ヒアルロン酸とリポレーザーの使い分け

 法令線と口横のたるみは、互いに合わさって、年齢を感じさせる元となります。たるみは、糸での引き上げ(アプトス)も有効ですが、ここでは、ヒアルロン酸とリポレーザーとの組み合わせでの改善例を示します。

 術前です。

 術直後です。鼻横から口角にかけての法令線に、ヒアルロン酸を注射して、「へこみ」を盛り上げたところです。

その後ときどきヒアルロン酸追加で維持していました。下の写真は上の写真から2年後で、法令線の「へこみ」は浅いのですが、口横のたるみのために、少し年齢を感じられるようになってきました。

 糸での引き上げ(アプトス)で持ち上げてやることも有効なのですが、この方の場合は、糸にどうしても抵抗感があるとのことなので、リポレーザーで下がっている脂肪を焼くことにしました。
 下図はデザインです。

 半年後です。やや改善していますが、もう少し軽くしたいとのことで、2回目施術しました。(下々図は2回目のリポレーザーのデザイン)
 

 下の写真は2回目のリポレーザーから、さらに半年後です。口横のたるみが軽くなり、若返った印象に整いました。

 以上、ヒアルロン酸とリポレーザーの口周りへの使い分けについての解説でした。
 「へこみ」はヒアルロン酸で埋めて、「ふくらみ」はリポレーザーで削る、ってことですね。彫刻や人形制作のお顔の仕上げみたいなものだと思います。ほんのちょっとした違いで、お顔は映えます。
(2011.2.24記)

ヒアルロン酸注射の合併症と対処


 プチ整形というのは、Lunch Time Surgery とも呼ばれるぐらいで、手軽さが売りです。
 しかし、医療行為である以上、合併症が起きることはあります。非常に頻度が小さいとはいえ、合併症についても説明しておかなければなりません。しかし、あまりこれを強調しすぎると、せっかくの「お手軽さ」というメリットが色あせてしまいます。難しいところです。
 それで、合併症についての説明とともに、万が一そのようなことが起きた場合にどう対処すればいいか?を併せて解説しておくことにしました。これなら、合併症怖さにヒアルロン酸注射が受けられなくなってしまう、というひとは、少なくなるかもしれません。

(1)アレルギー

 ヒアルロン酸は、生体内に存在する物質ではありますが、注射で入れるヒアルロン酸は個々人が持っているヒアルロン酸とは、細かなところで分子構造が異なります。それで、これを異物と認識して、アレルギー反応を起こしてしまうことが、非常にまれではありますが、起こり得ます。
対処としては、ヒアルロン酸の場合は、ヒアルロニダーゼという溶解注射がありますので、これを赤く腫れている部に注射するといいです。残存しているヒアルロン酸は24時間で溶けてしまうので、これに対するアレルギー性の炎症もその後数日で収まります。

 (注:このとき、生理的に存在する自分本来のヒアルロン酸も溶けてしまうのではないか?と心配される方がいるかもしれませんが、大丈夫、生理的な細胞間質としてのヒアルロン酸は溶けてもその後24時間ほどで完全に再合成されます。ターンオーバーが早いのです)

 ただし、ヒアルロニダーゼを注射することで、しわを埋めて奇麗にしてくれていた魔法も一緒に解けてしまいます。そのあとは、考え方にもよりますが、もう一回ふっくらさせたい、という方の場合には、アクアミドというヒアルロン酸とはまったく異なる分子構造のフィラーでもって充填するといいと思います。
写真は左から、
1)眼の下と法令線にヒアルロン酸を入れた部分がアレルギー反応で赤く腫れているところ。
2)ヒアルロニダーゼ注射5日後、ヒアルロン酸は溶けて、炎症がまだ少し残っている。
3)1ヵ月後、炎症も退いたが、ヒアルロン酸でふっくらさせていた部分や法令線が戻ってしまった(「魔法が解けた」状態)。

4)アクアミドでふたたびふっくらさせたところ。
  
 なお、アクアミドというのは、非吸収性のフィラーなので、安全性を危惧する意見もあるようですが、この場合なぜアクアミドがいいかというと、アクアミドというのは、ヒアルロン酸よりもアレルギーを起こしにくいからです。HPのほうにも解説してありますが、歴史はヒアルロン酸よりも古く、トラブルになるとすれば、大量に入れた場合(豊胸目的など)の重みが原因です。
 コラーゲンを入れたらどうか?というアイデアもありだと思いますが、これは吸収はされるだろうけれども、アレルギーはヒアルロン酸よりも多いのではないかなあ。ヒアルロン酸とコラーゲンには交差反応性はまったくありませんから、理屈の上ではOKですが、もしコラーゲンでアレルギーが生じた場合には、溶解注射もありませんから、非常にやっかいな話になるような気がします。
 しわ・へこみは、たるみが重なって(覆いかぶさって)強調されていることもありますから、アプトスなどの糸でのたるみ引き上げをやってもよいです。

(2)壊死(虚血性変化)

 ヒアルロン酸は粘調なジェルで、これを眉間や鼻に注射した場合に、細い血管に入ってこれを閉塞し、その血管によって栄養されている皮膚を壊死に至らしめることがあります。
 壊死とは、その名の通り組織が死んでしまうことを言い、黒灰色変化を経て皮膚の欠損を生じ、再建手術が必要となる重篤な合併症というイメージがあると思いますが、医学的には、軽症で後遺症を残さない虚血性変化をも「壊死」と表現することが多いです。
 壊死を起こさないように、眉間や鼻の周囲にヒアルロン酸を注射するときには、血管の走行をイメージした上で、細心の注意(皮膚の反応を見ながら少量づつ打つということ)を払います。それでも下記のような虚血性変化が生じることはあります。
 
写真は上から、
1)ヒアルロン酸注射前、
2)1ヵ月後、
3)1年後、
です。

 虚血した部は、最初赤く感染症を起こしたように腫れて痛みますが、徐々に色素沈着のみとなり(上図の真ん中)、後遺症を残さず奇麗になりました。
 このケースでは、炎症後の線維組織で皮下組織が裏打ちされることによって、それまで悩ましかったシワが虚血性変化を起こした側では無くなっています(最下図)。
 経過は長く、治癒までに数ヶ月~1年かかりますので、もちろん大変な合併症です。辛い状況ではありますが、それでも、このケースのように、まったく悪いことばかりでもないかもしれない、ということは多少の気休めにはなるかもしれませんので、心に留めて、時間経過を待ってください。

 医者の言い訳がましく聞こえるかもしれませんが、アレルギーにしろにしろ虚血性変化にしろ、医者の手技の巧拙とはまったく関係なく確率的に生じます。この点が、わたしたち美容外科・プチ整形医にとっては、とても怖いところです。どんな名医であっても避けることは出来ません。アレルギーは予測できないし(注1)皮膚虚血の原因となる細小血管は目に見えないからです(注2)。

 注1:上で紹介したアレルギーの方の場合、数年にわたって定期的にヒアルロン酸注射を受けていた方です。花粉症が、あるとき突然発症するように、アレルギーというのは、突然成立します(「感作」と言います)。

 注2:虚血性変化は、ヒアルロン酸が血管内に入るためではなく、血管近傍に注射されることによることによって、外から一過性に圧迫されることによっても生じうると考えられます。その場合は直後の皮膚の色調の変化では確認できません。ヒアルロン酸注入後の周辺の浮腫のピークは直後ではないからです。

 アレルギーにしろ、虚血性変化にしろ、はっきりした頻度の統計はありません。うちのクリニックの場合、昨年一年間にヒアルロン酸(レスチレイン1ml)を500本くらい仕入れていますから、施術数は年間数百人です。開院して8年になりますから、わたしの経験値からは数千例に1~2例くらいの頻度ということになります。各クリニック、どこも同じような状況で、経験値はどの先生も1~2例、多い先生でも数例ではないでしょうか。単純に施術数に比例すると思います。
 お手軽ではあるけれど、このプチ整形、ヒアルロン酸に例をとりましたが、リスクはゼロではありません。非常にまれな、あるいは、まったく予期しなかった合併症が生じることはありえます。この点、じゅうじゅうご了解のうえでお越しください。万が一リスクに当たってしまった場合には、上記2例のように、リカバリーに全力を尽くします。
(2011.2.24記)

 (3)失明 これは最も重篤な合併症なので別にまとめました→こちらこちらこちらこちらこちら