1週間後、抜糸したところ。
皮膚を切り取って縫うだけなので、基本、そんなに腫れる手術ではありません。ただ、個人差があるのと、人によっては、上まぶたの脂肪のふくらみが大きく、ただ皮膚を切り取っただけでは、ボッテリ感が出てしまいそうな場合には、皮下脂肪あるいは眼窩内脂肪を切除するのですが、その場合は、腫れが強くなります。
 また、腱膜性眼瞼下垂がある場合には、眼瞼挙筋まで露出して、短縮縫合(タッキング)する場合があります。その場合もやや腫れが強いです。
 (脱脂する場合も、挙筋短縮する場合も、価格は両目で12万円です。とくに追加料金はかかりません。)

 上の写真のかたは、実家の近所の大工さんで、開業してすぐの頃に、上まぶたの手術のモニターになってもらいました。大工の棟梁ですから、職人さんです。こちらも、一種の職人ですから、半ちくりんな仕事をして軽蔑されてはいけない、と緊張した記憶があります。

 また、上の写真では、黒い糸を使って単結節縫合をしているので、塗った糸が見えますが、この数年は透明糸でロシアで覚えた連続縫合で縫っているので、糸はまず見えません。
 次の症例は知人の女医さんです。どんなに拡大しても糸は見えないと思います。
 術前。
術直後。
24時間後。腫れのピークです。少し内出血もあります。
3日後。やや腫れが退いて来ました。内出血は溶けて周辺に黄色く広がって消えていきます。

1週間後。抜糸したところです。
1ヶ月後。
腫れが強くて皮膚が硬いうちは、二重のラインが消えたり三重になったりすることがありますが、皮膚が柔らかくなるにつれて、穏やかに回復して予定した結果になっていきます。

 上の女医さんの経過は標準的・平均的な感じで、実際には、もっと内出血したり腫れが強かったりする例もあります。・・ただ、そういうケースは、HPに載せにくいです。意図的に良い経過のケースだけにしているということではなくて、ご本人の了解を取り難いのです。
 これが、例えば、非常に稀なアレルギーとかの合併症であれば「あなたのケースは、とても稀なことで、学会等にも報告して今後に役立てたいから御協力ください」と、私も医者の端くれとして言えるのですが、内出血や腫れといったそれほどは珍しくない合併症について、「あなたは内出血や腫れが強いので、HPへの写真掲載に御協力ください」とは、頼みにくいです。勢い、こういった美容外科のHPに使用される写真というのは、内出血や腫れの少ない例が多くなります。

 腫れの強かったケースを一例だけお見せ出来ます。なぜお見せできるかというと、私自身の写真だからです。
術前。
「別に切らなくてもいいじゃないか」とおっしゃる方もいるでしょうが、私はおでこに横じわが出来やすく、定期的にボトックスを打っています。52才になります。二重のラインは保たれているものの、おでこで上まぶたを上げられないので、結構まぶたが重くて疲れていました。
 こういう場合には、眉の下でたるみを切るといいです(眉下切開といいます)。
 うちは、ときどき色々なお医者さんが見学にいらっしゃいます。ある日、東京から形成外科の先生が来たことがあって、昼休みに、眉下切開の話になって盛り上がって、「じゃあひとつ僕の眉下を切ってくれ」ということになって、その場で切ってもらいました。

 直後です。
形成外科の先生なので、黒糸で単結節縫合です。10年目で専門医も取得していらっしゃいます。左右差も無く綺麗な仕上がりです。
 切開線については、私ははじめ、もう少し外側上がりを自分で引いたのですが、「眉毛は大切だから温存したほうがいいですよ」と言われて外側下がりに書き直されてしまいました。たぶん私の眉毛が薄いのを気遣ってくれたのでしょう。

 翌日です。腫れが強いです。
もっとも、乗りでやった手術なので、クリニックの仕事は平常通リです。お客様たちはびっくりしたようですが、関心は強く、なんと、わたしのこの目を見て、同じ上まぶたのたるみ取り手術の予約をしていった方がこの日に2人いました。恐いもの、怖ろしいもの、っていうのは、実際に間近に見て確認してしまうと、逆に安心というか、不安が解消されるのかもしれません。

 3日目です。腫れは翌日がピークで3日くらいで退きはじめます。

一週間目です。自分で鏡を見て抜糸しました。

2ヵ月後です。傷跡はもうわかりません。
術前の写真と比較すると、よく見ると眉が下がって、おでこのシワというか、筋肉の緊張に伴う皮膚のよれみたいな感じが解消しています。
 自覚的には、本当に切った直後から、「おでこ楽ちん♪」です。やって良かったです。
 形成の先生の名誉のために強調しておきますが、腫れが強かったのは、手技や腕ではなくて、わたしのまぶたが腫れやすかったからです。腫れというのは、リンパ流の鬱滞ですから、解剖学的個人差・部位差が大きいです。予測ができません。

 価格は目のきわでも眉下でも、両目で12万円です。上に記しましたが、脱脂・挙筋短縮は、たるみ取りの結果をよくするために私の判断で行うことがありますが、とくに追加料金は頂きません。
 ただし、最初から眼瞼下垂の症状が強く、これは保険適応のケースだと判断される場合には、保険診療をしている形成外科の先生にご紹介することにしています。保険診療で丁寧にやってくれる先生がいるのに、わざわざ自由診療の私の手術を受ける必要はありません。
 眼瞼下垂を伴わない、こういった上まぶたのたるみは「偽性眼瞼下垂」と呼ばれていて、保険適応がありません。しかし、ニーズは多いです。だから、わたしは自由診療でやっています。
 時間はだいたい30分~1時間。静脈麻酔といって、点滴で眠っている間に終わります。起きたまま目の周りを長時間手術されるのは怖いし緊張しますから、静脈麻酔は有難いですよ。ただし挙筋を調整した場合は、左右のバランスを確認するため、一度起きてからまた眠ります。
(2012年1月31日記)



HPリニューアル原稿:二重まぶたについて

 厚労省の方針で、美容外科のHP中の、単純な「before→after」の写真解説が、今年中に規制されて出来なくみたいです。誤解を招きやすいからだそうです。
 それで、HPのリニューアルに向けて、基本的な事項をまとめていこうと考えました。写真は入りますが、単純な「before→after」でなく、むしろ詳細な経過写真と解説なら、趣旨から考えて許されるのではないか?と今のところは考えています。
 HPのリニューアルのためなので、ところどころ、現在のHPやブログの写真と重複しています点、御了解ください。

当クリニックでは、二重まぶたは、埋没法(切らずに糸で留める方法)で施術しています。仕上がりが気に入らない場合に、糸を外すと元に戻すことができるからです。

 少し哲学的(?)な話になりますが、私は美容外科における「美容」と「若返り」を別物だと考えています。
 美容外科において「美容」は自分以外のものになりたい願望、「若返り」は本来(昔)の自分に戻りたい願望、を扱います。前者は自己否定、後者は自己肯定の心理に由来します。「若返り」は心情的に共感しやすいのですが、「美容」については、遊び・冒険の範囲であれば可愛いくてお付き合いできますが、それを超えた領域については、私には荷が重過ぎます。なので、極力、「美容」的な施術は、リバーシブル(原状回復可能)な施術に留めるよう自戒しています。
 これは、技術的・手術手技的な問題ではなく、自分以外のものに自分をを変えたい、という心の重さを受け止めるだけの覚悟が、私に無い、ということです。そういう考え方を否定しているのではありません。私の側の問題です。
 若いときから、わたしは大抵の方を、「美容」的には、お綺麗だ、と受け入れてしまうところがありました。無意識のうちに他人の「良い所」ばかり探す癖があります。
 これは、性格的には「いい人」と言えると思いますが、美容外科医の適性としては疑問です。技術に加えて、美とか美人に対する厳しい意識を持った医師のほうが、そりゃあ向いているでしょう。
 まあ、しかし、この辺はアバウトなところもあって、「死ぬ前に一度でいいから鼻を高くしてみたい」というおばあちゃんに、プロテーゼを入れてあげたり、そういうことは全然抵抗ないんですけどね。

さて、埋没法二重の手技ですが、わたしはアネシス美容外科の水野力先生が考案した「瞼板上端固定法」で行っています。

水野先生は、この方法を発表したことで、美容外科学会賞をいただいています。どこが優れているかというと、目の裏側(粘膜側)に、糸が露出しないので、角膜が決して傷つきません。なおかつ、固定は瞼板に止めるので、しっかりくっきりした二重に仕上がります。コンタクトレンズも直後からOKです。
(論文中のイラストです。上は皮膚側、下は粘膜側で、上まぶたの水平断を表しています。糸は皮膚側・粘膜側とも埋没させます。)
(まぶたの横断面です。3が瞼板上端固定法です)

実際の施術後の経過ですが、例によってうちのスタッフの写真で解説します。
術前。向かって右(左目)は二重ですが、左(右目)が一重です。左目に合わせて右目を施術します。
皮膚側の糸入部に印をつけます(青点)。この2点が、上イラストのa,bに当たります。
施術直後です。左右が揃いました。
目を閉じるとこんな感じです。針のあとが2点ついています。
翌日です。やや腫れが強いです。糸でくくったところから瞼のきわまでの間がむくみます。このスタッフはよく腫れるひとで、通常ここまで腫れは強くないですが・・。最大に腫れてこんな感じとご理解ください。
目を閉じたところです。針のあとが2ヶ所見えます。
4日目です。
目を閉じたところ。
一週間です。腫れが退いてきました。
目をつむったところ。針穴は痕跡程度です。
2週間です。腫れはすっかり退きました。
針穴はまったくわからなくなりました。

まれに(5%未満)針をさしたところが毛細血管に当たって、内出血することがあります(目に見えない小さな血管なので、腕とは関係なく避けようのない確率的な事象です)。その場合は2~3週間退くまでにかかります。アイシャドウなどでカモフラージュするといいと思います。
瞼板上端固定法の場合、糸が外れるということはまずありませんが、もし外れた場合は、1年以内であれば、無料で再施術します。ときどきあるのが、「控えめな奥二重にしたい」というので、そのようにデザインして二重にしたところ、欲(いい意味の欲です)が出てきて、「もう少し広げたい」という訴えです。この場合は、すみませんが、再度料金発生します。料金は片目4.5万円、両目で9万円です。
上のスタッフは一点留めですが、必要に応じて二点・三点留めします(料金は変わりません)。「必要」というのは、瞼が厚ぼったい場合とか、たるみが強く、一点で持ち上げただけではドレープ状になってしまう場合です。たいていの方は、一点で大丈夫だし、留め数が少ないほうが自然で腫れも少ないです。
埋没の二重は、安くやっているところもありますが、たぶんですが、使用する針糸の質が違います。うちの場合、たとえば、麻酔に用いる針は33Gです。これ以上細い針は私は知りません。当然ですが、細いほうが痛みも腫れも少ないです。知りうる限りのベストの材料を用いて施術しています。

余談ですが、水野力先生は、わたしと同じ名市大の卒業です(向こうが2年上)。ご縁があって、わたしは、開業前に何度か水野先生の手術の見学にうかがいました。
開業後に一度だけ、私の開業祝ということで、飲みに行ったのですが、帰りに金山駅のスターバックスで話をしていて、なんと、双方のじいさん同士が兄弟ということが判ってびっくりしました。またいとこすなわち1/8の血縁になります。
私は、自分の親戚縁者に医者は1人もいないと思ってたんで(高校卒業して農家の跡継いでるみたいな親戚ばかりです)、ちょっと嬉しかったです。
その後、もう長いことお会いしていないのですが、この二重埋没を施術する毎に、手技を開発して教えてくださった水野先生には感謝しています。
(2012年1月29日記)

HPリニューアル原稿:カーボンレーザーピーリングについて

 厚労省の方針で、美容外科のHP中の、単純な「before→after」の写真解説が、今年中に規制されて出来なくみたいです。誤解を招きやすいからだそうです。
 それで、HPのリニューアルに向けて、基本的な事項をまとめていこうと考えました。写真は入りますが、単純な「before→after」でなく、むしろ詳細な経過写真と解説なら、趣旨から考えて許されるのではないか?と今のところは考えています。
 HPのリニューアルのためなので、ところどころ、現在のHPやブログの写真と重複しています点、御了解ください。

 レーザーカーボンピーリングは、いわゆる「照射系」といわれる施術の中で、唯一うちのクリニックが採用しているものです。照射系というのは、レーザーやフラッシュ光線、ラジオ波などを、低出力(やけどしない程度)にお顔全体にあてることで、ダウンタイム無くゆっくりとお肌の若返りを計る施術です。 

 歴史は古く、1999年のjournal of cutaneous laser therapyという専門誌に論文が掲載されています(1:p23-27, Skin resurfacing utilizing a low-fluence Nd:YAG laser)。私は、開業前の勉強中にこの論文を読んで、これは良さそうだから是非やろうと考えて、クリニックの内装設計時に、わざわざ、セントラルクリーナーシステムを取り付けました。
 カーボンレーザーピーリング時の煙は、ホース→差込み口を介して、屋外に設置されたモーターで排気されます。

 カーボンローションにレーザーを当てると、結構煙が出ます。良い施術でレーザーがあれば可能であるにも関わらず、採用しているクリニックが必ずしも多くないのは、この煙で内装が汚れるからだと思います。うちのクリニックの基調色は白ですが、セントラルクリーナーで排気を屋外機へと誘導する設計のため、室内が汚れません。カーボンレーザーピーリングを行うために設計したクリニック、と言ってもいいくらいです。
 
 実際の施術の様子はこちら。
           (画像または→こちらをクリック)

 まず、お顔全体にカーボンローションを外用します。カーボンローションというのは、炭素粒子をミネラルオイル(=ベビーオイルのこと)に懸濁したもので、当院では自家製です。なぜ自家製かというと、出来合いのカーボンローションは、粒子径が大きいからです。
 カーボン粒子の大きさは、毛孔の引き締めに対する作用を考えたときに重要です。毛孔の直径はだいたい50μmくらいですが、出来合いのカーボンローションの粒子径は必ずしも均一ではなく、だいたい20μmのようです。これでレーザーピーリングをしますと、下図左のような感じです。
カーボン粒子は毛孔のふちに引っ掛かって、そこでレーザー光に反応して爆発してエネルギーに変ります。この刺激が毛穴のお掃除と、それに続く引き締め効果へとつながります。大きな粒子でも効果が無いわけではないのですが、より粒子径の小さなカーボン粒子を用いたほうが(上図右)、しっかりと、毛穴などの、凹凸の凹部に作用します。なので、当院では、カーボン粒子の専門メーカーから極小の粒子径2μmのものを取り寄せて、自作しています。粒子サイズにこだわっているのは、たぶん日本ではうちだけだと思います。

 さて、この皮膚の上にカーボンを塗って焼くという作業は、上に記した毛孔への効果のほかにも、いろいろな意味があります。
 カーボンを塗らずに低出力のレーザーを皮膚にあてると、その多くは、角層・表皮の浅いところを透過して、表皮の一番深い層(基底細胞層)および真皮上層で吸収されます。この部に茶色~黒色のメラニンが多いからです(下図)。

一方、皮膚表面にカーボンを塗って、低出力のレーザーを当てると、レーザー光の多くは、このカーボンに吸収され、熱や振動、二次的に発生する様々な波長の強い光といったエネルギーに変換されて角層や表皮の浅い部分へと作用します(一部は、カーボンにトラップされずに、深いところに達します)。

レーザーは単一波長ですが、カーボンに当たったときに発生する二次的な光の波長は様々です。ちょうど、フラッシュ光線のようなものです。ですから、レーザーカーボンピーリングというのは、フラッシュ光線(フォトフェイシャルなど)とレーザーとを混ぜて照射しているようなものです。カーボンを介した「間接照明」みたいな感じですね。

 さて、当院では、レーザーカーボンピーリングの直後には、ビタミンCのイオン導入を必ずします(5回で10万円という価格は、イオン導入とのセットです)。その理由を解説します。
 上図で、角層は、ダメージを受けて、ミクロのレベルで「ひび」が入ったような状態になります(見た目の変化は無いですが)。

(画像または→こちらをクリック)

 そもそも、ビタミンCというものは、なぜイオン導入するかというと、ビタミンCというのは、電気的にマイナスに帯電していて、一方、角層もマイナスに帯電しているので、ただ塗っただけでは、電気的に反発して、ほとんど皮膚に入っていきません(下図)。それで、ビタミンCを皮膚に塗って、それをさらに上から強力なマイナスの電位でもって無理やり押し込めていく、それがイオン導入です。

 ところが、カーボンレーザーピーリングを行った直後というのは、角層にミクロのひびが入ったような状態になっており、ビタミンCが入りやすくなります。一時的にゲートが開いているわけですね。そこにさらにイオン導入してやれば、とても導入効果が高いです(下図)。

(参考:この種のレによるmicrodermabrasionがビタミンCの皮膚への浸透を高めることは基礎によっても確認されています(Journal of Investigative Dermatology (2003) 121, 1118–1125, Lasers and Microdermabrasion Enhance and Control Topical Delivery of Vitamin C)。)

 さらに、ビタミンCのイオン導入というのは、上の動画でご覧いただくと解るように、皮膚をビタミンCの溶液を沁み込ませたコットンで拭き取るような作業の繰り返しですが、このとき、ひびの入った角層は、無理なく剥がれてきます。「ピーリング」です。

 下図は、レーザーカーボンピーリングをした後で、イオン導入をした際に、順番に交換したコットンを左から並べたものです。これだけの量の古い角質が、ピーリングされて、その分、お肌の色は、施術直後に明るくなっています。

 下段の黒いガーゼは、カーボンローションです。色の違いから、上段のコットンに付いてきたのが、カーボンの残りではなく、剥がれた角質細胞だということがわかります。顕微鏡で拡大しても、確かに角質細胞とわかります。

 以上のように、レーザーカーボンピーリングおよび、その直後のビタミンCイオン導入というのは、いくつものメカニズムがうまく組み合わさって、総合的に「くすみ・しみ・美白(透明感が出てきます)・肌の張り・毛穴の引き締め・にきび」などに作用するものです。肝斑・戻りじみにも有効です。

 とても巧妙で、バランスのとれた施術なので、開業前に惚れ込みました。うちのスタッフたちも大好きで、全員が毎月欠かさず続けています。全ての方にお勧めですよ。
(2012年1月27日記)

HPリニューアル原稿:しわ取りーヒアルロン酸について

 厚労省の方針で、美容外科のHP中の、単純な「before→after」の写真解説が、今年中に規制されて出来なくみたいです。誤解を招きやすいからだそうです。
 それで、HPのリニューアルに向けて、基本的な事項をまとめていこうと考えました。写真は入りますが、単純な「before→after」でなく、むしろ詳細な経過写真と解説なら、趣旨から考えて許されるのではないか?と今のところは考えています。
 HPのリニューアルのためなので、ところどころ、現在のHPやブログの写真と重複しています点、御了解ください。
 
 ヒアルロン酸というのは、透明なジェル状の物質です。
 当院では、スウェーデンのQ-med社のレスチレインしか使いません。いちばん歴史が長く、定評のあるブランドだからです。
 1mlのシリンジに入っています。動画をご覧ください。
            (画像または→こちらをクリック)
これをシワの溝に打って、シワを広げて伸ばしていくわけです。あるいは、鼻やあご、法令線やこめかみなどの深いところに入れてボリュームを出していきます。

 わたしの写真で具体的に解説しましょう。
 左目(向かって右)が、三重になって癖じわがついています。これを右目(向かって左)に合わせて同じような二重にしようと思います。
下の写真は左目を大きく開いて眉を吊り上げたところ。癖じわ(固定じわ)ですから、お顔の筋肉を動かしても、変りません。
三重の、上のラインのところにヒアルロン酸を打っていくと(鏡で見ながら自分で打ちました)、凹んでいるところがヒアルロン酸で押し広げられて平坦になるので、しわが取れます。左右が揃いました。
これがヒアルロン酸の仕事です。

☆PRP療法について

 PRP療法と言って、自分の血液から採取した血小板濃厚血漿を、注射する施術がありますが、これは、施術の仕方が、ヒアルロン酸のように注射器で打っていくので、ヒアルロン酸に似たものだと思い込んで、比較する方がいますが、ヒアルロン酸とPRP療法とは、機序も結果もまったく異なるものです。例えば、PRP療法で上の写真のように三重を二重にするような結果は絶対に出せません
 
 PRP療法というのは、血小板農厚液を注射するわけですが、血小板そのものには、ヒアルロン酸のようなボリュームを出す力(体積)はありません。血小板が放出する成長因子の作用に期待して、だいたい2ヵ月後の効果を予定します。なおかつ、血小板は、注入されたところで必ずしも成長因子を出すわけではなく、組織に傷があるところ、痛んだところに接触して、そこで成長因子を放出します。あるいは活性化後のPRPを注射する方法であれば分子量が小さいですから周辺に拡散します。ですから、結果がピンポイントに出ません。非常に不確実なものです。欧米では、スポーツ選手の痛んだ靭帯を速く治す目的で、患部に注射することが多いです。

 わたしは、PRP療法というのは、ヒアルロン酸など、ボリュームを出すフィラーの仲間ではなく、むしろ、レーザーやフラッシュ光線による皮膚の若返りの仲間だと考えています。繊維芽細胞に働きかけてコラーゲンの産生を促すなど、何がしかの効果はあるでしょうが、それは注射を受けたあたりの皮膚に張りがでるといったような、全般的な「面」としての効果です。ヒアルロン酸に似ているのは、注射器を使って注入するという点だけです。

 ヒアルロン酸を上手に打てない医師が「ヒアルロン酸はもう古い。これからはPRP療法の時代だ」などという、的外れで誤った情報をブログに書いているのを見たことがあります。惑わされないでください。

 下は、ヒアルロン酸を、うちのスタッフの目の下の窪みに打ったことろです。

(注:ヒアルロン酸は下図の赤丸のように打ちました)
眼の下のクマのような凹みが、ふっくらとなだらかになった(左→右)のがお解りでしょう。これと似た効果であれば、PRP療法で出せるかもしれません。しかし、わたしは、現時点ではまだまだヒアルロン酸のほうが優れていると考えており、PRP療法を自院のシワ取りメニューに加えようという気になりません。それは、PRP療法は、造形的に、結果が安定しないからです。

 PRP療法の結果は、2ヵ月待たなければなりません。患者の訴えは、非常にデリケートです。私は脂肪注入もやらないのですが、PRP療法をやる気が起きないのは、脂肪注入をやらない理由に似ています。脂肪注入は注入した脂肪がすべて定着するわけではなく、数ヶ月で1/3~2/3に減ります。最終的な結果を予想しにくいです。

 ヒアルロン酸の場合は、注入して直後に、結果がはっきり出ますから、偶然が左右しません。自分の仕事の結果がはっきり出ます。わたしは、そういう施術のほうが好きです。ピンポイント的なお客様の満足につながるからです。

☆アクアミドについて

 アクアミドというのは、非吸収性のフィラー(注入物)で、ヒアルロン酸と組み合わせて使うことが出来ます。
 安全性や問題点については、以前まとめました(→こちら)。この見解は現在も変っていません。
 ヒアルロン酸に比べると、アレルギーも起こしにくく、歴史も古いです。注意点は、非吸収性なので、多量に入れると、年月とともに、重力でもって下がってくるので、多く入れすぎないこと、です。

 下図はわたしの母親の写真(このとき70才)ですが、
 (画像をクリックして拡大すると解りやすいです)

 左の写真は施術前です。
 中は、法令線と口横の深いしわに、アクアミドを注射したあとです。
 右は、そのあと、口周りの細かいしわをヒアルロン酸で埋めたところです。

 7年後(77才)が下図(左)です。
(画像をクリックして拡大すると解りやすいです)
アクアミドは非吸収性なので、アクアミドを入れた法令線や口横のへこみは埋まっています。しかし、全体に、しぼんだような細かいシワが増えています。ここにはヒアルロン酸がいいです。右図はヒアルロン酸で整えたところです。

 アクアミドというのは、このように、ある程度年齢のいった方の、深いしわや凹みに、ヒアルロン酸で整える前の基礎工事的に用いるのがよいと考えます。ヒアルロン酸よりも粘調度が高いので、細かい仕事には向きません。また、一番気をつけなければならないことは、量的に入れすぎないことです。目安としては、入れる個所にもよりますが、お顔全体で2~3mlくらいかなあ(人生を通してトータルでの量でです)。

 過去にロシアや中国で起きたアクリルアミド製剤のトラブルは、豊胸目的などで、大量(数十~数百ml)に入れた場合に、重力で下がって移動してしまうことによって起きています。少量であれば、アクアミドの成分であるアクリルアミドは、組織に水分を引かれて半乾燥状態になるので、安定してそこに留まっています。
 アクアミドというのは、正しく使えば、かなり便利で有用だと思うのですが、おかしな使い方をされて、評判を落としてしまったようなところがあります。ネットでは、「アクアミド=非吸収性フィラー=悪」っていう、何かおかしな脊髄反射的な噂が立っていたりして、私も読んだことがありますが、そんなに悪い製品じゃないですよ。仕入れ値は、ヒアルロン酸より高いし、利益率高くないので、私としては別にアクアミドを擁護する義理もメリットも無いのですが、ちょっとアクアミドが可哀想な気がして擁護して書いています。
 FDAの認可が遅れているのは、そりゃあそうでしょう、デンマークの製品です。アクアミドを認可しても、アメリカの利益になりません(アメリカってそういう国です)。

☆合併症について

 ヒアルロン酸の重大な合併症は二つあります。
1)アレルギー
2)壊死(小動脈塞栓)
です。
 重要な問題なので、こちら(→ここ)に詳述してあります。ご参照ください。

☆価格について

 ヒアルロン酸(レスチレイン)0.5mlで3万円、1mlで5万円が目安です。
 1mlを越えると、2本目(計2ml)は4万円(計5+4=9万円)、3本目(計3ml)は3万円(計5+4+3=12万円)です。
 もっとも、これは、最初の見積もりによるので、例えば、わたしが、「あなたは5万円でいいでしょう」と見積もって、実際に打ってみたら1mlでは足らなくて2本、3本と入れざるを得なかった場合、それでも最初の見積もり通り5万円です。

☆麻酔について

 当院では、テープや塗り薬の麻酔は使っていません。以前は使っていたのですが、ヒアルロン酸注射の痛みは針の痛みではなくて、深い部分に注入されるときの圧の痛みなので、あまり鎮痛効果が期待できず、かぶれることもたまにあるからです。

痛がりのかたには、笑気麻酔や静脈麻酔を行います(申し出てください。別料金はかかりません)。
(2012年1月24日記)