肝斑の治療・その1


 肝斑の治療にあたって、大切なことは、
  1.本当に肝斑か?
  2.肝斑だけか?

の2点です。

 肝斑と区別しにくい目周りの色素沈着には、普通のシミ・ソバカスや、あざの一種である「遅発性太田母斑様色素斑」というものがあります。どちらもレーザーで治療可能です。
  
 肝斑は、レーザーで取ることはできませんが、肝斑にまぎらわしいこれらの色素沈着を肝斑と誤診されていたり、肝斑のほかにこれらの色素沈着が混在していて、肝斑の悪化を心配するあまり、レーザーで取れるものも取れないと諦めている場合がございます。 まずは、診察させていただいて、レーザーで取れるものがあるならば、それを取っていく、これが第一歩です。
 
 さて、肝斑である、または、肝斑だけ、の状態になったら、次の作戦は2つあります。
 1.レーザーカーボンピーリング+ビタミンCイオン導入
 2.トレチノイン・ハイドロキノンを用いた外用治療

です。
 
 ここでは、2.のトレチノインとハイドロキノンを用いた肝斑の治療について説明します。

【トレチノイン】
(作用)表皮細胞の分裂をうながし、ターンオーバーを早める。 

 したがって、上手にトレチノインが作用すると、皮がボロボロ剥けてくる感じがします。皮膚からケシゴムの粉がとれてくる感じです。 同時に赤みが出ます。皮は剥かないでください。ついつい剥きたくなりますが、剥くと赤みが増します。この赤みが、トレチノインの作用のバロメーターで、ほんのりと赤みが出る程度に、御自分で濃度を選んで外用してください。(0.1%、0.2%、0.5%が用意されています)
 肝斑の茶色の、薄いところに低濃度、濃いところに高濃度のトレチノインをつけるという方法も可です。

【ハイドロキノン】
(作用)メラニンの合成を阻害し、あらたにメラニンが産生されないようにする。

  ハイドロキノンは、トレチノインと異なり、皮膚に赤みを出す作用はありませんが、ときにハイドロキノンが合わず、かぶれる人がいます。この場合は、ハイドロキノンで赤みが出ます。また、かぶれた場合には、かゆみが出ます。いったん、ハイドロキノンの外用を中止してください。
トレチノインの赤みか、ハイドロキノンのかぶれか、わからないときは、二の腕の柔らかいところに少しハイドロキノンだけを付けてみてください。赤くかぶれるようであれば、ハイドロキノンが合わないということです。
 表皮の細胞は、常に分裂新生しており、だいたい4週間~8週間くらいで入れ替わります。 メラニンが沈着して茶色くなっている表皮に、トレチノインを塗って、分裂を加速させ、新たに出来てくる表皮細胞には、メラニンの合成を抑えるハイドロキノンを作用させて、色を抑える、というのが、この療法の仕組みです。

写真1 (治療前)

写真2 (2週間後) <0.1%トレチノイン外用中>

 まずは、0.1%のトレチノインで開始します。朝晩一日二回、トレチノインとハイドロキノンを、茶色いところに、重ね塗りします。トレチノインを先に塗ってから、ハイドロキノンを塗ります。お化粧水は、つける前でも、後でも、かまいません。化粧水を後にすると、お薬が流れて広がることがあるので、お薬を後にしたほうが無難でしょう。

 トレチノインによる赤みの反応には個人差があります。0.1%ですぐ赤みが出る人もいれば、0.5%を数日続けても赤みが出てこない人もいます。上からお化粧して、なんとか隠れるぎりぎりまで、赤みを出すように、濃度を調節してください。

写真3(4週間後)<0.1%トレチノイン外用中>

写真4(6週間後)


  0.1%トレチノイン外用中ですが、反応(赤み)が悪くなってきたところです(ときどきこういうこともあります)。0.2%に濃度を上げます。
写真5(8週間=2月後)<0.2%トレチノイン外用中>

 ほどよく赤みが出て、茶色は赤みに隠れて目立たないほどになりました
 これ以降は、ハイドロキノンのみの外用にします。通常、トレチノインとハイドロキノンの重ね塗りを4週間~8週間くらい続けたあと、ハイドロキノンのみとします。トレチノインを止めてハイドロキノンのみにすると、赤みはすぐに(1~2日)消えます。そのあとは、トレチノインとハイドロキノンを重ね塗りしていたのと同じくらいかやや長めの期間、ハイドロキノンだけを塗り続けてください。 ハイドロキノンだけの期間を短くすると、リバウンドで、肝斑の茶色が前より濃くなってしまうことがあります。

写真6(3月後) <ハイドロキノン外用中>

ハイドロキノンのみの外用にして1ヶ月です。ハイドロキノンのみにすると赤みは出なくなります。
写真7(4ヶ月後) <ハイドロキノン外用中>

ハイドロキノンのみの外用にしてから2ヶ月経過したので、ハイドロキノンも終了します。以上で1クール終了です。このあと、1~2ヶ月間休薬してお肌を休めたあと、2クール目を再開します。それから、ふたたび、前回と同じく、トレチノインとハイドロキノンの重ね塗りに戻ります。以上を繰り返していくことで、肝斑はゆっくりと薄くなっていきます。
(2007年12月1日記)